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関西分譲住宅仕上業協同組合(KSK)草刈保廣理事長  【平成30年01月22日掲載】

関西発で大規模修繕工事の正常化を

「オープンブック」「プロポーザル」の普及に全力

地域活性化へ地元業者の参入も促す


 国土交通省の資料によると、築40年超のマンションは平成28年末時点で63万戸。これが10年後には約3倍の172.7万戸、20年後には333.6万戸となり、老朽化マンションは今後急増する見通しだ。それに伴い、大規模修繕工事の大幅な市場拡大が期待される。その反面、これら工事をめぐる不正問題が一昨年末に明らかになり、マスコミで大きく報じられるなど、業者に対しては非常に厳しい目が向けられている。
 大規模修繕工事の施工業者で組織する「関西分譲住宅仕上業協同組合」(KSK)の草刈保廣理事長に業界の抱える課題やこれからの取組みなどを聞いた。

■草刈理事長はこれまで約4000のマンション管理組合を訪問し、それを踏まえ、大規模修繕工事の問題点を指摘されています。

 「まず何より、発注方式を見直す必要がある。現在、大規模修繕工事では責任施工方式と設計監理方式が主流だが、これらの場合、発注者と請負者ともにプロであることから阿吽の呼吸で仕事を進める。管理組合は置き去りにされがちだ。そのうえ、施工の状況や適正価格が見えにくく、陰で不正が横行しやすい」

■どういった不正行為ですか。

 「例えば、大規模修繕工事の多くは、その難易度の割に公募条件が非常に厳しい。具体的に言うと、経営事項審査(P点)で900点以上、資本金1億円以上、3年間で元請として15件以上を受注した実績など。これでは中小業者は到底参加できない。むろん、表向きの理由は『倒産リスクの回避』だが、その実、一部コンサルタントは意中の業者に落札させるために高いハードルを設定する。これが談合の温床。そうやってバックマージンをかすめ取る。マンションの修繕積立金は狙い撃ちされている」
 「業界としても、このような談合やバックマージンといったコンプライアンス違反は根絶しなければいけない。今のままでは、発注者の信用を失い、業界関係者は市場からの撤退を余儀なくされる。もっとも、2016年末にはコンサルへのバックマージンの問題が明るみになり、マスコミでも大きく報道された。正常化への道がようやく開けた。また、コンサルだけではなく、管理組合および管理会社、施工業者も姿勢を正す時期にきている。それぞれが原点にかえることだ。そうすればウィンウィンの関係が築ける。ある大手業者は脱談合を宣言し、既に実行に移した」

■業界で不正が常態化したのは何故か。草刈理事長は過去の経緯をよくご存知です。

 「バブル崩壊で建設市場が急速に縮小する中、マンションの改修工事というのは仕上業者にとって非常に有望なマーケットだった。そんな中、われわれ塗装業者が中心になって市場開発を行い、特に日本塗装工業会に所属する一部の関東系の業者が積算方法や仕様書などのルールづくりを主導した。25年ほど前のことだ。折しも、塗装業者は『総合仕上業に脱皮しなければ生き残れない』と考え、業界挙げて舵を切っていた。その後は、関東の塗装業者が全国の市場をおさえていった」

■なるほど。

 「私は塗装業として50年のキャリアを有し、仕上業のプロだと自負している。日本塗装工業会の役員も長く務め、業界事情は熟知している。そこで敢えて言えば、このような市場ルールづくりの結果、不正行為が繰り返されたのだと思う。1999年には塗装業者295社が公正取引委員会から排除勧告を受けた。一部でそういう体質が残っていた。また、大規模修繕工事は建築基準法に定める建築工事ではなく、当初はゼネコンにも管理会社にも専門の技術者は殆どいなかった。要するに、『やりたい放題』だったといえる。例えば、業者は値切られることを前提に下見積もりを作成する。本当は1億円で十分儲かるのに、見積書には1億3000万円と書いて提出する。こんなことがまかり通った。歩掛り法をうまく使ったわけだ」

■それでは今後、マンション管理組合が健全な工事発注をするための具体策について。

 「やはり、一般的なマンション住民にとっては工事内容とコストが透明で分かりやすく、安心して任せられること。これが業者選定のうえで最も大切。現状では、そのニーズにしっかり対応できるのはオープンブック方式(施工体制事前提出方式)だけだ。加えて、それぞれのマンションの実状に合わせた技術・施工提案を求めて競わせる。つまり、技術力を持つ専門業者を幅広く募集するプロポーザル方式で発注すべきだ。またそのためにも、専門的な判断ができ、管理組合の側に立つサポーターの存在が不可欠となる」

■地域活性化の点からも発注方式の見直しが必要ともおっしゃっています。

 「市場全体の約7割を占める50戸未満のマンションというのは、中小の専門業者にとって手頃な仕事。改修工事は『足場』『防水』『塗装』『タイル』からなる仕上業。技術的には難しいものではなく、コンサルは要らない。だから、もう少し条件を緩和し、地元の専門業者が参加できるようにして欲しい。地域の仕事は地域の業者に任せるべきだ。地元業者の育成というのはまちづくりの根本的な部分でもある」

■最後にKSKの今後の活動について。

 「KSKのキーワードは『まちの大工さん』。あそこに頼めば、すぐに来てくれる。アフターフォロー、メンテナンス費用まで含めて安心だと。もちろん、施工はオープンブックで工事内容はすべて開示する。と同時に、重層構造を是正して社会保険加入など職人の処遇改善に取組む。地場業者が仕事をすることで地域活性化にも貢献する。実際、KSKはこれらの目的を掲げ、8年前に国土交通省から認可を受け設立した。そしてこれからは、さらに管理組合と住民に寄り添い、サポートしながら、大規模修繕工事におけるプロポーザル方式の普及・定着にも全力を尽くす。それが限りなく行政に近い協同組合であるKSKの役割でもある。われわれが先頭に立ち、関西発で正常化を進めたい」



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