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近畿地方整備 牟禮輝久・企画部技術調整管理官     【平成25年09月30日掲載】

多大な建設企業の役割

災害下の活動 BCP認定制度の意義

災害時の道路啓開に全力を


 「防災の日」と「防災月間」である9月には、災害に対する住民の意識を高めるとともに、行政側の備えの充実を図るため、全国で防災訓練や避難訓練が実施されている。しかし、発災時において復旧活動の最前線に立つのは建設業者であり、建設各企業における災害への備えは特に重要なものとなっている。このため建設企業に対し、災害時にも企業としての機能を維持し、継続した事業活動を実施するためのBCP(事業継続計画)の策定が求められているが、建設企業のBCP認定制度を行っている近畿地方整備局の牟禮輝久・企画部技術調整管理官に、BCPの意義や建設企業の果たす役割等を聞いた。

 (渡辺真也)

■まず、建設企業BCP認定制度の目的から。

 認定制度が創設された経緯から申しますと、平成17年9月の中央防災会議が発表しました「首都圏直下型地震大綱」を受けて、出先を含めて各行政機関で事業継続計画を策定することとなりました。このうち各地方整備局に先駆けて関東地方整備局で策定されましたが、その策定の過程の中で建設企業のBCPが重要であることが認識され、建設企業に一定の基礎的な事業継続への取り組みを実施してもらうこととし、その取り組み姿勢を評価し、認証するために制度が創設されました。

■大地震等の発生時における建設企業の役割には、いろいろとありますが。

 例えば地震が発生した場合、人命救助や救援物資等を輸送するための緊急輸送路の確保、二次災害防止のための活動などを最優先に実施する必要があります。しかし、それらの活動は行政の職員では行うことは出来ず、建設企業の方々にお願いすることになります。そのためには建設企業自体が動けなければ、行政の計画自体が成り立たなくなる。そのため個々の企業の意識が大変重要となってきます。
 企業の方々に、速やかに復旧活動にご協力いただくためには、企業自らが被災した場合を想定した上で、事業の実施と継続準備だけでなく、実働体制構築までの目標時間の把握や実効的な体制が確立されているか等を計画書だけでなく、それらを評価する仕組みを制度化したものです。

■認定制度は全国共通の取り組みですか。

 制度自体は、各地方整備局が、それぞれ独自に取り組んでいるものです。現在では、関東をはじめ近畿、中国、四国、東北で実施されております。近畿地方整備局の取り組みですが、南海トラフ巨大地震や阪神淡路大震災のような直下型地震が発生した場合、広域的に人的、物的に大きな被害が発生し、国民生活や経済活動に極めて深刻な影響を及ぼすことになります。その時に整備局としては、速やかな緊急輸送路の啓開や二次災害防止、さらに被災箇所の復旧を行うために建設業者の方々に協力をお願いします。
 また、発災と同時に建設業者の皆さんの下には、国はもとより地方公共団体、警察や消防、自衛隊や場合によっては地元自治会など、様々な機関や団体から重機をはじめ資材、人員等に対する応援要請が殺到することが想定されます。このため、これら要請に対し、建設各社が出来るだけ対応が可能となるよう、事業活動に影響するような大規模な地震や津波等の災害時等の緊急事態においても、自社の事業を中断させず、仮に中断したとしても仮復旧までの時間を短縮する方法を考えていただき、自社の被害を最小限に抑え、事業再開や被災支援体制を確立できるような事業継続計画の作成を求め、作成していただけた建設企業については支援を行うといった取り組みを進めております。

■やはり建設企業の役割は大きく、しかも多岐にわたっている。

 これら各社が策定した事業継続計画については、会社が有している基礎的継続力をある程度ピックアップして評価を行い、適合しているとされた企業を認定するもので、平成24年度からスタートし、年間2回の認証を行い、今年も10月1日の第3回目の認定も含めてこれまで403社が認定されることになります。認定を受けた建設企業は、近畿整備局が行う契約事項での一般競争入札における総合評価落差方式において、「企業の施工能力等」または「地域・社会貢献」の項目で、それぞれ1点が加点されることになります。なお、関東地方整備局では平成22年度から実施されております。

■加点評価の内容も整備局ごとに異なる。

 ほぼ同じとなりますが基本は人と物と場所になります。人については実際に動くのは人であり、その人たちが安否の確認を含め、安全に、かつ、いかに早く会社に集まれるか―といった点がしっかりと確立されているかということ。次いで物とは重機や資材等で、いざという時に使用できる機械や資材を持っているかどうか、場所については、自社の位置が洪水ハーザドマップの浸水地帯にあるかどうか、あるいは液状化地域はどうかなど、そういったことも考慮して、代替地や緊急連絡場所など、これらの対策を立てているかどうかを基礎的継続力としています。

