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(株)光陽 山本茂二会長(大阪鳶土工事業協同組合専務理事)  【平成29年09月14日掲載】

施設卒園者を一流の鳶に育成

コレワーク活用、出所者の受け入れも


 就労を通じて少年院出院者らの更生を支援する「職親プロジェクト」など、担い手が減少する中、社会貢献を視野に入れ、新たな試みに取組む建設業者も増えている。鳶土工事を主に手がける「褐陽」(門真市)は、受刑者らの雇用活動をサポートする「コレワーク西日本(矯正就労支援情報センター室)」の立ち上げをきっかけに、出所予定者の採用に踏み出した。同社の山本茂二会長(大阪鳶土工事業協同組合専務理事)に、取組みや事業について聞いた。

■刑務所等の出所者を雇用する活動を始めたそうですね。

 「昨年11月、法務省のコレワーク西日本の発足式に出席し、関係者の方々から説明を受け、決断した。さらに、役員を務める全国仮設安全事業協同組合の足場分科会や大阪鳶土工事協同組合の会合の場でも、『外国人実習生の受け入れもいいが、国の施策に沿って、われわれも刑務所出所者や少年院出院者の雇用の受け皿になろう。再犯防止に貢献でき、社会のためにもなる』と呼びかけている」

■コレワークができたことで、業者も動きやすくなった。

 「この前、出所者らを雇い入れる協力雇用主20社ほどで、加古川刑務所の視察を行った。入所者とも話をしたが、中には、『出所後に鳶の仕事をやってみたい』と興味を示す若い子も何人かいた。そしてコレワークに頼めば、彼らのように鳶の仕事に関心があり、かつ、雇用条件に合致する出所予定者を探し出し、教えてくれる。あとはハローワークに求人票を出せばいい。ウチはちょうど手続きを済ませ、面接日の連絡を待っているところだ。
 もとより、私が所属する日本鳶工業連合会には更生に関して意識の高い幹部が多い。例えば、兵庫県連の筒井弘会長は以前から出所者を雇い入れ、育て上げている。筒井さんは長らく保護司も務めており、その推薦もあり、私も今年5月に保護司になった」

■雇用の場を提供し更生を支える。そういった点では、鳶の親方の社会的役割は今なお大きい。

 「もう一つ私が力を入れているのが児童養護施設の卒園者の雇用。この春に施設を卒園した16歳の子を2人採用し現場に出している。これまで施設の卒園者を3人雇い入れたが、今のところ1人も辞めていない」
 「初めて卒園者を採用したのは約15年前。彼は今年で30歳になる。中学校卒業後に入社し、ずっと鳶職人として働いてくれている。一級鳶技能士と登録基幹技能者の資格も取得し、現在は大きな現場を担う立派な職長。幸せな家庭も築いた。入社した当初はあまり笑顔をみせなかったが、今ではウチのムードメーカーでもある」

■育成するうえで気をつけていることは何ですか。

 「指導係を誰にするか。やはり、これがポイント。ウチでは、施設を出たばかりの子には、優しい性格で、その子と気が合いそうな20代の職長をつける。ペアを組み仕事をさせる。当然、最初は職長も嫌がった。現場で足手まといになるから。それでも、『いずれはお前も年を取る。若手の育成も重要な仕事だ』と説得した。また、職長には『月に1〜2回は焼き肉にでも連れて行ってやれ。費用は会社で負担するが、お前が奢ったことにしろ』と言っている。これで、この子らも職長の言葉に素直に耳を傾ける」

■施設出身者は、仕事以外に様々な悩みを抱えているのでは。

 「つい先日、東大阪の施設を出てウチで働いている子の母親から『息子に会わせて欲しい』と連絡があった。ずっと絶縁状態で、この子は私に『絶対に母親とは会いたくない』と言っていた。そこで数日後、この子には内緒で母親に会社まで来てもらい、昼間に現場から連れ戻し、再会させた。その際、私から母親には『もう少し時間が必要。徐々にこの子も変わっていく。家に顔を出すようにもなる』と話しておいた」

■16歳はまだまだ幼い。預かって一人前に育てるまで、かなり手がかかる。

 「ウチの職人の子たちは全員中卒。みんな入社した頃は本当に子どもだった。社会のことは何も知らない。寮で一人暮らしをさせても、何から何まで面倒をみる必要がある。しかし、その反面、ウブだからこそ実は育てやすい。 『仕事がしんどいのは当然だ』という基本的な心構えから教え込める。ただ体力が劣るので、安全面では人一倍気をつかう。未成年や年少者の入場を嫌がるゼネコンさんも多い」

登録基幹技能者は10人   全ての職人が社保加入

■光陽の職人のみなさんは、服装や挨拶、話し方もちゃんとしている。社会人としてしっかり訓練されていると感じます。

 「確かに世間的には学歴はないが、もともとバカな子は一人もいない。勉強してこなかっただけだ。私は『お前らはやればできる。だから勉強しろ』と口酸っぱく言っている。そして実際、ウチの職人約60人のうち、資格者に関しては、 一級鳶技能士が20人、登録鳶・土工基幹技能者が10人、施工管理技士(一級、二級)が10人。優秀施工者として大阪府知事表彰を受けた子もいる。ほかにも鳶の場合、玉掛、鉄骨、足場、支保工、高所作業、フォークリフトといった資格があるが、ウチの職人たちは、みんな何らかの資格を有する。結局、仕事に興味を持つか持たないか。それで姿勢も変わる。そのうえ、この4月からは全員社会保険に加入させている」

■多能工への動きも相当早かったと聞いています。

 「多能工については、約20年前から取り組んでいる。現状を説明すると、例えばPC工の仕事では、建て方、型枠、溶接、モルタルなど全ての工程をウチの多能工チームだけで仕上げられる。 また橋梁工事においてはウチと大工の専門業者でチームを組み、足場、型枠からコンクリートの打設までを請け負う。さらに、施工管理技士がいるので、改修工事はもちろん、新築工事も手がけ始めている。この4月には小規模な新築を1件竣工させた」

■着々と事業の幅を広げている。

 「私は鳶として地下足袋を履いて働き出し、名義人に育ててもらい親方になった。まさに鳶の世界しか知らず、他職に対するプライドもあった。しかし、ある日、その名義人である大阪府建団連の北浦年一会長から『これからの会社は鳶だけではダメだ。 多能工化を進めろ。施工管理の資格も取れ』と号令がかかり、半信半疑ながら進めた。その成果がようやく形になって現れてきた。
 ところで先日、中学を出てからずっとウチで働いている27歳の子が結婚し、子供ができ、会社の近くに土地を買い、家を建てた。また、ある職長の長男は高校卒業後にウチに入社したいと言ってきた。これも取組みの成果と言える。今後は自分がいなくなっても、みんなが生きていける会社にしないといけない」



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