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UR都市再生機構西日本 西村志郎支社長  【平成27年10月26日掲載】

団地再生

福祉や医療の拠点にも

建て替えは良いもの残しつつ


 良質な住宅供給やニュータウン開発、さらに都市再生事業を手がけている独立行政法人都市再生機構では、社会経済情勢の変化を受け、既存団地の再生やニュータウン事業を終了するなど、その役割は、大きな転換期を迎えている。こうした中、西日本を管轄するUR西日本支社では、うめきたの第2期開発を含め、密集市街地支援・補完など、都市再生事業への取り組みに各自治体や民間企業からの期待も大きい。今年7月に就任した西村志郎西日本支社長は、関西人らしく仕事がしたいとする。その西村支社長に抱負や今後の取り組みについて聞いてみた。

■支社長就任にあたっての抱負をお聞かせください。

 大阪の北摂で生まれ育ち、子どもの頃に大阪万博開催の効果で家の周りが開発されてどんどん変わっていく様子を目の当たりにした体験が、現在の仕事として選んだ最大の理由です。ただ、大阪のために仕事がしたいとの思いを抱き入社したにもかかわらず、今回が入社後初めての大阪勤務となりました。初心に立ち返って非常に重責ですが関西のために頑張りたいと思っております。
 支社の職員には、「関西らしい仕事をしよう」と言っています。関西人が一般的に県民性としてよくいわれる「せっかち」を「スピード」に、また「けちくさい」を「合理的」と解釈し、「騒々しい」はそのまま「騒々しい」として、それを職場の雰囲気にしていきたいと思っています。メールでのやり取りが増え、職場自体が静かになってきた中、頻繁に会話を交わす中で気づきが起こると思っておりますので、そのような意味でも是非、騒々しく仕事をしたいと考えております。

■団地のストックなど、住宅の管理や再生についてお考えをお聞かせください。

 公団時代とURになってからとでは、社会の背景が全く変わりました。ストックをつくり、都市開発を進め、土地を生み出すことが事業の中心であった時代から、今や人口が減り、少子高齢化になることは既定の事実となり、そのような背景の中、西日本で約21万戸あるURの賃貸住宅がどのような役割を担っていくのか―それを考えていくことが一番大事だと考えております。

■具体的に西日本支社での取り組みは。

 東日本大震災以来、親や子供の傍に住んで、いざという時に助け合えるように備えることが顕著になってきていますので、その状況を踏まえ、「近居割」や「近居割ワイド」を展開しています。これは、肉親世帯がURの団地間だけでなく、どちらか一方がURの団地に居住していれば一定のエリア内において、家賃の割引が適用されるサービスで、西日本支社管轄では、千里ニュータウン、須磨ニュータウン、男山地域を対象エリアに実施しており、今後積極的に取り組んでいきたいと思っています。
 また、全国約100団地において、平成32年度までを目標に、地域の医療福祉拠点の整備を行っております。西日本でもいくつか先行して実施しておりますが、団地が地方再生でも言われているコンパクトシティの一部であると考えると、インフラを維持するためコンパクトに住む必要があるのと同様に、福祉や医療のサービスも広がりを持たずにある一定の地域でサービスを提供していく―。団地を一つの単位、あるいは地域の核であると考え、今後福祉や医療の拠点にしていこうとするもので、ストック再生の意味でも極めて重要だと思います。

■団地再生のハード面についてお伺いします。

 全面建て替えについては、昭和30年代のものを中心に建て替えてきました。現在、千里ニュータウンでも建て替えに着手しようとしております。ただし、全面建て替えではなく、建て替え部分と住棟を残しながら、中の住戸をリノベーションしていき、それをうまく組み合わせながら実施していきたいと考えております。昔の団地には、その時代の英知を結集して作った良さがあります。堺の白鷺団地に代表されるように、古いものを認識しながら、新しく今にマッチしたものに作り替えている住戸がメインになっており、そういった住宅を対比しながら、地域の方々にURの団地について理解を深めていただけるようになればと思います。良いものは残しつつというのが、これからの基本になるのではと考えます。

