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大阪府建団連 北浦年一会長  【平成25年03月04日掲載】

ダンピングによって崩れた請負制度

出面清算では職人守れず

元請も下請も「腹決める時」


 熾烈な受注競争が長期間続き、専門工事業者の利益率も大幅に低下していった。また、それによって『1人いくら』、いわゆる出面精算が増えてきたという。もっとも出面となると本来の請負仕事と比べ、社会保険など経費の確保、さらには生産性や安全性での弊害を懸念する業界関係者も多い。「かつての請負制度には魅力があり、技能伝承においても優れていた」とする大阪府建団連・北浦年一会長に実状などを聞いた。

(中山貴雄)

■会長はかねてより、常用単価のあり方に異議を唱えられています。

 「本来の請負制度のもとでは、常用単価を論じること自体がおかしい。ましてや、ゼネコンと職人を持たない一次下請で常用単価を決めることなどもってのほかだ。偽装請負の懸念がある。約50年前、私は請負契約の出面払いで処分されたが、その頃から業界体質は一向に変わっていない」

■その頃よりコンプライアンスは厳しくなったが出面は増加したと。

 「かつては、現場の掃除や片付けなどサービス仕事に限って出面精算だった。また、建築工事は職種も多く、元請もやむを得ず常用とした部分もある。ところが、元請のダンピングが常態化して急激に変わった。大工や鉄筋などの職種を除き、7割〜8割くらいが出面になったのではないか。ダンピング工事では元請も、最初からできない単価を指値してくる。『uいくら』の請負では赤字となり、下請も出面精算でやるしかない。一方で元請もコスト管理しやすい。加えて工期が厳しくなって応援が多くなり、それに伴い常用が増えた面もある。だがこのままでは、一部の一次業者は請負でやっていく自信を失うだろう。二次に丸投げで若い衆の技量を把握してないから…」

■ダンピングでの採算悪化。その影響は大きい。

 「やはり専門工事業者は請負で仕事して、適正な経費を確保すること。そうなれば職人を正規雇用して社会保険もかけられる。結局、叩き合いによって一次業者の粗利益率も1割くらいに低下してしまった。こんな水準では職人を守りきれない。おまけに出面精算では経費欄がなく、法定福利費さえ確保できない状況だ」
 「当然、こうなったのは一次業者の責任も大きい。『請負では損する。だから、出面でやって食える分だけもらえばいい』と受け入れた。かつての下請のオヤジ連中は、持ち出しの工事を毅然として断っていた。それだけの器量も意地もあった」

■請負制度を再評価することも必要でしょうね。

 「そもそも請負制度というのは、親方が儲けられる制度でもあった。私の若い時分には『親方になって儲けて家でも建てよう』。みんなそう思って腕を磨いたものだ。それだけ魅力があったし、親方も若い衆の面倒をよく見た。そして棒心(職長)でも、今の金額で月50万円〜60万円程度は稼いでいただろう。だから若い職人は先輩を見て、『今は賃金も安いが、頑張って棒心になってやる』と。きつい仕事でも辛抱できた。その意味では、技能伝承においても非常に優れた制度だと思っている」

融通できる体制も必要

■最後になりますが、今後の取り組みについて教えてください。

 「最近になって、ようやく大手ゼネコンでも叩き合いをやめる気運が高まってきた。下請もそれに向けてまとまる。今こそ両者が腹を決めないと手遅れになる。一方、ダンピングが保険未加入という違法状態をつくり出している。その意味では、大手の元請と下請が率先して襟を正すのは当然のこと。それがあって職人の保険加入も可能になる。加えて国土交通省と厚生労働省には、しっかり連携をとって指導していただきたい」
 「とはいえ、現状では全て保険加入とするのは不可能だ。個人的には、まず一級や二級技能士の有資格者に絞り、進めるべきだと思う。あわせて派遣法を見直し、保険加入した職人を業者間で融通できる体制も必要だろう。現実問題として、仕事を平準化しなければ直用の業者はもたない。もちろん、この点は行政に対して強く主張していく」
 「また私が常々訴えているのは、全体の3割程度、つまり現場の芯となる人材を何としても守れということ。彼らが一家4人で暮らせるよう年収5百万円を確保して、保険にも加入する。これが処遇改善の第一段階だ。さすがに夢は持てないかも知れないが、セーフティネットがあり安心して働ける。これなら親方も職人を説得できる筈だ」



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