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近畿地方整備局 白川和司営繕部長  【平成29年11月13日掲載】

暮らしに欠かせぬ国民共有の財産

変わらぬ存在に安心

地域のアイデンティティーにも


 行政をはじめ教育や文化、福祉など多岐にわたる分野で各種サービスを提供し、また都市におけるまちなみ形成や景観誘導等に大きな役割を果たしている公共建築。中でも国の官庁施設では、行政サービス機能はもとより、建築技術の開発や技能継承の役割を有するほか、近年では、大規模災害に対する防災拠点としての機能が求められている。近畿における公共建築行政をリードし、所管する公共建築の整備に努めている近畿地方整備局営繕部。「変わっていく時代にあっても変わらないのが公共建築」と語る白川和司部長に、公共建築の意義やあり方について聞いた。

■初めに公共建築月間について。

 公共建築月間は、国民の皆様に公共建築が、暮らしに不可欠な行政や生活、文化等を支えるサービスを提供する国民共有の財産であるという認識を深めていただきたいという目的で制定されました。
 例えば、図書館や美術館のように文化に触れる機会をつくり、個々人の教養を高める公共建築は、暮らしを豊かにします。幼時期から多感な時期まで、幼稚園や学校といった公共建築の中で時間を過ごします。あまり意識しない方でも身近に公共建築と関わっているわけです。
 また、公共建築月間の主旨とは少し違いますが、働き方改革が進められているこのタイミングの中で、公共建築を整備する際に関わった技術者や技能者の方々のことも想像していただけたらと思います。気概を持った多くの人たちが、立派に仕事をやり遂げて、公共建築ができあがっています。

■なるほど。

 公共建築の整備にあたっては、国民の皆様の財産となる、ということから、利用者に対しまして、導入する機能やサービスに関する意見を求めるといった取組みが行われています。それに加えまして、公共建築を育てる、より使いやすくしていくということから、完成後、使い始めてから、「ここはもう少し直せば良くなる」といった気づきによる使い方の工夫や改良等を行っていくのがいいと思います。例えば古い建物だと階段に手すりが無い場合がありますが、そこに手すりを付けると格段に良くなります。そうした小さな積み重ね、それが、使う人に育ててもらう公共建築だと思います。ユーザーである国民の方々から、どんどん、そうした気づきを提案いただけるといいと思います。

■公共建築の品質確保については。

 品質確保は公共建築が長く使われるために重要な要素です。特に、最終的に手を使って作る工事に関わる人が、その技術、技能を、熱意を持って活用する、ということが重要だと思います。その点から、適正な予定価格の設定をし、適正な対価を支払うという当たり前のことが非常に重要だと思います。建設業における働き方改革の議論が始まった頃、建設労働者の処遇を製造業並みにということが言われたと聞きました。発注者側の理解と協力が必要と言われる中で、この適正価格での発注を行って参りたいと考えています。

■当然、発注者として負うべき役割もある。

 今年1月20日に社会資本整備審議会から、官公庁施設整備における発注者のあり方についての答申が行われました。答申では、工事契約において発注者の役割を明確にし、設計者や施工者など受注者の能力を最大限に引き出すことが求められています。
 また、働き方改革で週休2日制を実現するため、週休2日工事のモニタリングを全国的に実施することとなり、今後契約する延べ1000平方メートル以上の新築工事では、施工者からの申し入れによって実施することになりました。近畿地方整備局営繕部では、今年度の対象工事はありませんが、モニタリングの手法等について検討を進めていきたいと考えています。

■これら施策とともに生産性向上も課題ですが、営繕工事での取組みは。

 営繕工事での施工合理化としては、BIMの活用が挙げられます。現在では試行的に実施しておりますが、最近の工事現場での活用状況を見ますとかなり普及しているように見られます。例えば、京都国際会館等で、施工者サイドで活用されています。建築工事では職種が多く、工程の進捗に伴い、頻繁に技能者が入れ替わるといった特性があります。
 こうした中で、現場における情報伝達負荷が非常に大きなものとなっています、その日の作業で、今日は何をするか、またどのように、いつやるかを、きちんと伝達することが重要です。上下階で作業する場合、それぞれの作業時間がちゃんとマネージされていれば安全性も向上する。そのように情報を的確に伝えることが現場では必要になりますが、そこでBIMの分かり易さが有効になっているものと思います。工事計画策定にあたっても、3次元や時間も含めた4次元的に分かりやすく組んでいくことが可能です。
 情報化施工の例としては和歌山合同庁舎工事で、材料の搬入や揚重作業でIT化したシステムを構築した、いわゆるICTを活用して作業の効率性を高めています。
 さらに現場写真についても、現場内に位置情報を感知するセンサーを設置し、それと連動させてiPadで撮影すれば、どの場所でどの方向から撮影したかを日時とともに自動的に整理できるシステムを活用するなど、管理上での生産性も格段に向上しています。建築工事におけるロボットを活用した機械化施工も、業界紙で見ましたが、天井の施工などで開発が進んでいるようで、そんなに遠くない未来には、かなり導入されるのではないか、と思っています。

■機械化の進展に伴い伝統工法等の技能継承が衰退するのではないかとの懸念が残ります。

 建築にはそれぞれの役割があり、公共建築の中にもグレードの違いがあります。伝統技能が京都迎賓館等で使用されています。伝統技能の良さを公共建築の中で知ってもらうことで、そういった技巧で造りたいという民間の発注者も出てくるのではないかと思います。公共建築には、そういったPR効果というようなものもあると思います。

■別の役割として、景観誘導等もあります。

 公共建築と他の建築との一番の違いは、公共建築は税金が原資であり、国民の共有財産であることです。行政サービスを継続する上でも長期にわたって維持することが求められ、街の景観が変化していく中でも長く、変わらずに在り続ける。言わば、変わっていくダイナミズムと変わらない安心感といった矛盾する二つが街に存在する中で、変わらない安心感を与える公共建築の良さがあると思います。県庁舎や市役所等がバス停や交差点の名前に使われているのも、変わらずに存在するからだと考えられます。
 また、公共建築に活用される景観要素としての素材感とか、デザイン要素が、周囲の建築に影響を与えることがあります。まさに、景観における先導性だと思います。具体的に地場産材の活用等があります。地場産材を使うことは、その地域の歴史を建物の中に遺伝子として組み込むもので、地域発展に尽くしてきた先人に対する感謝の意味を込めることでもあると思います。また、未来の人たちのプライドやアイデンティティーに繋がるものだと思います。

■ありがとうございました。



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