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大阪府住宅まちづくり部都市空間創造室 山下久佳室長  【平成25年05月27日掲載】

「グランドデザイン・大阪」実現に向けて

うめきた、御堂筋先行

年内に緑化コンペ


 大阪府市統合本部では昨年、大阪の将来像を描いた「グランドデザイン・大阪」を策定した。大阪市内に6つの象徴的エリアを設け、それぞれの地域性を生かしたまちづくりを進めるもので、既に実現に向けた具体的な動きも出ている。このグランドデザインをとりまとめるとともに、実行チームとなるのが大阪府住宅まちづくり部都市空間創造室で、同室では、グランドデザイン・大阪に続き「グランドデザイン・大阪都市圏」の策定にも着手している。こうした中、チームを束ねる山下久佳室長に今後の取組み等を聞いた。

(渡辺真也)

■まず、グランドデザイン・大阪の実現に向けた動きからお聞かせ下さい。

 6つのエリアの内で、先行していると言えるのが新大阪・大阪エリアのうめきた、御堂筋エリアで、特に昨年度は、うめきたに関して、大阪府市、経済界さらに国も加えた大阪駅周辺・中之島・御堂筋周辺地域都市再生緊急整備協議会会議・大阪駅周辺地域部会で、うめきたと周辺のみどり化についての検討を進め、今年4月にはみどりのあり方について一定のまとまった緑化とその実現に向けたコンペの実施などの方向性が示されました。コンペでは、2段階方式で民間から提案を求めることとし、今年度内にはコンペを実施します。
 また、御堂筋に関しては、大阪市の都市計画審議会に専門部会を設置しており、景観形成における高さ規制の撤廃について最終的なとりまとめを行っております。ここでは、現在50メートルとしている軒先を揃えながら、セットバックによる高さ制限をなくすもので、言わばパリとマンハッタンのの街並みのいいとこどりをしたものとなります。今年度には、地区計画の案を都計審に諮り、制度設計を行ってまいります。

■うめきたに次ぐエリアでは。

 夢洲・咲洲エリアへの取組みのうちアクセスの改善では、2つのトンネルで無料化を実施することとし、既に実施している夢咲トンネルに続き、今秋からは咲洲トンネルでも土日祝日の無料化を実施します。トンネルに関しては現在、平成26年度の全面無料化に向け議論が行われており、一定の方向性が出てきております。夢洲に関しては産業・物流ゾーンのインフラ整備が一部完了しますので、今年度から約16ヘクタールの分譲を開始します。

■咲洲の土地利用に関しては。

 従前からのコンベンション施設や商業・業務施設、物流機能が立地するなど、ある程度の集客は見込めることから、これらをいかに組み合わせてさらなる賑わいに結びつけていくかということがポイントになります。夢洲・咲洲地区まちづくり推進協議会が発表した中間とりまとめにより、トンネルの無料化やペデストリアンデッキ整備、国際戦略総合特区の指定など、一定の成果を上げていることから、さらに一歩進めた議論をしていくことになります。
 また、専修学校が既存施設を利用した漫画芸術ミュージアムの開設を予定しており、これらを契機にコンテンツ産業やサブカルチャーの拠点など、新しい実験場としての土地利用も出来ないものかといった誘導策についても協議会で議論を進めていければと思っております。

■なんば・天王寺・あべのエリアでは。

 阿倍野地区でハルカスが来年竣工しますが、阿倍野地区だけでなく、阿倍野と難波、その間にある天王寺がつながれば、一大スポットになると思っております。動物園や美術館も含めた一体化が実現すれば、すごいパワーを秘めたエリアになる。動物園の民営化など、今後議論する必要はありますが、議論にあたってはエリア全体を見た広域的な観点が必要ですね。

■各エリアを結ぶアクセスとしてLRTの導入が計画されておりますが。

 動物園や美術館等をつなぐ移動手段として打ち出しておりますが、LRTという言葉だけが先行してしまうとLRTを整備することが目的であるかのような誤解を招いてしまいます。あくまで自動車を抑制し都心部を歩いて楽しい空間とするため、地域間の回遊性を向上することが目的です。各エリアをつなぐものの基本になるのはみどりです。特にうめきたと難波をつなぐ御堂筋は、みどりの拠点と位置付けております。
 そのうち大阪駅周辺では、阪急に続き阪神百貨店の建替え計画が動き出しています。今後、各種の規制緩和を積極的に活用して、老朽化したビル群の建替えなどが進めば、うめきたから難波をつなぐ軸線をみどりで確保することができるのではと議論が進められています。その中で安藤忠雄さんが計画された大阪丸ビルの壁面を緑化する「都市の大樹」プロジェクトも5月末に完成します。

■大阪駅前ビルを活用した緑化計画もある。

 駅前ビルに関しては、丸ビルや阪神百貨店が整備されれば、みどりの軸ができ、それに連なるものとして4つの駅ビルと御堂筋が一体化することになります。ですから今後、それらをどのようにリニューアルするかが今後のテーマです。そこをクリアできれば完全に御堂筋と一体となり、難波駅前につながっていきます。