■認定企業には元請が多く、実際に動く専門工事業者が少ないように思いますが。

 近畿地方整備局の認定制度では、当局に有資格登録されている業者であれば、企業の規模や専門性には関わりなく申請していただき、適合すれば認定させていただきます。これまで認定した企業では、一般土木やアスファルト舗装、公園、維持作業等があります。このうち一般土木を等級別で見た場合、A等級22社、B等級38社、C等級239社、D等級85社となっております。
 認定にあたっては、総合評価で加点されるというインセンティブがありますが、専門工事業者にとってインセンティブがあるかどうか。おそらく企業としてBCPを策定していたとしても申請してくるかどうか、その辺の確認はできません。

■やはりコスト面での負担を考慮する。

 ただ、これまでの審査を見ていますと、自社で策定された企業と専門の会社に依頼して策定された企業とでは明らかに違いがあります。コストを掛けて策定するのも良いんですが、自らが考えて独自に策定したものの方が評価は高いように思います。
 これまで3回の申請受け付けを行いましたが、2回目より3回目の方が申請数が多く、業者さんの意識が高まってきたのかと考えております。また今回の台風18号では、福井県や滋賀県、京都府で大きな被害が発生し、認定企業の中にはBCPにより活動を実践された企業もあると思いますので、これを機にさらにBCPへの意識が高まっていけばと思っておりますし、各府県の建設業協会との意見交換の場においても、情報提供や呼びかけを行ってまいります。
 管内の府県別では、大阪府が129社で最も多く、2番目に多いのが福井県で71社、次いで京都府の57社、兵庫県が49社、奈良県41社、和歌山県29社、滋賀県26社となっております。近畿整備局管内の場合、他の整備局と比べ業者数は非常に多いですが、構成比率で見ると低くなっており、特に大阪府は業者数の割合からいけば少ないように思われますね。

■さて、企業におけるBCPの重要性は認識されつつあるということですが、行政自体のBCPについては。

 近畿整備局では、近畿地方整備局防災業務計画をベースとして、平成21年6月に「地震対策編」が策定され、これが最初のBCPとなりました。その後、課題の抽出を行うとともに東日本大震災の教訓を踏まえながら、南海トラフ巨大地震における被害想定も出てきたことを受け今年3月には改訂を行い、近畿整備局としてのBCPを策定しました。この中では、本局が被災した場合の代替地の設定や救援物資の備蓄、他の整備局からの応援受け入れ体制など、具体的に細かく計画されております。
 また自治体に関しては、平成22年4月に内閣府と消防庁から、BCP策定についての手引きと解説に関する通知がなされておりますが、整備局としては把握しておりません。ただ、自治体独自に策定されているとは考えております。

■大阪湾に関しては、整備局はもとより、各港湾管理者による大阪湾BCPも策定されており、また大阪府では、府の防災会議で津波に関するBCPの必要性も提言されておりました。

 ある程度、特化することも必要かもしれませんね。道路啓開に関しても東日本大震災では、櫛の歯作戦が実施されましたが、啓開ルートで16ルートのうち一日で11ルートが確保されました。あれも背骨にあたる部分の骨格道路が整備されていたから可能となりました。近畿の場合、紀伊半島でも同様に計画できればいいんですが、背骨にあたる高速道路が未整備状態で、このため国道42号を活用した計画となります。

■BCP以外に建設企業に求められる備え、取り組みでは。

 災害の発災時には、自助と共助、公助の取り組みが必要であると言われておりますが、実際に発生した場合は個人の力、自力では限界があります。そういった時に、地域の有力企業であり、名士とされている建設業者の方々は、重機をはじめ必要な資材、技術力を有していることから、災害時には地域の公助の柱としての役割が求められます。
 そのためには、災害時だけでなく、その地域の防災計画や自主防災組織へ、専門家としての立場から積極的に参加され、関わりを持っていただきたい。災害時に率先した活動を行う上でも、日頃から地域活動にも取り組んでいただきたい。
 また、救援活動に必要な重機や資材、燃料に食料、人員についても一定量は自社で確保するように努めていただきたい。勿論、地域業者の方々が経営環境の悪化から重機を手放し、人員を削減していることは承知しておりますが、発災時にリース業者等の外部から調達することは困難な状況にあるということは認識しておくことも必要でしょう。
 このほか、それぞれの自治体のハザードマップなどで、自社の建物や倉庫、周辺地域が洪水浸水区域や崖崩れ、液状化等のエリアに含まれているかどうかの確認、対象区域であった場合の対策と代替策などを策定しておくこともお願いしたいです。

■近畿各府県の建設業協会等では、整備局をはじめ、それぞれ地元自治体と災害協定を結んでおりますが、発災時にはどの協定を優先すればいいのか、判断に迷うことがあると聞いておりますが。

 その点に関しては、我々も各府県も、建設業協会もそれぞれに問題意識は持っており、既に個々に協議も始めております。災害の規模や被災状況に応じての調整となるでしょうが、府県と整備局とも災害協定があり、お互いが情報を共有しながら迅速に動けるような体制づくりを進めていきます。しかしながら、特に人命救助にあたっては、生存者救助の8割は24時間以内、また72時間が生存率の目安とされておりますが、これら人命救助へ結びつくための最重要課題が道路啓開です。そのためにもBCP認定企業には、公共機関からの要請がなくても先頭に立って動いていただきたいですね。



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