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倉田哲郎 箕面市長    【平成27年07月27日掲載】

北大阪急行延伸で新たなまちづくり

基金積み立てで本気度

国交省説得 50年来の夢を実現


 大阪府北摂地域に位置する箕面市。近郊型住宅都市として、まちとしての成熟度も進み、住みたい都市としての人気も高まってきている。さらに、昨年は懸案であった北大阪急行線の延伸が決まり、今年六月には延伸部沿線に大阪大学箕面キャンパスの移転も打ち出されるなど、新たな都市核創出への動きが出てきている。こうした中、市長就任以来、北急延伸の実現に向け精力的な活動を行ってきた倉田哲郎市長に、延伸計画決定までの経緯や今後のまちづくりについて聞いた。

■まずは、北大阪急行線延伸事業について、これまでの経緯からお聞かせ下さい。

 北大阪急行線延伸は、当市の最初の総合計画に明記されたことが始まりで、かれこれ半世紀前になります。平成元年の運輸政策審議会の答申で、整備することが適当とする路線に位置付けられたことが第一歩でした。これにより、それまで地元だけで描いていた夢物語が国に認められたことになります。
 特に(仮称)新箕面駅の予定地は、平成8年に土地区画整理事業が始まり、平成15年に大型の商業施設が建設されました。今でこそ賑わいを見せていますが、平成八年当時は農地であり、こんな場所に鉄道が引かれるとは誰も信じていませんでした。その分、商業施設そのものを誘致したことも「いつかは」との想いで、市として取り組んできた成果だと思います。

■市長ご自身の関わりは。

 平成15年8月に私が箕面市役所に派遣されたときは商業施設が竣工した時期でしたが、その時でも鉄道を引けるとの確信はなかったですね。農地の中に商業施設を建ててお客さんは来るのかと心配しましたし、その施設すらなかった時代に、鉄道を引くといった将来に思いを馳せていた先人達の信念には頭が下がりました。
 さらに、土地区画整理事業では先を見据えて、新駅予定地に市が駅前広場用地を確保しており、現在まで市営駐車場や市民広場として利用してきました。こうした取り組みがなければ延伸は実現していなかったでしょう。ただ、それ以降、平成20年8月に市長に就任するまでが空白期間となってしまい、目立った動きはありませんでした。
 そして、市長に就任した翌日、国土交通大臣に直接お会いし、鉄道延伸について本気で進めることを申し上げてきました。その時の国交省の反応は、「あの計画がまだ生きていたのか」という感じで、延伸事業は完全に過去の計画となっていました。毎年、要望を繰り返していたにも関わらず、そうなっていましたので、そこから認識を改めてもらうための取り組みを開始しました。その中で、国に対して最も効果があったのが鉄道事業に充てるための基金を市が積立てていたことです。これも先人達が遺してくれた貴重な遺産です。
 既に答申が出た時期に市として基金を設立し、毎年、億単位での積立てを開始しました。私が就任した時点で約25億円の積立金がありました。市の会計はもとより、船場地区の大阪船場繊維卸商団地協同組合からも億単位での寄付がありました。その後、平成11年を最後に積立ては中断していましたが、国交省との交渉の中で、これを自己資金として提示したところから風向きが変わり、このため、中断していた積立てを平成21年から再開しました。

■ある程度、自己資金があれば説得力も増してくる。

 そうですね。鉄道延伸事業の場合、地元負担ができずに頓挫するケースが殆どで、国は、ある意味、積立ての有無で地元の本気度を測っているところもあります。また、事業に関するノウハウが全くないことから、平成22年から市の職員を国交省に派遣し、こちらのやる気を示しながら、国交省と交渉を続けました。
 一方、鉄道事業者との交渉は、延伸路線を如何にして採算に乗せるかが中心になりました。事業者にとっては不採算性が最大の問題で、これをクリアしない限りは絶対に交渉は進みません。採算ラインに乗せるには、事業者の初期投資を抑えるか、利用者を増やすかのどちらかしかありません。延伸部周辺の集客や乗降者数の予測、市の財政負担と国の補助金で事業者の初期投資をどれだけ抑えることができるか、少なくともマイナスにならなければ見込みは出てくることから、その配分について、いかにバランスを取るかで最後まで悩みました。

