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大阪府住宅供給公社 佐野裕俊理事長  【平成27年05月25日掲載】

変化・ニーズに対応、よりよい住まいへ

耐震性高め、ストック活用

建替え事業、後期団地で再開を予定


 大阪府内において、良質な住宅の供給に努める大阪府住宅供給公社。近年では、ライフスタイルの変化や多様化・複雑化する居住ニーズに対応した施策を進める一方で、老朽化団地の再生や耐震化向上などの課題解決にも取り組んでいる。こうした中、DIYを取り入れたリノベーション事業による団地の再生とともに、中断していた公社住宅の建替え再開など、ストック改修に意欲を見せる同公社の佐野裕俊理事長に、それら事業の見通しや今後の展開について聞いた。

■まず、公社の現状から。

 民間賃貸住宅が伸びてくる中で、公社はどういった役割を果たしていくかが重要です。その中では公社法制定から50年が経過した現在、そういった意味合いも捉えながら、新たな基軸も打ち出していきたいと思っています。当初は分譲住宅の供給を目的としておりましたが、現況は賃貸住宅事業が主流で2万2000戸の直接供給と借り上げ住宅による特優賃が1200戸あります。
 経営に関しては、前期まで七期連続して黒字となっていますが、バブル以降からの負債が約1600億円程度ある。これを返済してくことを至上命題として負債の圧縮に向けて、公社住宅建替え事業を中止する等の手立てを講じてきました。その効果も上がり7期連続で黒字を達成することができました。

■ある程度の目途は立った。

 しかしながら、耐震性の問題もあり建替え事業も再開しないといけません。このため、現在保有しているストックをいかに活用するかが、公社の今後を左右するのではと考えております。当面は、債務を圧縮しながら建替え資金を用意していかなければなりません。早期に耐震性を確保するためスピード感も必要となりますが、一気に建替えを行っていくための資金や人員確保が大きな課題となっています。
 また、建替えたとしても、家賃が上がれば入居者がなく、今度は空き家が出る可能性も出てきます。建替えがほぼ完了した千里ニュータウンでは、10万円くらいの家賃でもほぼ空き家がない状態ですが、泉北ニュータウンをはじめ他の団地では建替え後の家賃で入居者が見込めるかどうかが課題になっています。そういった中で、建替えができる団地は限られたものになると考えております。
 このため繰り返しになりますが、借入金を返済しながら建替え資金を用意していかなければならないわけですし、事業を行っていく職員の数も必要になってきますので、これまでの直接建替え以外の手法の検討も必要だと考えております。

■なるほど。

 
  若い人誘うリノベーション、泉北から団地再生発信

 その一方で、耐震性を高めなくてはならず、また居住水準の低下した住宅もあります。これらのストックを如何に上手く稼働させるかが我々に問われていると思います。債務返済に追われている中で、公社の公の部分の仕事をどうすればいいのか。その一つとして現在、泉北ニュータウンでストックを変えていく取り組みを進めています。
 このため団地の再生として、堺市からの要請と支援を受け、昨年にリノベーション住宅を五戸整備しました。これを契機に今年度も実施する予定で、また、住戸だけでなく、団地全体を変えていこうと、そのモデルとして泉北ニュータウンの茶山台団地で実施します。

■既存ストックの組み換えですね。

 これは、先頃改訂された泉ヶ丘駅前活性化ビジョンの中にも茶山台も含まれており、駅前での取り組みと合わせ同団地を変えていくため、四月に専属チームも立ち上げました。茶山台団地は、全体的には古くなっていますが、五階建て住棟の間隔も広く、近隣センターも近くにあり大蓮公園にも隣接するなど環境自体は悪くないが、若い人の入居が進まない状況となっています。その要因の一つに住宅が現代の生活様式に合っていないことが挙げられます。見学に来られてもトイレや風呂の水回りが古すぎるとの意見が多かった。
 このため、リノベーションにあたっては、ユニットバスやアイランドキッチンを採用し、かつ一般の方や学生が参加するDIY手法により整備しました。DIYについては興味を持つ方が案外多く、まずは泉北を知ってもらおうと、専門会社と設計事務所と提携し、DIYで住宅の内装工事を行い、かつ入居者自身もDIYのスキル習得を可能とするーをコンセプトに、人を呼び込む仕掛けとしました。

■DIYのワークショップも行われた。

 今回は、新婚世帯を対象に45平米としましたが、今年度は家族での入居も可能とするため、2戸1の90平米でのリノベーションをプロポーザルで実施して新たなアイデアを求めつつ、これと合わせて団地の景観も変え、さらに外部の住民の役に立つような機能の導入を図ることとしています。このため、同団地内の住棟一棟を利用して、人の交流施設の整備を計画しており、現在、専門家に委託して検討を進めています。
 このまちづくりに貢献しながら団地再生もする取り組みを泉北における先導的事例の発信地にしたいと考えております。若者を受け入れながら、高齢者も安心して住めるまちにしたい。これにより泉ヶ丘活性化の先鞭をつけることができればと思います。ただ、そのためには近隣住民やNPO等との連携も必要で、その働きかけを公社の職員が行うこととし、先程触れました専属チームもそのためのチームでもあります。とにかく、泉北で動き始めると他の地域でも動きやすくなるため、ここを起点としたいですね。

■建替え事業に関しては。

 建替えでは前期・後期として実施している団地のうち、中断している後期団地に関しては事業を再開する予定です。耐震化率の目標を達成するために早期に事業化しないといけないと考えており、その中でPFI手法も実現可能か考慮すべきではと検討を始めています。また、建替えにあたっては、新しい住まい方を提案していこうと昨年から検討を始めております。
 このほか公社のあり方については、住宅情報の強化が指摘されております。これについては、今年3月に「あんしん住まい推進協議会」が、大阪府と市町村、UR、民間団体、そして公社により組織されました、そこでは入居拒否をしない住宅を登録して、どなたでも安心して借りられるような仕組みや支援体制を構築するもので、その事務局の一部を当公社が担っており、これまでになかった取り組みです。さらに、かつて公社が供給した分譲マンションはもとより、大阪府内の分譲マンションの管理組合が取り組む修繕や改修、建替え等の様々な管理活動を支援する相談窓口も設置しております。
 いずれにしろ財務改善を行いながらストック改善を実施していきたいと思っておりますが、今後は建替えとリノベーションを団地全体で実施し、その再生を目指すことによって防災対策とストック活用を進めていくことになりますね。

■ありがとうございました。

佐野裕俊(さの・やすとし)
 昭和54年3月京都大学工学部建築学科卒業後、同年4月大阪府入庁。住宅まちづくり部居住企画課長や住宅経営室長、技監を経て平成23年4月から住宅まちづくり部長。同26年3月大阪府退職、同年4月から現職に。


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