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樋口金物(株) 金本善成専務  【平成30年05月31日掲載】


地域に溶け込む」

事業承継M&A、本格始動から1年


社長命令「すべての祭り、会合に参加せよ」

大阪から若手駆り出す

地元同士、ウィンウィンでの成長めざす


(前回のつづき)

■鉄鋼二次製品の拡販は新生樋口金物として最初のチャレンジ。金物資材の現場密着型営業で培ってきた経験と知見を、今後は鉄鋼製品販売にも活かしていく。

 「そして次の段階では、親会社の主力商品である異形棒鋼を売っていかないといけません。M&Aによるシナジー効果を最大限に発揮するためです。しかし、異形棒鋼は数百トン、数千トンという規模の商売です。金物資材と比べ、数量も金額もはるかに大きくなります。それでも樋口から買ってくれるのか。そこが課題です。実際、異形棒鋼の場合、殆どのゼネコンでは本社の購買部や資材部が発注権限を持ち、主に鉄鋼商社を窓口に調達しています。地域の建材店という立場では土俵に立つことさえ難しいと思います。
 だからこそ、2年目を迎える今年は大阪鐵材が経営を引き継いだことをもっと周知していく必要があります。親会社の信用力や商社としての実績、実務面での特長などを顧客に理解してもらって、『樋口金物は100%子会社であり、地元企業でもある。だから同レベルの対応ができる。異形棒鋼も安心して任せてください』と一社一社説得を試みる。これぞまさに『にんじゃ作戦』、長期的に取組むテーマです」

■一方、異形棒鋼のような汎用品は大手商社との価格競争も厳しい。滋賀県の市場の現状は。

 「滋賀県には優良な地元ゼネコンが多く、近畿の他県と比べ、それなりに仕事量もあります。人口推移をみても、市場はまだまだ魅力的だと思います。そのため、既に東京や大阪、九州の大手鋼材流通業者が滋賀県に進出、営業拠点や物流倉庫を展開し始めています。競争環境はますます激しくなっていくでしょう。
 対して大阪鐵材グループでは、あくまで樋口金物を主体として滋賀県でのシェア拡大を目指す方針です。創業100年のこの会社をしっかり引き継ぎ、創業家である樋口家の持ち味を温存することを第一としながら、商社機能を有する総合建材販売店へとステップアップを目指す。これは本社や親会社主導型の競合他社とは全く異なるアプローチです。価格競争のみに奔走する気はありません」

■ところで、営業の仕事で多忙の中、地域活動にも注力されている。

 「地域の地場産業の継続とさらなる発展に大阪の企業が貢献する―。これがМ&Aで樋口金物を引き継いだわれわれの重要な使命、責任でもあります。当然ながら、大阪資本の会社になったからといって地域社会との関わり方は一切変えない。むしろ強化します。例えば、県の無形民俗文化財に指定されている『水口曳山まつり』。毎年4月に開かれるこの祭りには私はもちろん参加しますが、大阪鐵材の若手社員も駆り出します。彼らと一緒に樋口が属する旧河内町の法被を着て、地域の企業として何日も前から祭りの準備を手伝い、曳山もひきます。今年は隣町の旧天王町が幹事でしたが、当社に『若い人を出してほしい』と声がかかり、喜んで応じました。
 また、豊臣秀吉の命で築かれた水口岡山城の復元整備を目指す『(社)水口岡山城の会』にも入会しました。ここまでいくと樋口はもとより、親会社の事業とも全く関係ないのですが、この会は商工会青年部のOBを中心とする有志が設立したもので、毎年、巨大バルーンで岡山城を再現するイベントを開催し、多くの市民や観光客がここ水口町を訪れます。こういう地道な地域活動こそ、新・樋口ならではの十八番といえます」
 「このほか、甲賀市商工会、水口納税協会などの会合や行事にもほぼ全て出席し、幹事役も自ら手を挙げて引き受けています。昨年は社長に海外出張許可をいただき、商工会青年部の一員として海外視察で香港にも行ってきました。正直、このような活動には相当時間が取られるうえ、日々の業務に直結するものではありませんが、梁川社長からは『地域活動には全て顔を出せ。営業の仕事と同じくらい力を入れてやれ』と厳しく言われています。『地域に溶け込む覚悟をしっかり示せ』と。今では地域の人とのつながりもどんどん広がり、あわせて当社に対する見方も変わってきていると思います。初めの頃は『樋口会長は知っているが、お前は一体誰だ』と。周囲の反応は概ねそんな感じでした(笑)」

■最後に、樋口のメインバンクの滋賀銀行が仲介する本格的なM&Aというのは全国的にも初めてということですが、勝算はありますか。

 「幸い、今回のM&Aの影の立役者である滋賀銀行は京滋エリアでのステータスが高く、営業面や資金面で全面的にサポートしてくれています。さらに滋賀県域における中小企業の事業承継のモデルケースとして全店会議など様々な場面で紹介してくれていると、水口支店の田中支店長から伺っています。同行がまとめ上げたM&Aとしては、当社が最も相乗効果を追求できる可能性を秘めていると自負しています。それだけに期待の大きさを感じます。また、樋口会長も古くから取引のあるオーナー系企業の方々から『事業が継続できて良かったですね』と声をかけられるそうです。
 もっとも、企業というのは成長しなければ存続できません。鉄鋼製品の販売強化や営業エリアの拡大など成長に向けた課題は山積していますが、あくまで当社の基本姿勢は地域に溶け込むことです。あるべき姿としては、あらゆる地域活動を通して『経営体制は変わっても樋口は地元の企業だ』と認めてもらうこと。そのうえで主要取引先である地元ゼネコンらと京滋エリアでウィンウィンの関係を築いていくことです。同じ地元企業同士として、将来、どれだけ多くの会社とお互い発展し得るパートナーシップを結んでいけるか。さらに地域に貢献できるか。それが今回のM&Aの成否を分けるポイントでもあります。樋口金物の看板に恥じないよう、必ず実現してみせます」



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