■そうして昨年3月には市と阪急・北急の鉄道事業者、大阪府の四者で基本合意が締結された。

 ええ、国の社会資本整備総合交付金を適用することが決まったことにより一気に道が開けた感がありました。鉄道だけを対象とした従来の補助金制度では補助率に限界がありましたから。また、それまでは鉄道を延伸することばかりを考えていましたが、鉄道を引くことにより駅ができ、駅の周辺で再整備が行える。当然、そこにはアクセスとしての道路も必要で、延伸に合わせて周辺整備も考えていかなければならないことなど、我々自身も思考を転換する必要があった。
 そもそも、社会資本整備総合交付金は鉄道整備だけのものではなく、道路をはじめとする社会基盤整備に適用するもので、鉄道整備もその中の一部であると捉えなおしました。そう考えると交付金の目的にも沿うことになることから国交省と合意し、平成24年度に交付金の対象になりました。これにより補助枠が増え、鉄道事業者の投資額も軽減でき、「採算性に乗る」と判断されたことで合意に至った。交付金適用が完全なターニングポイントでしたね。

■なるほど。

 その後、ボーリングを始めとする予備調査等を実施しながら、沿線住民への説明会を開始しました。ただ、雰囲気としては50年前からあった都市伝説のような話でしたから、「本当に実現するのか」といった空気がありました。さらに、工事を前提に綿密な積算を行いましたが、計画地の地盤が予想より軟弱地盤が多かったことが判明し、工事費が当初見積より膨らむ結果となりました。このため、鉄道事業者とともに、工事や設備仕様の見直しと再検討を行い、工事費の圧縮に努めることで、大阪府と交渉を続けて合意に至ったものです。

■延伸部の特徴は。

 延伸部は、当市の中央部を貫く位置にあり、同じく中央に位置する新御堂筋、国道171号と交差する部分に新駅が設置され、まさしく箕面市の人口重心の場所にあたります。本市は、市域西側の阪急箕面線を中心に発展してきており、人口重心はもともと西側にありました。その後、東側でも住宅開発がはじまり、次第に人口が定着し始め、現在では新駅ができる場所に人口重心が移ってきています。そこに大阪で最も乗降客数の多い地下鉄御堂筋線の延伸線が来るわけで、大阪市内へのアクセスとしては、極めて強力なものになります。住宅都市として発展してきた箕面市にとって、鉄道を延伸することで、環境の良さと利便性が両立し、住宅都市としての魅力がさらにアップすることになります。

  新箕面駅周辺    緑を残し住宅と調和
  箕面船場駅周辺  企業や学術研究施設を集積

■箕面市は近年、住みよさランキングでも上位を占めております。

 大阪府内では4年連続1位で、昨年は関西全体で芦屋を抜いて2位にランクされました。また人口も6年間で6%の伸びを示し、これも大阪府内では群を抜いています。

■そうなると新駅を中心とした、周辺のまちづくりもポイントになってくる。

 新駅は、(仮称)新箕面駅と(仮称)箕面船場駅の2駅ですが、この2つの駅は全く性格が異なるものとなります。新箕面駅は、ある意味において住宅都市・箕面を象徴するもので、ショッピングモールが中心にありながらも、周囲には農地が広がっており、まとまった農業空間もある。そこを開発空間と見なす人もいますが、開発によりビルが建ち並ぶだけのまちになるなら、大阪市内と変わらない景観になり、わざわざ箕面に住む意味がない。
 生活の場や子育ての場として箕面を選択された方々にとっては、そうした空間はむしろ貴重な価値なので、いつまでも守り育てていきます。また、他の区域についても住宅が増えすぎないようにコントロールしていきます。そうすることで、まちの価値はむしろ高まると考えています。
 これにより市外の方々が「いつかは箕面に住みたい」と思っていただけるようなまちにしたい。かといって高級住宅地を目指しているわけではなく、「少し頑張れば住めるかもしれない」といった水準を目指しています。このため、新箕面駅周辺の開発では、コンパクトな商業核とその周辺はできるだけ緑のまま残し、住宅といかに調和が図れるかがポイントです。

