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大阪府左官工業組合 邑智保則理事長  【平成25年12月16日掲載】

未来がかかる「適正単価」

出前授業などで若者確保へ


 建築工事での仕上職種である左官工事でも、躯体職と同様に低単価と職人不足が続いているが、公共事業の増加と公共工事設計労務単価の引き上げは左官工事にどう影響しているのか。日本左官業組合連合会副会長でもある大阪府左官工業組合の邑智保則理事長(邑智組代表取締役)に聞いた。

■公共工事増加の兆し、設計労務単価の引き上げの実感はありますか。

 公共工事の増加については建築の場合、大学等の学校関係では多少はありますが、所管は文部科学省です。耐震工事にしても地方自治体が中心で、それほど増えているわけではない。特に大阪では、営繕関係で国土交通省の直轄工事はなく、そういった意味からでは殆ど兆しも感じられないと言うのが正直なところです。設計労務単価に関しては上昇傾向にあると感じております。

■単価のアップは職人不足に関係あるとも言われておりますが。

 職人不足については左官の場合、作業工程の関係もありますが、8月から9月にかけて職人不足が目立ってきた。組合としては、5月の総会から不足傾向にあるとは指摘はしておりました。昨年も大きな現場を中心に大阪では職人不足が言われ出しておりましたが、その時は補うことができた。しかし、今年の職人不足に関しては、地方でも職人が足らず支援を要請できないことも分かっていた。このような状況の中では単価を上げざる終えなくなっていることは確かだ。

■現在の労務状況はいかがです。

 地方の場合、大阪や東京に比べ、もともとキャパが小さく職人の数も多くなかった。ところが公共投資が増えたことにより、仕事も増えたことから不足してきた。中国地方の組合関係者と話したところ、山口や広島、岡山でも職人の手が足りなくなっており、四国でも同様の状況で、職人を手当したくてもできない状況になっている。この状況の中で、元請側は他地域から集めれば補えるとの考えがまだ残っておりますが、もはやそういった状況にはなく、逆に地方の職人不足をどうするかといった話しも出てきている。

■地方でも職人不足が顕著になっている。

 ただ、大阪の状況を考えた場合、コンクリートの量から見れば、そんなに工事量自体は増えていない。土木工事は増えているが、建築工事は、うめきたやハルカス等の大型工事が終わったこともあり、増えているとは言えない。しかし、労務単価に関しては、4月以降から元請側も引き上げの努力はされており、職人不足は実感されているのではないか。いずれにしろ左官に限らず、仕上げ業種全般で職人が不足しており、基本的には上げざるを得ない状況になってきている。

■社会保険加入に関しては。

 大阪で10月21日に開催された社会保険未加入対策推進近畿地方協議会での標準見積書の一斉活用の確認を受け、組合として22日付けで、15%アップとした設計労務単価を記載した標準見積書とともに、日左連の書面を添付して元請に提出することとしました。アップ率15%といえば約3千円程度、ほぼ保険料と同額と見てもいいでしょう。ただ、これにより法定福利費を受け取れるかどうかは、組合各社の問題でもあり柔軟な対応が求められます。法定福利費は預り金であり、単なる労務費の上乗せ金ではないことを明確にすること、いわば消費税と同じ考え方です。支払を受けられない場合は、見積書にその旨を記載し、元請とともに双方の了承印をもらうように通達しております。

■なるほど。

 ただ、法定福利費に関していえば、元請側は別枠計上ではなく一括しての支払いを望んでいるようです。このため組合でも、そのあたりについても各社が十分に考えて対応するようには説明しております。社会保険加入に関してはここ1年か2年の間に加入が進むことから、法定福利費の支払は確保する必要があり、それに伴い単価も上がってくるとは思います。いずれにしろ単価を上げていくことが必要となってきます。

■今後の人材確保や育成については。

 人材の確保については、組合として実施している出前授業があります。これが直ぐに入職促進につながるかどうかは別問題ですが、まずは第一歩を踏み出したと言える。ただ、若者を集めるためには、やはり賃金を上げることが重要だ。そのためには、それぞれの会社が適正な単価で仕事をすること。それは単に利益を上げるためではなく、保険料等の必要経費を確保することで、これまではそれらを値引きしてやってきた。今後は、自社の利潤を確実に守りながら次の一歩を踏み出すことで、そうしないと我々の未来はない。このため、組合としても、そういった部分をPRしていきますが、時間はかかると思っております。

■確かに時間を要します。しかし、東京オリンピックの開催が決まったことで、関東方面へ職人が流出する懸念は。

 大阪に仕事がない状況を考えれば懸念はしています。ただ、年齢構成を考えた場合、50歳代後半から60歳代にかけての職人が動くかどうか。関西で仕事がなければ若い職人は動くでしょうが、それほど若い職人がいないという現実もある。職人離れや入職者を増やすためには、結局のところ単価を上げることが一番重要。かつての単価に戻れば、現在の課題や問題はある程度解決することは可能だと思っている。低単価は元請側の安値受注から来ており、それが自らの首を絞め格好になっている。東京に比べて低い単価のままの現在の状況が続けば大阪から職人がいなくなる可能性はあります。単価は一気に下がるが、上がる場合は少しずつしか上がらない。単価のアップは一に元請側の決断にかかっている。

(文責=渡辺真也)


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