日刊建設新聞社   CO−PRESS.COM
interview
関西鉄筋工業協同組合 田浦真一副理事長  【平成23年4月18日掲載】

「出前講座」で得たもの

ものづくりの楽しさ伝達

学生らに知ってもらった「職人の力」

「正当な評価」へさらに活動を展開


関西鉄筋工業協同組合(岩田正吾理事長)では昨年、大阪工業大学と今宮工科高校、奈良女子大附属中等教育学校で出前講座を開催した。鉄筋組み立て等の体験を通して、鉄筋工事の果たす役割について理解してもらうことを目的に実施された。出前講座を担当する組合の田浦真一副理事長は、「社会貢献活動の一環であり、決して見返りを求めるものではない」とし、見えない部分を支える伝承された技能と職人の技を知ってもらい「ものづくりの楽しさや喜び、さらに専門工事の重要性を理解してもらえれば」と期待を寄せる。その田浦副理事長に今後の取り組みを聞いた。

■まずは出前講座の目的から。

田浦副理事長

組合としては鉄筋工事の役割や重要性をアピールしたいとの思いがありました。一番の目的はものづくりの重要性を伝えたいということです。ただ、講座を実施したからといってリクルート的に利用するつもりはなく、また、それで鉄筋工事業に入ってくるとも思っておりません。純粋に生徒さんにものづくりの楽しさや喜びを体験してもらおうと実施しました。

■出前講座は大工大と今宮工科高校、奈良女子大附属中等教育学校と三つの学校で実施されました。

田浦副理事長

大工大と今宮工科高校は専門学科で、知識はありますが一度実際に経験してもらおうと。ただ、組合の職長会のメンバーにも参加してもらい、実際の現場で働く職長の思いや誇りというものも伝えたかった面もありました。これらの生徒さんは将来、ゼネコンや設計事務所に入社される人もいるわけで、そこで仕事をする中で、鉄筋がどのように組み立てられ、組み立て作業にあたってはどのような苦労があるのか、出前講座では二級技能検定用の実物で組み立てを行い、作業を実感してもらいました。

■手ごたえは。

田浦副理事長

各校の先生方の協力があり成功しました。ただ、生徒とはどのような接しかたをすればいいのか、全くの未経験でしたので勝手が違い手探りの状態でした。また、奈良女大附属の場合は普通科の進学校であり、受講者18人のうち15人が女子で、先の2校とは全く意味合い違いました。同校では、文化と社会というカリキュラムの中で、ものづくりを通じて自己形成を図るための方策を探ることを目的としており、それはそれでプレッシャーを感じました。

■実際にはいかがでした。

田浦副理事長

鉄筋工事自体そのものを知らない、鉄筋と鉄骨の区別がつかない生徒が殆どでしたが、実物の鉄筋を見て、触ってもらい、組み立て作業を体験してもらいました。初めて経験することが逆に新鮮であったようで、皆さん積極的に取り組んでいただき、我々も勉強になりました。同校では担当していただいた先生が「建物が出来上がると見えない部分があり、その見えない部分が支えているからこそ、全体が成り立っている」と、その先生のレクチャーを入口として、講義と実習を行い、その中では組合員が生徒に混じって話をするといった人間的な係りも持つことができたかなと思いますし、先生の課題であった働くことの意味を感じてもらったかなと。

■なるほど。

田浦副理事長

後で生徒の感想文を読ませていただきましたが、中に我々が思う以上に職人の苦労を感じていただいた部分がありました。ある生徒は「何故こんな苦労を隠すのか」といった感想を寄せてくれ、大変ありがたかったです。限られた時間の中で奈良では意見交換ができました。3校の出前講座終了後、先生からは今回の実習後、生徒間にチームワークというか結束が強まったとの意見をいただきました。

■今後の予定は。

田浦副理事長

今年度に関しては既に数校から打診はあります。またパンフレットを府下の工業高校など20校の担当教諭に配付しました。建設技術展に関しても今年も出展する予定です。昨年は2年連続でベストブース賞を頂けるとは思っておりませんでしたが、選ばれたことは専門工事業、鉄筋工事に関心を持たれているのかなと思います。昨年は職長会の職人を前面に出し、実際に組立作業を見ていただきました。少しでも技能としての鉄筋職人を理解していただき地位向上につながる契機になればとは思います。ただ、建設技術展も出前講座も、決してリクルートを目的に行っているわけではなく、見えない部分を支えている我々の職人たちのことを理解してくれる人たち、また支えてくれる人たちを増やしたいとの思いで実施しております。

■さて、その職人さんですが、高齢化と若手の業界離れが進み、工事量が減少しているのに人手が不足しているという事態が生じています。

田浦副理事長

職人の職離れが起きております。賃金と処遇が正当に評価されていないことが原因です。保険加入など福利厚生の問題で、特に工事単価が下落する一方では、会社も職人も保険料の負担がだんだんきつくなってきている。かつては職人全員に保険をかけていた企業が、現在では職人はもとより会社自体にもその体力がなくなってきているところが増えています。また処遇の問題と高齢化の問題が同時に進行していることも課題です。

■職人の役割をいかに評価していくかですね。

田浦副理事長

まず我々鉄筋工は技能者であることをアピールする必要はあります。先頃「社会を守るものづくり・鉄筋工事業資格取得について」というパンフレットを発行しましたが、技能者は経験を積み重ね、種々の資格を取得しながら育っていくわけですが、クライアントや元請からすれば、まだまだ評価は低い。低いというかエンドユーザーから見れば分からない世界です。例えばパンフレットにも載せていますが、鉄道の鉄橋の中にも綿密に鉄筋が組まれ非常に複雑な配筋となっていますが、コンクリートを打った後から見てもこれは絶対に分かりません。

■その辺りを組合としてどう対応していくか。

田浦副理事長

建設技術展などで公共工事やインフラ整備における鉄筋工事を知ってもらいたいために、カルバートボックスなどのカットモデルも考えており、出来上がると見えなくなる、しかし確かに暮らしに役立っているというような土木における鉄筋工事の役割紹介も必要だと思っています。また、鉄筋工事の記録、写真類の中で、仕上がりの写真はありますが、職人の姿は少なかった。今後は職人の作業中の写真も意識して集めようかと考えております。職人の心意気や苦労を知ってもらいたいと思います。また、建築や土木の団体による現場見学会などの機会を捉え、できる限りはお手伝いさせてもらっていますが、元請からの協力を得られれば、鉄筋工事段階での見学会も実施できればと思います。

■今年、組合は創立50周年を迎えます。

田浦副理事長

ひとつの節目ではあります。我々としては先人の歴史を学びながらも、これからの時代にあった道筋の第一歩を踏み出す年としたい。我々から 声を上げて業界を変えていく時代ではと考えます。出前講座もまさにその一つで、専門工事業者としてできる社会貢献のあり方など、存在感を示すことのできる組合、 企業となっていかなければならないでしょうね。



Copyright (C) 2000−2010 NIKKAN KENSETSU SHINBUNSHA. All Rights Reserved.
当サイトを利用した結果に関するトラブルなどに関しては、当社としては一切責任をとりかねます。