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野田義和・東大阪市長  【平成27年01月05日掲載】

活力ある東大阪の創造をめざして

住工共生のまち・公共施設再編整備

ラグビーワールドカップ花園開催へ


 大阪府中河内地域に位置する中核都市として、大阪府内では大阪市および堺市に次ぐ人口約50万4000人を有する東大阪市。近鉄花園ラグビー場を擁する「ラグビーのまち」として、また、技術力の高い中小企業が多く立地する「モノづくりのまち」として全国に知られている。平成25年4月1日には「東大阪市住工共生のまちづくり条例」を施行し、いま「住工混在」から「住工共生のまち」実現に向けたまちづくりを目指している。そこで、モノづくりのまちとしての基盤整備をはじめ、公共施設再編整備、新市民会館整備基本構想など、本市をアピールする諸施策について野田義和市長に聞いてみた。

   住工共生のまち

  まず緩やかな「用地純化」

   相隣環境対策支援補助金など拡充

■はじめにモノづくりのまちとしての基盤整備についてお聞きします。

 「東大阪市は、モノづくりの基盤産業を中心に多種多様な製造業が集積するモノづくりのまちであり、これらの製造業の技術力は、日本の製造業の国際競争力の源泉となっています。一方、本市は多くの市民が生活する住宅都市としての側面もあり、交通の利便性が高いことなどを背景に、工業地域または準工業地域においても住宅用地としての需要があります。そのため、モノづくりの企業の近隣における住宅の建築により、相隣環境上の問題が発生しているのも事実です。このような事態は、モノづくり企業の操業環境に影響を与えるだけでなく、市民の良好な住環境の観点からも好ましくない状況となっています。本市にとっても、モノづくり企業の集積は、地域経済を支える重要な存立基盤であることから、その維持に向け、市民の良好な住環境とモノづくり企業の操業環境を保全し、創出することにより、『住工共生のまち』を実現していくことが必要と認識しています。市民、モノづくり企業、市などが一体となってそれを推進するため、東大阪市住工共生のまちづくり条例を制定し、平成25年4月1日に施行しました(一部は同年10月1日に施行)。また、条例施行に伴い、市の責務として住工共生まちづくりに関して必要な施策を実施しています」

■住工共生のまちづくり条例について詳しく。

 「私は平成19年10月に市長に就任しましたが、以前から東大阪市の特色として、住工混在による相隣環境上の問題がありました。これを何とか解決しなければと思い、できれば時間をかけて住宅と工場を分けていくような仕組みづくりが必要だと思いスタートしたのが条例を策定したきっかけでした。そのためには国の経済産業省にも力をお借りして、近畿経済産業局をはじめ、本省からも中小企業関係の職員に視察にきていただくなど、現状を把握して頂いています。また、視点を変えて都市計画の観点をできるだけ盛り込んだ本市の住工共生のまちづくりを実施していくことを目的に、条例を制定しました。条例は経済部が所管ですが、実現に至るまでは都市整備部も中心になって住工共生のまちづくりを進めています」

■住工共生に向けた支援策についてお聞きします。

 「新たに補助金制度をつくりました。近接共生できる環境を促進するための施策として、相隣環境対策支援補助金や住工共生コミュニティ支援補助金などを展開していくことで、住工混在から住工共生への誘導を図っていきたいと考えています。また、工業系以外の地域の工場を、工業系地域へ移転を誘導する支援策として、工場移転支援補助金を創設することで、市民・製造業者双方にとって、より快適な環境としていくことにより、用途地域に応じた穏やかな純化を目指しています。相隣環境対策支援補助金とは、住宅側から申し立てられた騒音や振動の苦情についてモノづくり企業が実施する建築物、設備などの改善対策に対して補助金を交付するものです。例えば近隣から申し立てられた騒音の苦情への対応として、工場が防音壁を設置した費用などに対する補助金を交付しています」 

■住宅と工場の近接共生の次の段階としてモノづくり推進地域全体を視野に入れた緩やかな用途純化の誘導を目指しておられるのですね。

 「はい。本市ではモノづくり企業の集積を維持するため、市内全ての工業地域および準工業地域の約91%を『モノづくり推進地域』として指定しています。モノづくり推進地域における新規住宅建設の際には、隣接するモノづくり企業などへの説明に加え、生活環境を保全するために必要な措置を講じるよう努めなければならないといった条例の規定を通じて、緩やかな用途純化を目指しています。また『工場跡地を工場に』すべく、製造業の事業用地として売却した際に、元の土地所有者に対して補助金を交付するなどの支援を講じることで、製造業集積維持につなげていきたいと思っています。この補助金を交付する支援は、平成26年度新規施策で、事業用地継承支援対策補助金としています」

