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後藤圭二 吹田市長  【平成28年01月04日掲載】

「新しい吹田市」創造へ着々

”ブランド力”アップの施設揃えて

国立循環器病研究センター誘致で「幸齢化社会」


 大阪の北摂地域に位置する吹田市。全国のニュータウン開発の先駆けとなった千里ニュータウンを中心に、都市としての成熟が進み、中核都市として発展を遂げてきたが、現在では新たなまちづくりに向けた取り組みが行われている。吹田操車場跡地では昨年、国立循環器病研究センターと市立吹田市民病院の移転・建替えが決まり、これらを核とした「北大阪健康医療都市」(愛称・健都)の形成に向け動き出し、また、万博公園南エリアでは、国内最大級の商業施設がオープンするなど、新たな都市核が誕生した。こうした中、後藤圭二市長に、今後のまちづくりのあり方を聞いた。

  吹田操車場跡地のまちづくり

■まず、吹田操車場跡地におけるまちづくりの経緯から伺います。

 吹田操車場の跡地利用に関しては、昭和62年の旧国鉄の分割民営化と国鉄清算事業団発足に伴い、梅田貨物駅を全面移転して吹田貨物ターミナルとする計画が明らかになりました。当初の計画では、吹田市として利用できる部分が全くなく、市としては、その計画は到底受け入れがたく、市議会とともに交渉を続けてまいりました。その結果、平成11年には、跡地の半分をまちづくり用地として確保することができ、そこからまちづくりに向けた検討が始まったわけです。
 検討にあたっては、どういったまちづくりを進めていくかを議論するため、吹田市をはじめ経済界や、学識経験者等による「吹田操車場跡地まちづくり計画委員会」を設置して議論を進めることになりました。議論では、大阪都心から12分というアクセスを考えれば、マンション等の住宅や商業施設は簡単に誘致でき、一時的な人口増加や税収増加は見込めますが、そういったものではなく、吹田市の格を上げ、ブランド力を上げる施設やエリアを目指すこととしました。

健康と教育と

■なるほど。

 市のブランドとは何かを考えた場合、一つは教育で、当時、市内には4つの大学がありました。もう一つは医療施設です。市内には大阪大学と国立循環器病研究センター(以下、国循)のほか、研究開発施設も多くあり、また、閑静な住宅街や交通アクセス、公園や緑も充実していることが市としての強みにありました。これらをさらに充実させることをイメージし、「緑と水に包まれた健康・教育創生拠点」の創出を基本方針に掲げ、平成20年に「吹田操車場跡地まちづくり全体構想」を策定しました。
 構想の時点では、具体的にどのような施設を整備するかはまだ決まっておりませんでしたが、全体構想を踏まえた計画において、岸辺駅周辺ゾーンは医療・健康機能を中核機能とすることとしていました。平成25年に国循の移転が決まり、高齢化が進む中では、運動器と循環器の疾病が大きな問題となることから、国循のお世話になる一歩手前の段階でケアが可能となるようなまちづくりを目指すこととしました。

■国循の移転は大きなポイントでした。

 医療施設の誘致では、市としての税収増は見込めませんが、市民が健康で楽しく、人々と交流しながら生活ができるなど、高齢化は良いことだといったモデルを世界に示したいとの思いがあり、国循を核に、年齢を重ねることは幸せである―といったモデルをつくろうと、高齢化社会の「高」の文字を「幸」に置き換え、幸を重ねるとの意味で幸齢化社会とネーミングしました。
 個々の計画では、国循を中心に、どういったまちができ、その取り組みが市民にどんな影響をもたらすのか。大阪府は健康寿命が全国的にも低いことから、それをどれぐらいまで伸ばすことができるかなどが議論の対象にもなりました。
 施設の立地に関しても、日本を代表する企業が立地していても、地元とは何ら関係がないというケースがあり、国循にしてもその恐れがないとは言えない。ただ、国循では、食生活改善を目的とした「かるしおレシピプロジェクト」をはじめ、循環器病を予防するための取り組みやノウハウがあり、それらのエビデンスがどこまであるのかを、「市民を対象に確認したい」との意向が示されており、我々としても意を強くしております。