■御堂筋を中心とした南北軸に比べ、東西を結ぶ軸線にインパクトが少ないように思います。

 中之島はブランド化が進んでいます。特に1丁目から4丁目の肥後橋の中之島フェスティバルタワーまでにかけては、ダイビルや関電のビルを含めてかなりグレードアップしてきており、4丁目以西も新しい美術館の構想や市有地などがあります。この辺りもみどりを重視しながらつなげていきたいと考えております。また、大阪市中央卸売市場周辺を中之島ゲートと名づけて、都市魅力創造戦略の中で新たな舟運や食を活用した観光拠点としてポテンシャルを高める構想もあります。中之島を東西の軸として大阪城のみどりと連続する取組みを考えております。今年度の取組みは、うめきたの整備と御堂筋の制度設計等に取り組みながら、都心部の交通体系について調査を行い、LRTについても南海電鉄や阪堺軌道とともにルート選定など技術的検討を進めます。

関西全体を視野に入れて

建設業界からの提案に期待

■さて、グランドデザイン・大阪都市圏ですが、これへの取組みとしては。

 グランドデザイン・大阪を策定する過程で、府市統合本部や議会で、府域全体を対象としたグランドデザインを描く必要性についての議論がありました。また、グランドデザイン・大阪の策定においても、インフラ整備も含めて大阪府域全体を見渡した上で検討していましたが、どうしても象徴的エリアだけが注目される結果になり、この反省も踏まえて、府域全体を対象としたグランドデザイン・大阪都市圏の策定作業が始まりました。
 策定にあたっては、大阪府域だけで考えるのではなく、関西全体も視野に入れることとし、概ね関西大環状道路の内側のエリアを見据えております。実際、奈良県や兵庫県、和歌山県とは生活圏として一体的になっています。海側と山側、内陸部も含めた範囲で検討を進めていきます。
 また、各市町村をはじめ経済界など、いろいろな立場の方々の意見を伺いながら進めていきます。
 ただ、これまでの道路や鉄道、港湾等のインフラ整備に関する議論との違いは、各市町村が地元地域だけを捉えて意見や要望を出すのではなく、大阪、関西全体を発展させるといった観点からの議論を重ねていくことが重要です。例えば、淀川に閘門を造るといったプランについて検討されています。淀川は現在、淀川大堰により船舶の航行が遮断されていますが、これを閘門によりつなぐことができれば京都から直接大阪湾に出ることができる。それにより、ベイエリアと川沿いの宇治市や島本町、枚方市等の地域がつながる。広域的な河川の活用という点で、まさにグランドデザイン・大阪都市圏で我々が目指すところでもあります。

■策定にあたっての素案、たたき台のとりまとめはどの辺の時期を見込んでおりますか。

 今はまだ、アウトライン作成に向けた作業に着手し始めたところです。府市大都市局で策定するビジョンでは、都市空間だけでなく、福祉や医療等のソフト面も含め、我々とも連携したビジョンづくりを進めております。進捗にあたっては、当然ながら我々のグランドデザインの議論と歩調を合わせ、整合を図る必要があります。夏頃までにアウトラインを打ち出せればと思っております。

■グランドデザイン・大阪では、短期的目標と中長期の目標が設定されておりますが。

 都市魅力戦略会議では、当面の目標として2015年をシンボルイヤーと位置付けており、府市による各種のイベントのほか、民間による取組みのアイデアも多々でてきております。我々としても何らかの形でアピールできればと考えております。それぞれのエリアで行われるイベントに対して、単にイベントだけで終わってしまうのではなく、それを通じてより魅力的な都市空間が形成される、あるいは、よりよい都市空間が形成された場所でイベントを行うことでより一層魅力的な都市空間にするなど、相乗効果が出るようにと考えています。現在のところでは、中之島エリアの整備について、2015年を意識して重点的に進めています。
 また、阿倍野から難波を結ぶLRTに関しては、現在、恵美須町まで運行している阪堺線を難波方面へ延伸するなど、2015年までには事業着手に一定の目途をつけたいと思っております。LRTの整備は、道路の占用許可を得るだけで済み、用地買収は不要なため、事業者にとっても大きな負担にはなりません。問題は、交通処理をどうするかや沿道への影響をどうするかなどで、そういった点を行政がしっかりと調整していくことになります。

■グランドデザインの実現にあたって建設業界の果たす役割等で期待される部分はありますか。

 我々としては、うめきたの場合と同様に、民間事業者がいろいろな提案が出来るような仕組みづくりを行ってまいります。グランドデザインを実現することは、まさに都市空間を変えていくことであり、その中で建設業界としても単に発注者と受注者の関係にとどまるのでなく、これまでに培ってきた経験や技術、蓄積してきたノウハウを生かしてどんどんとアイデアなり、提案なりを出していただきたい。また、提案やアイデアを出す場合でも、障害となる規制や変える必要のある制度などに関しても意見を出していただきたい。
 グランドデザインでは仕組みのグレート・リセットを掲げ、行政主導ではなく民間主導としております。これは民間の知恵や投資を呼び込みやすくすることがねらいで、不要な規制があれば撤廃していきたいと考えております。御堂筋の高さ制限の撤廃などもその一つで、これまで規制があるためにやりたくても出来なかったことなど、そういった規制緩和についても意見をいただきたい。
 また、グランドデザインでは、みどりを中心にした開発を主眼としていることから、緑化に関する技術の開発、提案もお願いしたい。例えば、既に取り組まれている工事現場の仮囲いを利用した緑化など。特にうめきたの大規模開発を実施する場合は長期にわたるため、可能なスペースは全て緑化するなどの取組みを実現してほしいですし、それに係る規制緩和も考えていきます。業界の取組みに期待します。

■グランドデザインが描く大阪の実現に向け、今後もご尽力下さい。ありがとうございました。



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