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近畿地方整備局建政部 山田俊哉部長  【平成25年01月07日掲載】

社会保険未加入対策の推進へ

来年度から具体的な行動

元請の下請への指導が重要


 国土交通省建設産業戦略会議が提言した「建設産業の再生と発展のための方策2011」と「同方策2012」では、技能労働者に対する社会保険をはじめとする労働三保険への加入を義務付け、未加入企業は公共工事から排除する方針とともに、加入促進に向けた具体的な施策が示された。人材離れが加速し、若年者の入職が困難な状況にある専門工事業界にとっては、技能・技術の継承が懸念されることから、早期実現に向けた期待が高まっている。取り組みの推進役となる近畿地方整備局建政部の山田俊哉部長は、来年度から本格化するこれら取り組みにあたり「都道府県での取り組みと元請から下請への指導が課題」とする。その山田部長に今後の展開を聞いた。    (渡辺真也)

■まずは、社会保険未加入対策に関する、これまでの取り組みについてお聞かせ下さい。

 今年5月に、社会保険未加入対策推進協議会が国土交通本省で開催され、これを受け8月には近畿地方の推進協議会を開催し、建設業団体42団体をはじめ、行政機関等を含め74団体に参画いただき保険加入に係る周知をお願いしました。これ以後も建設業者及び発注者を対象とした講習会を随時開催し、これまでに計43回開催して周知を図ってきております。さらに11月からは、建設業許可申請において社会保険等への加入有無の厳格化が始まり、未加入業者のチェックや立入検査による改善指導を実施してきております。
 ただ、対象となる工事が11月以降の案件となるため、実際には来年度から本格化することになります。現在は、その準備期間として、立入検査の実施に当たってはどういった問題点があるのかなどを整理し、来年度からの実施をスムーズに進めるための検討を進めております。ですから今年度は周知が中心になり、具体的な行動は来年度からとなります。しかしながら今年度につきましては、件数は少ないながらも11月以降の契約案件については実施していくことになります。

■施工体制台帳への記入も始まりました。

 これも11月以降の発注案件を対象としております。工事契約にあたり元請と下請の保険加入状況の記載と、下請企業は再下請企業の加入状況を確認することになっております。これに伴い、台帳様式の変更を行い様式については当局のHPに掲載しております。

■加入促進に対する取り組みは。

 業界に対する周知として、これまで講習会などを開催してきたわけですが、出席していない業者の方々がいることは事実でして、まだまだ認識が不十分な部分があると思っており、引き続き周知を図っていく必要はあると考えております。許可申請でのチェックに関し、元請企業については、大臣許可業者と各都道府県の知事許可業者がありますが、やはり未加入企業の場合、知事許可業者の占める割合が高くなっております。このため、知事許可業者については各府県で十分に認識していただくため、我々としても連携強化を図ってまいります。
 下請企業に対する元請企業の役割に関しては、「社会保険加入に関する下請指導ガイドライン」が作成されており、これに基づき下請企業への指導を要請してまいります。この元請企業の下請企業に対する指導が上手くいくかどうかも一つの課題だと考えており、このため、まずは元請企業の認識を変えていただき、適正な指導を行っていただけるようにすることが重要だと思っております。

■保険加入の原資となる法定福利費の確保については。

 発注者が元請企業に対して、法定福利費を確保するため、国交省の直轄工事では見積に含めるための法定福利費の割合を見直しました。昨年4月以降に発注した直轄土木工事では、現場管理費率式を見直して、従来より4%程度アップしており、直轄工事に関しては既に積算に含んだ形で確保しております。しかしながら、地方自治体や民間工事についてはまだ明確になっておらず、府県レベルでは国交省に準じた形での要請は出来ますが、民間工事に関しては強制することが出来ず、難しい部分はありますが、引き続き啓発活動を通して訴えかけていきます。
 また、今一つ懸念される部分としては、法定福利費の支払いに関し、見積で確保された法定福利費が、元請企業から下請企業に適正に支払われているかどうかです。現在、専門工事業各団体では、元請に提出する見積書など、法定福利費確保に係るための手続きを検討されており、それが形となって出てくれば、国交省としてもある程度のアクションは起こせます。

■下請指導ガイドラインでは、元請の下請に対する指導とありますが、下請企業の場合、一次業者は二次業者に、二次業者は三次業者に対しての元請の立場になる。

 元請と下請は、それぞれの契約であり、建設業法上からは、発注者から直接請負った企業が元請となり、一次、二次であれば二次に対しては一次が元請、三次に対しては二次が元請となります。ガイドラインでは、発注者から直接請負った元請が全てを見ることになっております。この場合、元請のゼネコンさんが、一次から二次、三次まで見ることになっております。
 ただ、元請のゼネコンが二次や三次までの下請企業を直接管理することは難しいため、三次業者については二次業者に、二次業者は一次業者に、それぞれ任せることとし、ゼネコンは総括的に見ていくことも可能としております。実態としては、そういった形になるでしょうが、いずれにしろ元請は、その全てに責任を負うことにはなります。

