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ブレインワークスグループ 近藤昇CEO  【平成24年07月30日掲載】

急成長のベトナムに熱い視線

建設業に大きなチャンス


 日本企業、投資家にとって新たなビジネス創造の場所として、アジアが注目されている。中でもベトナムの話題は引きも切らない。有力な新興国として、大企業から中小企業、個人企業までビジネスチャンスが拡大している。特にベトナムの最大都市であるホーチミン市は、空港周辺に住宅、店舗、オフィスが密集し、市内中心部では、すでに超高層ビルが乱立するなど、大規模なビルの建設ラッシュが続いている。その一方、インフラ整備、建設技術などでは依然として課題も多い。そこで、日本だけでなくアジア各地で精力的にビジネス活動を展開し、ベトナムに拠点を置き、その事情に詳しいブレインワークスグループの近藤昇CEOに、ベトナムの実情や今後、建設業の現状などについて聞いてみた。 
 (聞き手・中山貴雄代表取締役、文・水谷次郎)

インフラ整備に「日本の技術」期待

■はじめにベトナムの現状について。

 「ベトナムは、市場経済の発展に力を注ぎ、世界でも有数の経済成長を遂げつつある国家へと変貌しています。ベトナムを訪れた多くの人たちが『日本の40〜50年前を見ているようだ』と言います。つまり、高度成長期の日本と同じように、力強い成長を続けています。しかし、課題はインフラ整備の遅れ。いまベトナムは新興国とも言われていますが、中国や台湾、韓国などの周辺諸国を見ている中では、交通網などのインフラ整備が一番遅れている国だと思います。また、タイと比べても、マーケット的にベトナムがタイの10年前を追いかけているという感じがしますね」

■なるほど。タイの経済発展もすごかった。

 「一人当たりのGDPの平均で言えば、タイはいま4,000〜5,000ドルの間だと思いますが、ベトナムはようやく1,000ドルを超えたところ。そこだけをみれば10年〜15年で追いつくという感じはしますが、インフラをみる限り、とてもじゃないけど追いつけるのかな、という気がしますね。タイはすでに電車などの交通インフラが整備されています。ビルの数も大阪よりも多いぐらい建設されています。また、上海に行っている人が東京に帰ってくると田舎に帰ってきたと思うほど上海のビルの数も多い。バンコクから大阪に帰った人は、田舎に帰ったとも感じるようです」

若年層多く魅力的な国

■それにしても、アジアの発展はめざましい。

 「ベトナムの人口は約9,000万人で、平均年齢は27.4歳。若年層の比率が非常に高いのが特徴です。将来は人口の多くを占めるこの若年層が、生産人口や消費者として中心になることが予測されていることから、若年層がベトナムの経済成長を続ける最大の原動力になることが見込まれています。そのマーケットの発展を見越して、いま多くの企業が進出しています。非常に魅力的な国だと言われていながら、ベトナムに来た人が必ず言うのが、やはり社会インフラは大丈夫かと」

■みなさんインフラ面を心配する。

 「鉄道はハノイとホーチミンを結ぶ南北鉄道が敷設されているだけで、各都市で地下鉄が開通しているわけではありません。新幹線建設の話も出ていますが、資金面をどうするのかといった数多くの課題を抱えています。要するに資金面さえメドがつけば、必ずインフラ整備を進めなければならない状況にあるのは確かです。これから伸びていく国としても、周辺国と比べれば、インフラ整備が遅れたという感じは否めません。それはいろんな要因が考えられます。例えばベトナム戦争が1975年まで続いたことも、社会インフラづくりが遅れた一つの原因でしょう。今後は日本をはじめ欧米各国、韓国、台湾、中国などの多くの企業がさらに進出すれば資金も入ってくるだろうし、投資する人も増えてくるだろうと思います。しかし、インフラを整備する建設技術などに関しては、何しろ知識が乏しい。日本の建設業界から見れば、絶好のチャンスと言えます。そして、ベトナムのインフラ整備の重点は、港湾、高速道路、都市鉄道、住宅です」

日本の技術を学びたい

■日本の建設ノウハウを待ち望んでいる?

