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interview
大屋弘一・大阪府都市整備部下水道室長  【平成21年9月28日掲載】

都市を守る 都市基盤を支える 下水道

全国を先導する高度処理

浸水対策に大きく貢献 雨水増補幹線 


生活環境の改善、浸水の防止、河川などの公共用水域の水質保全など、国民の生活に密接した都市の基盤施設として、 また大切な社会資本の整備として大きな役割を果たしている下水道事業。特に近年は、ゲリラ豪雨による浸水対策、また環境負荷の削減に必要な資源の 有効利用など、多方面にわたって下水道事業に対する期待も大きい。そこで、大阪府が全国を先導して促進を図っている流域下水道の高度処理、 雨水増補幹線などについて、府都市整備部下水道室の大屋弘一室長に府の現状や進捗状況、将来の展望について聞いてみた。 (水谷 次郎)

---はじめに大阪府の流域下水道事業の概要や現状からお話をお聞かせ下さい。

大屋室長

府は昭和四十年に寝屋川流域で、全国に先駆けて流域下水道事業に着手して以来、府内市町村と連携を図りながら下水道整備を推進してきました。 その結果、平成十三年度末に都道府県で初めて、府内44全市町村(合併により現在43市町村)で下水道を供用開始しました。 下水道計画区域は、面積が府域の約61%を占めており、そのうち約70%が流域下水道、残りの約30%が単独公共下水道となっています。 人口では、約880万人のうち99.8%を下水道で計画しており、そのうち約57%が流域下水道、残りの43%が単独公共下水道となっています。 流域下水道としては、猪名川、安威川、淀川右岸、淀川左岸、寝屋川、大和川下流、南大阪湾の七流域12処理区で事業を実施しています。 現在、「高度処理の推進」や「雨水増補幹線の整備」に積極的に取り組んでいるところです。

---流域下水道事業は、大阪府が発祥の地なんですね。下水道普及率も高いと聞いています。

大屋室長

平成二十年度末現在で93.2%まで上昇し、前年度に比べて0.5ポイント増加しました。これは、全国平均を大きく、 約20ポイントも上回り、大阪府は東京都、神奈川県に次いで三番目の高い普及率となっています。下水道整備人口では、平成十九年度末の 約823万4000人から二十年度末の約828万7000人と5万3000人増えています。さらに下水道整備面積も、 十九年度末の約7万9000ヘクタールから二十年度末の約7万9900ヘクタールへ、約900ヘクタール広がりました。

---下水道の普及率では、南大阪はまだ低い水準にとどまっているように見受けられます。この原因を教えて下さい。

大屋室長

府域を大きく三つに分けると、北大阪が98.4%、東大阪が92.6%、南大阪が82.7%の普及率となっています。 南大阪の低い普及率は、下水道整備のスタートが遅かったことによるものです。下水道整備の大きな目的は、汚水処理対策と浸水対策です。 北大阪や東大阪は、土地が平坦であるために浸水が昔からしばしば起こっていました。このため、都市化の進展とともに浸水対策として早急に 下水道を整備する必要がありました。一方、南大阪は比較的傾斜が多く浸水が起こりにくい地形でした。市街化が遅れたことも普及率の低さにつながっています。 南大阪でも、特に岸和田以南の泉南地域は、まだ62.9%の状況です。

---泉州沖に関西国際空港が出来てからは、次第に市街化も進んできているように思います。

大屋室長

そうですね。これからは、南大阪のレベルアップを図っていかなければならないと思っています。

---それでは、具体的に「高度処理」とはどのようなものか、また府の取り組みについてお聞きします。

大屋室長

河川や海域に設定されている生活環境保全のために維持することが望ましい水質の基準である「水質環境基準」を達成するため、 有機物(BOD、COD)や浮遊物(SS)に加えて、赤潮の原因となる栄養塩類やリンの除去を目的として、以前から採用されてきた下水処理よりも良質な処理水を得る方式が 「下水道高度処理」です。府はこの高度処理に二十年前から取り組んでおり、現在、12箇所の水みらいセンターにおいて一部または全ての下水を高度処理しています。 今後は、いま建設中で平成二十二年度の供用開始を目指している寝屋川流域下水道のなわて・竜華水みらいセンターをはじめ、他の処理場においても 増設や更新時にも高度処理の導入を図っていきます。