■緩やかな用途純化の誘導を講じた次の段階として工場用地の確保に向けた強い規制。

 「モノづくり推進地域の一部のエリアでは、工場用地保全に向けた特別用途地区や地区計画などの都市計画手法と、土地利用方向の制限に対応した支援措置パッケージとして講じていくことを明文化し、条例制定後、速やかな施策展開を進め、適用事例を積み重ねていくことによって、こうした強い規制の指定範囲を順次拡大して、モノづくり企業の操業環境の保全や用途純化を目指しています」

■モノづくり推進地域の追加指定や解除も実施されている。

 「条例第10条に規定されたモノづくり推進地域の指定(準工業地域の新たなエリア指定)については、25年度に実施した製造業事業所など立地調査の結果をもとに、審議会で指定の考え方や方法について議論いただき、それを受けてモノづくり推進地域の指定に関する市の考え方を決定し、準工業地域の大部分、約91%を追加指定することを平成26年1月31日付で告示し、平成26年4月1日に施行しました」

■26年度の拡充予算はいくらですか。

 「工場移転支援補助金は1500万円を計上しています。対象地域をモノづくり推進地域の追加指定に併せて拡充し、具体的に補助率を2分の1から3分の2、補助限度額を200万円から500万円に拡充し、これは平成26年度から30度の5年間の時限措置としています。相隣環境対策支援補助金も1500万円を盛り込み、補助率を2分の1から3分の2、補助限度額を100万円から300万円に引き上げました。これも同じく今年度から5年間の時限措置としています。補助金といえども、なかなか多くの金額は使えません。この金額で果たして事業者に満足していただけるのだろうか、その効果や事業者の意欲が出てくるのだろうかと心配していますが、とりあえず一歩踏み出そうと思いました」

■都市計画の観点からのまちづくりについて。

 「都市計画手法では、まず、住工共生として住宅と工場が仲良く建ち並ぶようになるのが第一段階。ゆくゆくは用途純化を実現させ、住宅系の地域には住宅、工業系の地域には工場が入ってくるという住み分けを目指しています。例えば工場の比較的多い地域を選び、都市計画手法を活用する地域として平成25年度に実施した立地状況などの調査の二次調査結果を踏まえ、対象地域の選定を進めています」

   公共施設再編整備

  新市民会館建設は情報発信


   小中学校の耐震化や浸水対策も万全に

■話は変わりますが公共施設再編整備についてお聞きします。

 「本市は昭和42年2月1日(1967年2月1日)に布施市、河内市、枚岡市が合併し、大阪府下31番目の市として発足しました。ちょうど合併時あたりから高度成長期にかけての建物が老朽化に伴い建て替えの時期にきております。施設全体をどう配置していくか、あるいは古い施設をどう管理していくか、この観点を取り入れて公共施設のあり方、再編を考えています。具体的に本市の中に資産経営室を新たに設けて公共施設の再編計画を作り、これに基づいて、市全体を考えて施設をどうするか、再編に取り組んでいるころです」

■昨年は新市民会館整備基本構想も策定されました。これも公共施設再編の一つですね。

 「当然この中に含まれており、大きな施設になります。この基本構想は、市の現状や市を取り巻く状況を分析し、市民の意見を把握するとともに、懇話会や庁内検討委員会で議論と検討を重ねたうえ、パブリックコメントを経て策定しています。世界的に有名な有識者も懇話会のメンバーに入っていただき、いまイメージ作りをしています」

■基本構想の内容について。

 「昭和42年に建設された市民会館と文化会館は、これまで市民の文化芸術活動の拠点として、また豊かな暮らしや交流などを実現する場として、広く活用されてきました。しかし、築後50年近くが経過していることから、老朽化が進行し、耐震性についても課題となっていました。建設予定地は近鉄奈良線八戸ノ里駅近くの旧中央病院跡地、御厨南2丁目に計画しています。今年度中に、この基本構想を踏まえ、施設のより具体的な内容を盛り込んだ基本計画を策定し、平成31年度の完成を目指して整備を進めていく計画です。旧市民会館と文化会館を集約して一体化する新市民会館は、全国的にも珍しいのではないかと思います」

■東大阪市のシンボルにふさわしい文化芸術の創造と発信の拠点になるわけですね。

 「はい。基本的な考え方は、『文化と芸術が生まれる空間』『人とまちと文化を結ぶ交差点』『創造を発信する拠点』とし、『鼓動・協働・躍動 ワタシを動かす場所?ワクワク・感動工場?』を基本コンセプトに掲げています。この基本コンセプトを実現するために、ハード面はソフト面を後押しすることを念頭に一体として整備を図りたいと思っています。『モノづくりのまち東大阪』の町工場が挑戦心・創造性を育み、ナンバーワン、オンリーワンを達成したように、新市民会館では市民が文化芸術と出会い、生み出し、育てることのできる、ワクワクするような施設となることを目指しています。主な導入機能として、大ホール、小ホール、リハーサル支援、展示、大小会議室、屋外緑地などで構成する考えです」