 「はい。ODAの資金調達による経済協力は、確かに必要です。日本のODAの規模は大きい。日本のODAが投入されるプロジェクトも数多くあります。しかし、その一方、資金調達とは別にベトナム人が口を揃えて言うのは『日本の技術を学びたい』と。日本企業とのビジネスチャンスを切望しているのです。建設技術以外でも、様々な技術開発が進んでいる日本の技術を使いたい、日本の実績は優れていると認識しています。すでに日本も大手の商社やデベロッパーが動き出しており、活発に営業して施工実績を挙げつつあります。多くの日系のプロジェクトが動けば、インフラ整備、技術の課題が一気に浮き彫りになると思いますね。例えばホーチミンの中心を流れるサイゴン川があり、そこにトンネルを掘りました。いまの状況は、現場任せ、工事業者のレベルの低さなどによって2年遅れでトンネルは完成しました。そのような話には枚挙にいとまがありません。日本とベトナムの技術レベルのギャップを感じています。また、建物や橋梁を建設するとなると、本当に中国系や韓国系の企業で大丈夫なのかという不安も抱えているように思います。ベトナムにおけるいまのマクロ的な背景は、そんな感じです」

■技術の面でプロジェクトが遅れがちになっている。

 「そうですね。ベトナムはこれまで国営企業ばかりだったのが、いまは株式市場ができて、ようやく民営企業が設立されてきた、ちょうどその過程なんですね。株式市場がホーチミンにできたのが2000年のこと。現在はそれなりの規模の国営企業がインフラを整備したり、あるいは小さいベンチャー企業が整備しているという二極化された状態です。日本のような下請け構造がいるのかどうかは別にしても、小さな企業を束ねてコントロールできる会社はまだ存在していません。日本の40年〜50年前と比べても、完全に未成熟社会というのが現状です」

■だからこそ日本の業者も参入を狙える。

 「チャンスはあると思いますが、一方でまだ建設業の本格的な進出は難しいと思いますね。ITや飲食業では比較的簡単に進出しやすい。しかし、 建設業になるとライセンスなどの問題もあります。建設業で私が推奨しているのは、現地にある会社に資本参加をしていくのが一番進出しやすい方法だと思っています」

投資リスクを分散しながら

■現地企業に出資するという意味ですね。

 「はい。例えば日本で1千万円の投資は、ベトナムでは1億円程度の価値があります。単純に資金を援助するという発想ではなく、資本参加し、 インフラ整備をはじめとした各種プロジェクトを一緒に進めていくのがいいという気がします」

■まず出資した上で、ベトナム企業との信頼関係をつくる。そして技術供与をしながら参入していく。

 「日本の技術が入るとベトナムの人たちにとって勉強にもなります。ブレインワークスでも、そのような資本参加ができないものか、 いま模索しているところです。例えば、ベトナムの小さい建設会社を10社程度集め、日本の建設会社が1社当たり百万円ほど出資し一緒に仕事をするわけですね。 それが進出に関する全てのアプローチになるとは限りませんが、一つの試みとして、また、その方法がリスク分散にもなると思います」

中小企業は中小企業と

■やはり投資リスクの低減が大事ですね。

 「ベトナムの小さい建設会社、その中から優秀な経営者をきちんと選んで、そこに日本の建設会社の資金を分散して入れていくということです。 当然、1社当たりの投資額も状況によって変わります。建設業だけでなく、他の業界の考え方ともほぼ一致しています。例えばベトナムでのIT業界は日本や中国が先進的で、 ベトナムが10年程度遅れて追いかけている状況です。ようやくベトナムでも日本のIT会社が、現地にあるベンチャー系の社歴5年から10年の会社を買収、あるいは 資本の投入を進めてきました。これから伸びる産業はベトナムでは非常に多い。そのため、最初から少しでも資本参加しておいた方がいいというわけですね」