---高度処理施設の整備状況はいかがですか。

大屋室長

平成二十年度末で64.0%。また平成十九年度末で高度処理人口普及率は全国平均15.7%を大きく上回る48.7%で 全国二位、高度処理人口は422万1000人で全国一位を誇っています。

---大和川の水質は、一級河川ではかつて全国ワーストワンの河川と言われていました。現在はその汚名を返上し、徐々に水質も改善されています。 生活排水の浄化にも高度処理は大きく貢献しているのですね。

大屋室長

大和川は国が管理している河川であり、国をはじめ奈良県、大阪府の関係自治体が一体となって水質改善に取り組んでいるものです。 私も最近はアユが遡上してきたという話を聞いています。大和川に限らず、豊かできれいな水環境を創出し、泳げる川や海を取り戻し、街に水辺を蘇らせるためにも、 高度処理施設の増設、既存施設の高度処理化、寝屋川流域などでの合流式下水道改善対策の実施を進めています。 水質環境基準の達成状況は、河川が改善傾向、大阪湾は横ばいの状況です。

---下水道整備のもう一つの大きな役割、「増補幹線の整備」について詳しく教えて下さい。

大屋室長

増補幹線は、ゲリラ豪雨など昨今の増大する雨水流出量に対応するために整備しているものです。これは、既存の下水管の能力不足を補う 第二の下水管として計画したもので、河川管理者が建設を進めている人工の地下河川へ放流する幹線です。

---下水道整備は、府民の安心・安全も支えているわけですね。寝屋川流域の整備には、特に重点を置いておられると…。

大屋室長

はい。下水道により集められた雨水は、ポンプによって強制的に河川に排出されますが、寝屋川流域の河川の出口は京橋口(旧淀川合流点)ただ一箇所しかなく、 また、流域の市街化が著しいため、河川断面をこれ以上広げることも困難な状況です。こうした厳しい条件の中、流域住民の暮らしを浸水被害から守るため、 「寝屋川流域整備計画」を策定しました。現在、この計画に基づき新たな治水施設の建設など、下水道と河川、流域が一体となった総合的な治水対策を実施しています。 こうした中で増補幹線は、寝屋川流域下水道の雨水排除レベルを従前の五年から十年に対応させるため計画したものです。 将来は、増補幹線に集められた雨水は地下河川に接続して放流することになっています。

---なるほど。いま完成している幹線を教えて下さい。

大屋室長

貯留管として暫定供用している幹線は、門真寝屋川(二)増補幹線(一部約1.3キロメートル、貯留量約3万6000立方メートル)、 中央(二)増補幹線(全線約1.5キロメートル、同約4000立方メートル)、 大東(二)増補幹線(一部約1.0キロメートル、同約1万6000立方メートル)です。 門真寝屋川(二)と中央(二)の増補幹線は、平成十二年に貯留運用を開始。また、大東(二)増補幹線も平成十六年に貯留運用を開始しています。

---最後に室長の今後の抱負をお聞かせ下さい。

大屋室長

いまお話した高度処理や雨水増補幹線の着実な推進に加えて、焼却炉の改築・更新事業実施時には、省エネやCO2削減に取り組むとともに、 施設の長寿命化を図っていきたいと思っています。事業費削減の中で、職員が夢を持てる新しい事業展開も模索したい。 都市を守る「下水道」、都市基盤を支える「下水道」を積極的にPRしていく所存ですので、今後ともご協力のほどよろしくお願いします。

---きょうは大変お忙しい中、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。下水道整備がさらに進展することを願っています。

大屋弘一(おおや・ひろかず)
昭和52年大阪大学工学部環境工学科卒。大阪生まれの大阪育ちで、公害全盛期に育ち、 同大学では水処理を専攻。52年4月大阪府庁入庁し、その後、4年間を除き全て下水道関連の職場に勤務。日本下水道事業団、日本下水道協会、 (財)大阪府下水道技術センターに通算8年出向。これまで「21COSMOS計画」(21世紀を目指す大阪府下水道整備基本計画)策定(平成3年度)、 竜華水みらいセンター、なわて水みらいセンターの計画決定に従事(平成6、7年度)。 JR久宝寺駅前の一等地に計画した竜華水みらいセンターは上部利用が図られるよう、水処理施設を全地下式に計画した。


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