■再編について市民の反応はどうですか。

 「皆さんには賛成していただいています。ただ、旧市民会館・文化会館の跡地をどうするのか、無くなった後の賑わい・活気をどうするのか、またニーズがあるのかどうか、いま民間の調査も実施しています。どうしても新市民会館の方に目が向きがちですから」

■次に小中学校の耐震化事業についてお伺いします。

 「平成27年度末までに完了する予定です。市内80校ある体育館については、災害時の避難場所としてすでに耐震化が完成しています。いまは、校舎の耐震化を実施しています」

■入札関係についてはどうですか。

 「いまのところは、不調・不落、また工事の遅れもありません。ただ、入札業者の参加数が少なくなくなりました」

■浸水対策については。

 「東大阪市は寝屋川流域で昔から雨に弱いところ。そのため一定の整備は進めてきました。昨年の豪雨では床下・床上浸水はありませんでした。しかし、まだまだ油断はできません。市民ニーズからすれば、 ひと昔前よりも今の方が心配されています。ゲリラ豪雨で心配されている。昨今の気象条件を考えると、なお一層不安を感じておられるのも事実です。その一方で、本市は下水道事業をはじめ浸水対策を充実させていますから、安心感をもたれる市民もあるようです」

■なるほど。浸水対策にも力を入れておられる。

 「全庁的に取り組む浸水対策の基本方針を昨年3月に策定しました。まず三本柱として、1つ目はハード面対策として、河川や下水道を中心とした雨水幹線を整備すること。 加えて道路などにおける透水性舗の設置や地下空間に雨水を浸透させることですね。2つ目は民間の雨水貯留浸透施設に対して負担金などで支援しているほか指導を行っています。3番目がソフト対策として、 洪水リスク図を使った住民への啓発活動の実施。最新の気象情報の入手方法としては、国土交通省の降雨レーダーから情報を入手するなど、多様な情報入手手段を確立しました。また、市民に避難の危険性がある場合は、 平成25年度に203ヶ所に増設した、防災行政無線屋外スピーカーを利用し、瞬時に避難情報の伝達を行います」

■代表的な雨水幹線整備を教えてください。

 「いま動いているのは大蓮地区で実施している増補幹線。貯留規模は数万トンで、北側は完了し、残りは平成27年度に完成する予定です。国土交通省の補助金も得ています」

   ラグビーW杯誘致

■今後のまちづくりと建設業界に期待されることがありましたら。

 「本市は市庁から1時間あれば伊丹空港、大阪港・神戸港、京阪神の主要都市、和歌山でも行ける関西の中核都市です。この利便性が事実上東大阪トラックターミナルを有するOTKの利益の半分以上を生み出しています。 今後は流通の拠点あるいは本市が関西の中心になって情報発信の拠点になることを願っています。また、本市はいま25の駅があります。いまJRが本市と平野区の境界付近で駅舎を建設していますが、 これが平成29年度末に完成すれば26番目の駅が誕生します。こうした意味で関西の中でもポテンシャルが非常に高い。これをいかに東大阪の特色であるモノづくりに生かしていくかですね。 これからはどう民間が動いてくれるか期待しています。建設業界に対する要望は技術革新。ひとつは本市の場合、土地を求めて開発ができませんから、すでにあるところをスクラップアンドビルドしなければなりません。 典型的な例として西消防署の事業があります。これも消防署を動かしながら整備します。ですから既存の施設を機能させながら新たな施設に更新する技術革新を期待しています。また、建設業界からもこうした新技術について提案していただきたい」

■最後に2019年のラグビーワールドカップ(W杯)の開催地として立候補されています。

 「アジアで初めて開催されるラグビーワールドカップです。本市を含めて14の自治体が立候補し、今年3月に決定されます。西の東大阪市、東の岩手県釜石市が有力だと聞いていますが、 私は花園ラグビー場に決定されるのは間違いないと思っています。ラグビーを通じてスポーツのまちづくりはこれからの課題となります。スポーツとまちづくりを、よりよいものに仕上げていきたい。 近くに野球場があります。いまオリックスの2軍の公式試合に使用されていますが、オリックスの担当者からはグランドが最高によい、大リーグのグランドを思わせると称賛の言葉をいただいています。 こうした意味から花園をひとつの核としたまちづくりを実施したいと思っています」



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