■駅ができたからといって大規模な開発を行わず、現状の良いところを残しながら、そこを伸ばしていく。

 一方、船場地区は、もともと住宅都市の箕面にとって特殊な場所です。通常、住宅地の住民は高層マンションなどの大規模建物ができることを敬遠しますが、この地区だけは昭和40年代後半に土地区画整理事業により繊維卸商団地として開発されました。このため高層建築が認められており、住民もそれを認識し、市内唯一のビジネス地区となっています。
 このため新駅設置にあたっては、商業業務施設をはじめ産官学の施設誘致を目指しました。また、千里中央と新箕面の中間にあることから、商業店舗よりは企業や学術研究施設の集積を考えており、また、当地区は、大阪大学の吹田・豊中両キャンパスの中間に位置することから、大学発のベンチャーなど知的産業系の誘致を考えており、その一環として6月に阪大の箕面キャンパスの移転について、当市と阪大の間で覚書を交わしました。
 さらに、現在の市民会館(グリーンホール)が老朽化していることから、同地区への移転整備を検討しています。コンベンションセンターとしての機能も導入しようかと考えており、いずれにしろ船場地区と新箕面地区では、整備方針が全く違った形になります。また、都心部の多くの地下鉄駅の場合、街中に出入口が設けられるだけで、駅前といった雰囲気は全くと言ってありませんが、この箕面船場駅に関しては地下駅でありながら、地下空間を上手に利用して駅前の雰囲気をつくろうと、デザインを安藤忠雄氏にお願いすることになりました。

■経済効果もかなり見込めるのでは。

 いろいろと予測はされていますが、数字だけの経済効果ではなく、これまでとは違い、まちが変わったことが実感できるような姿を作っていこうと思っています。また現在は、箕面森町での企業誘致が開始されており、平成28年度末に新名神高速道路が開通すれば、グリーンロードを経由して大阪都心へ直結することになり、そうなると人の流れとしても新箕面駅か箕面船場駅でのパークアンドライドが予想され、既存の商業施設と違った形での賑わいが出てくると予想されます。
 彩都に関しても、人口が増えつつありますが、今は市街地から彩都へ行く道路は東側に1本しかなく、現在、西側からのアクセス道路を整備中で、そこが開通すれば彩都から新箕面駅までが直接結ばれることになり、彩都の発展にも寄与することになります。
 また、人口増加の面で言えば、市の西部地域である阪急箕面線の沿線でも児童数が増加しつつあります。先程も言いましたが、当初は西部地域から始まった開発が東部へ移り、それがある程度飽和状態になったことと、西部地域における住宅等の更新が始まったことにより新たな住民が増えてきました。
 本市の場合、もともと緑が多い上、立地に恵まれ、鉄道や自動車を上手く使えば、梅田などの都心まで30分程度で行くことができる。都心へ至近距離という立地特性がベースにあり、そこへ子育て支援などの市の政策が加味され、とても恵まれた環境にあることが最大の特徴です。私としては、その特徴を極端に伸ばしていく方針で、今後も進めていきます。

■ところで、鉄道延伸事業や駅周辺、既存のまちづくり事業はもとより、自然災害をはじめとする災害復旧には建設業界の役割が大きなものとなりますが、今後、業界に期待する部分がございましたら。

 昨年8月に市内において発生した水害では、市はじまって以来初めて避難指示を発令しました。古参の職員にも記憶にないほどの浸水被害があったのですが、翌日には地元業者の方々がトラック等を出動させ、復旧作業にあたってくださいました。当時は災害対応にかかりっきりで、市として正式な出動要請をお願いできていなかったかもしれない中、業者さん自らが自主的に出動されていました。さらに後から聞いた話では、住民の方々が非常に感謝されていたようで、我々としてもそういった気概を持たれている業者さんが地域に多く存在することを大変心強く思いました。また豪雨に限らず、倒木や土砂による道路閉鎖等に対して、小回りのきく対応ができるのも、地元の業者さんならではです。

■地域建設業の利点ですね。

 当市では地元の組合など、建設業や造園業の団体との間で災害協定を締結しています。昨年の経験を糧に、現在、水防指針の策定に向け市内全ての水路や側溝等の状況を調査し、その資料をデータ化してシミュレーションにより危険箇所の想定を行っているところで、それを基に抜本的な対策を講じていく予定です。いずれにしろ建設業界の方々には、今後もいろいろとお力添えをお願いしなければならないと考えています。

■箕面市の発展に向け今後もご尽力下さい。



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