■投資する金額は少なくても可能性は大きい。

 「パワーのある大手企業は別にして、ベトナムの中小企業には大きなチャンスがあります。私は20年間アジアでビジネスを展開し、いろんな業界の 変遷をみてきました。その経験から、いずれ伸びると思われる業界に早く手を打っておいた方がいい。そう断言できます。小さな会社でもビッグチャンスが生まれてくる。 ベトナムでは、それが現実に起こりだしています。また、中小企業は中小企業と組むのが一番という考えは、アジアでは共通していると思います」

■中小の経営者同士なら本音も話しやすく、一緒に動けるということですね。ベトナムで、そんな実績はありますか。

 「私も現地で建設のコンサルを行ったりしています。先ほども申し上げたとおり、いま資本参加についても検討し、準備を進めているところです。 ベトナムは社長が切り回して、仕事で精一杯。先のことは考えられないという人が多い。組織をつくりたい、現場管理の方法を学びたいなどの思いはあっても、 なかなか手がつけられないというのが現状です。ベトナムには、日本のように現場管理できる技術者や親方、つまり、先進的なノウハウを持つ人が身近にいないから 学べないわけです。一方で日本には60歳以上の人が時間をもてあましています。『宝の持ち腐れ』と言われる人が各分野にいます。そんな人がベトナムに来ると、 師匠のような扱いでベトナムの若い人が接してくれます。ベトナム人にとって、日本の様々な技術を学びたいからです。私たちのグループでも積算などについて、 60歳以上の人が働いています。皆さん元気ですよ」

アジアでもう一度花を

■日本で定年退職した優秀な人材は、ベトナムに行けばまだ十分活躍できる場がある。

 「はい。ベトナムの人は優秀な技術を持った人、経験のある人を待ち望んでいます。また、そうした人を採用したことで、大きな成果を上げている事例も見受けられます」

■日本では親方や職人は必ずしも適切に評価されてない。高齢でも、現地で尊敬され、自らの技能を伝承しながら活動している人を、モデルとして 出すと分かりやすい。

 「そうですね。私たちは『アジアでもう一度花を咲かせましょう』という活動を進めています。私も焼肉レストランを始めようと思っています。 この3カ月は内装工事を行っています。今後は建設業に関しても本気で取り組みたい。年内に出来れば、『ベトナムやアジアで、まだまだ建設のチャンスはある』と いった本を出版したいと準備しているところです」

■それは楽しみです。最後に日本の業者の方々に一言。

 「ベトナムでは、日本製建機の人気が高く、最近は中古ではなく新品がほしいという人も増えてきました。とは言え、まだまだ多くの建設現場が 人界戦術で成り立っているのが実情です。しかし、近い将来は人力に頼らない時が来るでしょう。また、2〜3年もすれば人件費も上がってくるでしょう。 私は、本当にいま日本の中小企業経営者に動いてほしい。現地で親方や職人を育成する動きも促進させていかないと。さらにベトナムでは、職業訓練学校や専門学校を作ろう という動きもあります。日本でも、専門工事業の親方などに元気な人も数多くいます。そんな親方や職人のみなさんの経験や技能、アイデアをぜひベトナムで発揮してほしい。 そう願っています」

(こんどう・のぼる)ブレインワークスグループCEO。神戸大学工学部建築学科卒。一級建築士と特種情報処理技術者の資格を有する。日本を元気に、中小企業を元気に、この強い思いのもと、中小企業の総合支援事業やコンサルタント活動を精力的に展開。98年からベトナム・ホーチミンに拠点を構え、アジア関連ビジネスも積極的に推進している。主な著書に「アジアでビジネスチャンスをつかめ!」「本でビジネスを創造する本」など多数。49歳。


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