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近畿建設躯体工業協同組合 渡辺睦翁副理事長  【平成25年12月09日掲載】

まず職人の離職ストップ

作業環境の改善も必要


 躯体職の中で、鉄筋工と並んで技能労働者不足が指摘される型枠大工。既に絶対数が不足している中、公共工事設計労務単価の引き上げや社会保険未加入対策による効果は出てきているのか。近畿建設躯体工業協同組合の型枠部会長でもある渡辺睦翁副理事長(翁有建設代表取締役)に型枠工の現状を聞いた。

■国の経済対策により公共事業が増加しておりますが、実際に工事量が増加したとの実感はありますか。

 リーマンショック以後の一時期に比べれば増えてきてはいると思いますが、どっと増えたかと言われれば、正直、そういった感じはありません。当社の場合、関西エリアでしか仕事をしておりませんが、その範囲では一番悪い時期からすれば工事は出ているとは感じますが、ボリューム的には、そんなに増えた感じはしておりません。

■設計労務単価引き上げに関しては。

 設計労務単価では、手取り賃金に保険料の自己負担分を合計したものを標準単価としておりますが、それは一定の目安となるものです。労務単価は地域によっては、実勢単価とかけ離れた場合もあり、必ずしも設計労務単価に合わせることはできません。大阪では型枠大工の単価が1万7500円から2万200円に上がりましたが、実際のところ建築工事の場合、土木工事に比べて今のところ対象工事がないため、引き上げの実感はありません。ただ、単価自体は今春から少しずつ上がってきてはおりますが、それが労務単価引き上げによるものかどうかは分からない。しかし、労務単価の引き上げ自体は、労務比率が上がってきていることを考えれば元請側にしても理解を得やすくなってきているかも知れません。

■単価の上昇に関しては人手不足から来るものが要因と言われています。

 その通りだと思います。設計労務単価の引き上げより、職人不足が最大の要因で、労務単価の引き上げがなくても上がっていかざるをえない状況になってきています。労務の需給バランスによるものと言えます。ただ、先程も言いましたが、労務単価が引き上げられたことにより、単価アップに関しては元請への理解は得られやすくなっています。

■標準見積書の活用に対する取り組みでは。

 法定福利費に関しては別枠計上としています。平米単価から、資材や運搬等の諸経費とともに明細として計上しています。標準見積書に関しては、組合として4月に説明会を開催し、11月末に一斉活用に係る再確認を行いました。既に組合員のうち数社は、標準見積書の提出を始めています。元請側では職種別にばらばらに提出されるより、揃って出してほしいという意見はありましたが、見積書自体に関する元請の対応としては全国大手から中堅、地元企業と、対応には温度差はありますが、周知もされていることから各社とも理解は示されております。

■提出に伴う環境整備はある程度できている。

 我々としては、こういった制度も出来たことですし、今後、原則的には全ての現場に標準見積書を提出していこうと考えております。ただ、公共工事はともかく、民間工事については、保険料の原資が確保できないとして、当面は対象外とされるところが多い。民間工事については我々もある程度は理解できます。しかしながら、いつまでもその状態を続けるわけにはいきませんから、その対応については今後、元請各社に要請していくこととなります。

■現在の労務状況はいかがですか。

 型枠大工、解体工とも絶対数が不足している中、業者間での手当もままなりません。特に大阪の場合、他の地域に比べて単価が低く、どうしても単価の高い地域に流れていく。今後、東北での復興工事が本格化し、さらに単価に開きが出てきた場合、職人の本格的な流出が始まる可能性は充分にあります。社会保険加入も直に効果が出てくるとは思っておりませんが、その第一歩として進めていく必要はあります。また、二次業者に対する指導や加入に係る説明等を行う必要はあります。いくら貰ったら加入すればよいのか、いつから始めればいいのかなど、まだまだ判断に迷う部分はありますから、まず一次業者で再確認していきます。いずれにせよ各社それぞれの判断になります。

■職人をはじめ人材を確保する上での課題では。

 若い子の場合、入職者数は少なく定着率も低い状況が続いており、当面は在職している職人の離職を止めることが先決でしょう。そのためには賃金アップを含めた処遇改善上と、作業環境の改善も必要だと思います。特に夏季の作業時間の緩和は必要です。通常でも夏場は生産性が低下し、その低下した分を人を集めてカバーしておりましたが、現在ではカバーできるだけの人が集まらない。若い人は決して賃金だけでなく、長時間労働や不定休日等の労働環境を嫌いますから、その辺りを変えることも大事だと思います。また、一次業者に限らず、二次業者でも登録基幹技能者や一級技能士等の技能資格は、取れる人はどんどん取得していくべきです。そうした上で、有資格者に対しては、それなりに遇することも必要でしょうね。

(文責=渡辺真也)


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