■就任後、自治体からの要望は。

 賃貸住宅については、いろんなご要望やご期待をいただいておりますが、都市再生について、都市部の自治体では、人材がいないというのが共通した課題であると感じました。和歌山県などでは出向という形で人材の薄い所でお手伝いをしたりしておりますが、人を出すだけでなく、お手伝いすべき領域はまだまだあるのではないかと実感しております。

■密集市街地などの防災については。

 防災について近畿圏ではまず東南海地震ですね。東日本大震災で津波の恐ろしさを目の当たりにし、特に紀伊半島の南側の市町村からはご相談をいただいております。具体的には串本町で高台にあらかじめ重要な機能を移転しておきたいとして、その計画づくりの支援を行っています。
 また、密集市街地については、「皮とあんこ」と称されるように、いわゆるあんこ部分である密集市街地にとっての皮となる街路整備が重要です。道路を設置することで道路が火災を食い止め、消火活動もスムーズになります。しかし、多くの予算がかかることもあり、財政の厳しい自治体の多い中でそのやり方が適応できるのか、地域の特性に応じて密集市街地の取り組みは今後勉強していきたいと思っております。

■うめきた2期についてお伺いします。

 年度内の認可を目指して、区画整理事業についての手続きを行っているところです。1期と違い、JRの地下化などを含め2期はいろんな工事があり、URのまさに真価を問われる事業であると受け止めております。大阪府・市や関西経済連合会なども、最後の一等地であるという認識を持っていることから、どのような土地利用や民間機能を実現すれば良いのか、「みどりとイノベーションの融合拠点」に向け、お役に立てればと思っております。

■今まで思い出に残る仕事は。

 バブル時代に地上げが途中で頓挫してガタガタになったまちを再開発で立て直したことが思い出に残っていますが、これからの若い職員が今後思い出に残るであろう仕事を考えますと、近年、URでは固有名詞のプロジェクトが マイプロジェクトだという時代ではなくなってきました。例えば、関西ではDIYなどいろんな事柄を横串で繋ぐような取り組みや、お金をかけずに上手く間取り改造やリノベーションした「暮粋(くら・しっく)」、 また関東では、保土ヶ谷の駅前の大きな市街地住宅において、外壁の大規模修繕に併せて夜間のライティングで建物の表情を変える試みを行い、どちらもグッドデザイン賞をいただきました。 今後、これから若い職員が印象に残るプロジェクトとして、そのような事業をあげる時代になるのだと思います。

■心がけておられることは。

  想像力を常に意識しています。仕事でも普段の生活でも、想像力の連続です。新しい仕事の手順は、まさに想像力で組立てていきますし、交渉の時も想像の積み重ねで進めていきます。 また、リスク管理では、危機察知能力にも想像力が必要です。想像力を逞しく持って仕事や普段の生活を行いたいと思っていますが、いたずらに想像すると妄想になってしまいます。 正しくぶれない想像をするために必要なものは、経験と情報に尽きると思います。特に情報は、現場で直に物を見るとか、直に話を聞くとか、そのような情報の大切さをこれまでの仕事の中で痛感しておりますので、そのような立脚した想像力を大事にしたいと思っています。

■今後を期待しております。ありがとうございました。

 

  趣味は、車。小学生の頃から大好きで、大学では体育会の自動車部へ自ら門を叩いて入部し、主に山岳競技ラリーに参加していた。現在も愛車はスポーツカー。 しかし、支社長就任後は、関西での土地勘を取り戻すため、もっぱら自転車や公共交通機関を利用して街の散策をしているという。

 
 

 西村志郎(にしむら・しろう) 
 昭和57年3月京都大学工学部衛生工学科卒業。同年4月住宅・都市整備公団採用、平成11年10月都市基盤整備、同15年7月土地有効利用事業本部業務第二部街区再編課長、 同16年7月独立行政法人都市再生機構東京都心支社業務第二ユニット市街地整備第三チームリーダー、同21年6月本社ニュータウン業務部事業管理チームリーダー、同23年7月東日本都市再生本部第二エリアマネージャー、 同25年4月本社経営企画室担当部長、同26年4月ニュータウン業務部長。同27年7月理事・西日本支社長。56歳。大阪府出身。



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