  千里ニュータウン再生

■吹田のまちづくりにおいては、千里ニュータウン再生も重要では。

 千里ニュータウンの再生にあたっては、吹田市だけでできること、豊中市だけでできることと、吹田市と豊中市で連携しなければできないこと、さらに大阪府との関係やタウン管理財団、国との関わりなど、それぞれの段階での取り組みがあります。千里ニュータウンでは、コンクリート構造物やインフラの老朽化が進み、住民の高齢化も進展している。かつて鳴り物入りでまちびらきした全国のニュータウンが、50年を経過した現在、どのように評価されるかの時期を迎えています。その中で千里ニュータウンは今も人口が増える等、恵まれていると伺っております。千里ニュータウンは全国のニュータウンの先駆けでありモデルでもある。このため「良い街である」と結果を残さなければ、ニュータウンという発想そのものが失敗だったとされてしまいます。

■現在では、千里中央地区では再開発も進んでいます。

 問題や課題はありますが、解決できないものではないと思っています。例えば、集合住宅と戸建て住宅が混在することは当初は予測できませんでしたが、そういった問題にしても地域内での解決が図られております。もともと、大阪府企業局が開発を主導しながら、途中から吹田市と豊中市に押しつける格好となりましたが、我々の側から言えば「それはおかしいのでは」となるのが当然です。千里ニュータウンは、言わば壮大な社会実験であるわけで、それがまだ結実していない状況では、地元市に全てまかせるのではなく、一緒になってやっていこうと府には申し入れております。
 また、再生にあたっては、大阪府住宅供給公社が最初に団地の建替えを始められましたが、その時から若い世代を呼び込もうとする流れがあり、住民自らがその思いを打ち出し、それを行政が支援するといった取り組みが、千里ニュータウン再生ビジョンに描かれ、それに沿った取り組みが行われております。吹田市としても、ファミリー世帯を中心にしたまちづくりを進めております。今後は、近隣センターや地区センターなど、当初の理念に基づき整備された施設のあり方について、今一度見直していくこととしております。

「EXPOCITY + サッカースタジアム」効果
  北大阪共有の財産として期待

■さて、先頃万博記念公園南側エリアに国内最大級の商業施設がオープンし、サッカースタジアムも完成するなど、同エリアが注目されております。

 このエリアは、ある意味突然出てきた感があります。計画的に整備されてきた千里ニュータウンに対し、その周辺で浮上してきた大規模開発です。我々も経験したことのない大型商業施設とサッカースタジアムによる相乗効果には期待でき、さらに北大阪急行延伸により千里中央地区の新たな活性化が期待できます。そうなった時の千里ニュータウンの地区センターのあり方が問われます。
 例えば、活気がなくなってきた阪急北千里駅前地区の商業活動をどうするか。夢よ再びと、かつての様な賑わいを求めるか、それとも周辺を含めてどうあるべきかの議論を現在、進めております。やはり、よりコンパクトに地域に密着し、高齢化する周辺地域のニーズを充足すべきではないのか。それに対し、遠隔地から人を呼び込み、活気あふれる商業ゾーンとするといった意味からは、雇用の創出から人の流れまで、万博南エリアへの期待は大きなものがあります。

■確かに集客効果は大きいですね。

 ただ、スタジアムや商業施設、国循、さらに千里ニュータウンも含めて考えた場合、一つの基礎自治体だけで方向性を決めるには範囲が広大過ぎます。たまたま吹田市に位置するだけで、これらは北大阪地域が共有する財産です。もっと言えば千里中央も立命館大学茨木キャンパスも含めていいかも知れません。
 これまで小さな市域がパッチ状にあった北大阪で、互いに肩肘を張り合って競争し合っていても仕方がない。あれ程の大規模施設が立地すれば、その影響は吹田市だけにとどまらず、周辺市域にも及びます。道路やモノレール等の交通網がつながる中では、単に一自治体だけではなく、北大阪全体で期待は高まっております。