法定福利費確保へ取り組み   業界のイメージアップ効果も

■法定福利費を適正に確保するため、専門工事業各団体では標準見積書を作成されておりますが、その取り組み状況については。

 標準見積書に関しては、先ほどお話しました全国推進協議会へ提出することとなっております。10月に開催された第2回の協議会では、32団体からの提出があり、28団体が検討中とされておりますが、協議会では全ての団体が足並みを揃えることとしているため、全てが出揃った段階で活用についての取りまとめを行っていくことになります。近畿では、この全国協議会の動向を踏まえた上で進めていくことになります。

■法定福利費の支払いについても、専門工事業側では、現場管理費に含まず別枠計上を希望する意見が多数あります。

 確かに、別枠にすれば支払い状況は明らかになりますが、これに関しては本省で別途、検討されることとなっております。確かに、工事費に含んでしまうと曖昧になる恐れはあります。このため、法定福利費の確保に向けた取り組みも示してはおります。

■この社会保険未加入対策の狙いとしては、技能労働者、職人さんの処遇改善にある。

 そもそも保険へ加入することは義務であり、法令遵守の観点からも必要なことで、未加入ということ自体に問題があった。それを是正することを第一義的に捉えています。勿論、職人さんの処遇改善も重要ですが、それ以前にまずはルールを守ろうと。また、建設業のイメージ改善の点でも必要です。保険もない業界に人は入って来ない。若年者の入職が少なく、高齢化が進む専門工事業では特に深刻です。保険に加入したからといって直にイメージアップの効果が表れてくるものではないにしろ、徐々に改善していく必要があります。

■不良不適格業者排除の観点からも必要でしょうね。加入に向けた府県の反応は。

 当然、認識はされておりますが、ただ手続き等で手間がかかる上、業務量が増える中で、各自治体とも財政難で体制も急に整えられず、マンパワーの面で、現行体制の中でいかに上手く回していくかに苦労されていると思います。

■職人さん不足による工事での影響は。

 専門工事業の方からは、復興工事に伴い、東北地方に職人さんが集中して一時的に人手不足に陥ったとは聞いております。大阪では、岡山や周辺地域から応援を依頼したとは伺っておりますが、その場合、どうしてもコストが高くなり企業負担が増える。そういった面からも人手不足は、工事にも影響を与え、企業の体力も奪うなど、やはりマイナス要因が多い。
 このため、専門工事業団体では、各種の取り組みを進めておられ、例えば関西鉄筋工業協同組合では、高校生を対象とした出前講座など、地道な活動をされております。これらは必ずしも直に効果が出てくるものではありませんが、少しずつ取り組むことは必要ですね。

■専門工事業者の中には、以前から保険に加入している業者もおり、それら業者からは、5年間の猶予期間は長すぎるとの意見もあります。

 現在、適正に保険金を負担している企業が、未加入企業と同等に扱われることに対して不公平に感じる気持ちは理解できます。我々としては「5年間のうちにやればいい」とは、決して考えてはおりません。早く出来る部分は、少しでも早く実行しております。
 最初にも言いましたが、許可更新時の審査でも加入状況をチェックすることしており、各企業の更新時期を考慮すれば、5年程度の猶予期間が必要であろうと考えております。「保険加入は5年先でもいい」と誤解されている業者もおりますが、そうではなく、自社の更新時期が来て、未加入であれば必ず指導が入ります。既に更新を受けている企業に対しては取り組みは始まっております。

■また、保険に加入するためには、職人さんらを正規雇用しなければならないのでは。

 下請指導ガイドラインにも明記されておりますが、一人親方と言いながら、実態は請負である場合が多く、所謂、偽装請負の形態があり、この保険加入の取り組みの中では、それらを是正して、本来のあるべき姿に戻そうとする部分もあります。方策にも正規雇用にするとは明記しておりませんが、ただ、法定福利費の負担を逃れるために労働者を雇用から外していくことになれば、これは本末転倒になってしまう。いずれにしても現場での検査も含め、取り組みが本格化していくのは来年度からになりますね。

■まだまだ課題はあり、ご苦労も多いとは思いますが、今後も取り組みにご尽力下さい。ありがとうございました。

山田俊哉(やまだ・としや)
昭和60年4月中部地方建設局採用、平成8年11月総理府阪神・淡路復興対策本部事務局上席局員、同16年10月財団法人リバーフロント整備センター研究第二部長、同19年4月西日本旅客鉄道褐嚼ン工事部次長、同21年10月東海市副市長、同23年7月国交省都市局街路交通施設課整備室長を経て、同24年4月から現職に。北海道大学大学院工学研究科修士課程情報工学専攻修了。北海道出身。51歳。


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