  防災・減災対策

■まちづくりを進める上では、防災・減災の取り組みも重要となってきます。

 ハード面では、公共施設を第一として耐震対策を実施し、その後順次、工事を行っていきます。現在、学校に関しては対策は終了しております。ソフト面については、毎年1月に、市内全域の自治会と連携して、各地区において防災訓練を実施しております。各地区固有の特性を反映させる形で、緊急避難集合場所の選定等については各自治会のシナリオに基づき行っているものです。
 また9月には、市と消防署、自衛隊等の関連機関と連携した総合防災訓練を実施しており、これらを通して発災時の被害を最小限に抑えていくこととしております。このほか、各地区からの依頼を受け担当部署が出向いて防災講座も開催しております。こういった取り組みはきめ細かく実施しなければ、なかなか浸透していきませんし、特に1月の訓練に関しては、阪神淡路大震災を忘れないという意味合いもあり、やはり大規模災害を忘れることなく継続していくことが、いざという場合に生きてくると思います。
 また、近年ではゲリラ豪雨等による河川の氾濫が指摘されております。幸い、当市域は大きな浸水域には含まれておりませんが、淀川や神崎川といった大きな河川もあることから、決壊した場合を想定した準備は進めております。いずれにしろ地域防災計画に沿った取り組みを行ってまいります。

■普段からの取り組みや備えは必要ですね。

 私の経験で申しますと、阪神淡路大震災当時は水道部に勤務しており、発生翌日に芦屋市に入りました。そこでは全国からの支援や応援部隊が一斉に集まり、あらゆる救援活動や復旧活動が展開されるなど、自治体間の互助があり、これこそが日本の姿だと感じました。他人が困難な状況にあるときはほっとけないという気質です。
 自助だけでは成り立たず、当面の備えを確保していれば必ず支援を受けられる。そう考えた場合、他都市との連携・協力体制を確立していれば、単体の基礎自治体としては緊急対応措置として最低3日間は機能維持できる体制や備蓄があれば、いいのではないかと考えます。そういった協力体制は重要だと思います。

  建設業者の力

■災害対応には建設業の役割、とりわけ地元企業の対応が重要になりますが、現状では業界全体が厳しい状況にあります。

 例えば掛かり付けのお医者さんとして考えた場合、病気になってその医者へ行ったものの、レントゲン装置がレンタルやリースで、今日は技師が不在で撮影できないとか、検査を外注しているような状況で、いわゆるブローカー的な業者が電話一本で手配するような事態であっては困ります。建設業者もしかりで、自前で機械を持ち、技術者も雇用している。そういった面を評価する必要はありますが、ただ、災害の種類や規模によっては、業者自体が被災することもあり、そういった場合に備えておくことも必要です。
 地元業者の役割としては、部分的な箇所や局地的なものに限られ、広域被害となれば、より規模の大きな業者となる。そういった面での棲み分けというか、フェイズで分類しておく必要もある。勿論、地元業者には普段から仕事はお願いしたいとの思いはありますが、そういった部分でのルールを決めておくことも必要ですね。場合によっては区域外の業者に依頼することもあり得ますから。
 また最近では、技術の継承と言われていますが、技術は日進月歩するため継承するものとはいえず、これに対し技能は個人に帰するものであって、継承すべきは技能であると思います。厳密には技術職と技能職は分けるべきでしょう。ただ、業界側はもとより行政側としても技術者は不足傾向にあります。
 現在、基礎杭の不正データ流用が大きな問題となっておりますが、一義的には発注者にも責任があるとは思いますが、今回の事案は、あまりにも悪質で、データを流用されればチェックのしようがない。我々としては、業者側の実績や経験を信頼して発注を行っているわけですが、一個人の不正行為がそれら全てをなくしてしまう。業界全体としてのモラルが問われていると思いますね。業界としての健全な発展を願っています。

■ありがとうございました。今後も吹田市の発展にご尽力下さい。

後藤圭二(ごとう・けいじ)市長略歴 
昭和55年3月東京海洋大学水産学部卒、同4月吹田市役所へ入庁し、水道部をはじめ市長室参事、環境政策推進監、道路公園部長等を歴任。平成26年10月に退職し、翌27年4月の市長選挙で当選、5月に吹田市長に就任。吹田市出身。58歳。



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