日刊建設新聞社   CO−PRESS.COM
interview
小河保之 大阪府副知事  【平成23年1月3日掲載】

インフラ整備 発想の転換

まずストックの活用


 財政再建を柱に各種の改革を推進している大阪府。平成23年度の当初予算の編成にあたっても、財政構造改革プラン(案)を踏まえ、組織や事業の見直しが行われており、府内の社会資本整備を進める上でも例外ではなく、事業計画にあたってはより一層の「選択と集中」が求められている。こうした中、大阪府におけるインフラ整備全般を所管し、橋下徹知事を補佐する小河保之副知事は、事業推進に際して「発想の転換が必要」と訴える。その小河副知事に財政再建下におけるインフラ整備のあり方や、今後の事業の方向性などについて聞いてみた。     (渡辺真也)

■大阪府では現在、行財政改革を実施中ですが、それら財政再建下での府内のインフラ整備の方向性などをお聞かせ下さい。

小河副知事

 全般を通して言えることは、これからは今あるもの、ストックをどう活用するかです。例えば高速道路について言えば、阪神高速道路会社や西日本道路会社など、いわば造る側の論理で法律などができ整備が行われてきた。このため事業採算性の観点から、それぞれの料金体系が設定された。整備するにはあたってはそれが有効に作用し早く建設することが出来た。しかし、利用する側から見れば使い勝手が悪い面がある。同じものがある。そこで、あるものを使う論理で考えたらどうすればよいか、その考え方に沿って出てきたのが高速道路を一元管理するハイウェイオーソリティ構想です。
 今回、大阪市、神戸市、兵庫県、堺市と共同でコンセッション方式という新しい概念を導入して、ミッシングリンクを整備しようとするPPP提案をしています。国の方では法改正で難色を示していますが、政策自体はおもしろいと評価を得ております。この構想は、決して都市部だけが潤うものではなく、該当する地域で維持管理を行い、償還し、ミッシングリンクを解消しようとするもので、収益全体は等しく分配するもので、まさに広域連携の取り組みです。

高速道路、府営住宅、港湾、鉄道など見直し

■府営住宅に関しても同じ考えに立つ。

小河副知事

 府営住宅に限らず公営住宅も同様です。府営住宅があり市営住宅がある。さらに公社、URの住宅がある。これも、その時、その時の造る側の論理で整備されたもの。今まで府営住宅施策の中でセーフティネットの部分を一緒に考えていたから大変だったが、それを福祉施策として切り離してやっていく。それを外して見た時、同じ住宅というハコモノがあるではないか。一例ですが、公社、URが同じような政策で客を取り合いしている。それらを一つのストックとして見て、一つの経営者、一つの考え方をしていけばいくらでも活用方法はあり、不要なものもでてくるのでは。それを泉北ニュータウンでシミュレーションしてみたいと現在、取り組みを進めている。

■府営住宅が半減するのではとの見方もありましたが。

小河副知事

 あれは一つのメッセージで、今すぐにやるというものではありません。全体を見て、公営住宅に民間住宅を含めて見た場合、そんなに戸数は必要としない。セーフティネットはきっちり守りますが、長期的に見た場合、全てを公側がやる必要がないわけで、民間でやってもいいんじゃないかと。ですから、すぐにでも府営住宅を半減するものではない。

■他のインフラも同様ですか。

小河副知事

 港湾も、阪神港として国際コンテナ戦略港湾に選定されました。選定にあたっては大阪市、神戸市を中心に府も協力しました。その時にも感じたことは港湾管理者や事業者が多すぎること。大阪湾は一つであり、これも造る時はそれぞれに努力されましたが、今はそのような時代ではなく、あるものをどう活用するかで、港湾戦略として釜山に勝つためにはそれぞれがバラバラに動くのではなく、経営体が一つになって戦略を立てていく必要がある。
 鉄道もそう。地下鉄や私鉄を個別に見ずに、軌道として見た場合、かなりのストックがあると捉えることができる。例えば、運営主体と一本化すれば、シームレス化など利用者側に立った施策を実施しやすくなる。あるものをどうやって活用していくか。もちろん必要なものは造っていきますが。そういった観点で全てを見ていくと非常におもしろい。
 いずれにしろ、府内におけるインフラ整備の考え方としては、財政状況が厳しい中なので、選択と集中で実施していかなければならない。ただ、予防的なものも含め維持管理にはシフトせざるを得ないが、単に整備予算から維持管理予算へシフトすることではなく、橋梁等の大規模修繕が必要なものを予防保全の対策を施すことで、中長期的に、更新時期の平準化や更新サイクルの長期化を図ることで財源が軽減できる。この財源を地方債の発行により、先行的に活用するといった工夫をやっていく。

地域力再生は技術者の使命

■地域主権というこうで直轄事業負担金の廃止などを国に要望されております。

小河副知事

 現在の制度上で必要なものは予算計上しますが不必要なものもあります。ただ、大和川線のスーパー堤防については道路事業と一体となって実施していますが、効果が期待出来ないスーパー堤防事業は反対しています。これからは、都市緑化事業も進めたい。緑の風を感じる大阪として構想を出しております。海と山をつなぐ緑の東西軸を構築するものですが、実現には時間はかかりますが地道に取り組んでいきたいです。

■昨年から、各土木事務所に地域支援課を配置して地域力アップに取り組まれております。

小河副知事

 土木事務所が実施している地域支援としての地域力再生への取り組みです。これは技術者でないと出来ない。技術者というのは現場と地域に根ざしたものです。そこで社会を良くするという使命を実現する。技術者が持っているまちづくりのノウハウや管理能力を活かし、市町村とともにやっていこうと。地域の人々と協働するためのコーディネーター役を担うのも技術者だと思っており、現場と地域を知っている力を大事にすることが重要です。
 現在、大阪府が掲げている地域力アップやミュージアム都市構想などを支えるのも現場です。既に実施されているライトアップをはじめとする各種の取り組みも、もともとは現場で始めたことで、ものをつくるばかりでない。技術者は、コンストラクションだけでなく、クリエィションも必要で、いろんなシステムをつくってみたり、組み合わせを変えてみたり、仕掛けをしたり、自らのノウハウを駆使して地域を良くするのも技術者の仕事です。もちろんきっちりとした技術力でものを造っていくことも大事ですけど。

■河川整備においても従来の手法から大きく転換されました。

小河副知事

 もともと大阪ではダムに頼ることは少なかった。総合治水ということで、例えば寝屋川流域ではダムに拠らずに治水を進めてきた。今回、洪水被害でも、床下浸水までは我慢してもらいたいと言い出したことは河川政策の上での大きな転換です。その中で槇尾川ダムについては知事の政治判断で、政治マターになってしまった。私個人の考えは、ある程度工事が進んでいる段階で、地域の人達に早期に安心してもらえるとなればダムは進めるべきだと思っています。建設中止となった場合、地元の協力がなかなか得られないのが予想されるので、次のステップには進めないのではないかと懸念している。ただ、知事の立場になり税金を投入するためには比較判断することが求められる。その点では行政判断はできません。知事の判断ひとつです。

業界からの積極的な提案に期待

■大手前地区と森之宮地区のまちづくりも府政においては大きな課題です。

小河副知事

 直接担当していないので、想いを話すが、森之宮地区に関しては、成人病センター移転に関連して、他の土地をいかに動かすかです。大阪市やJR、都市機構など、公的機関が保有する土地をどう利用していくか、その雰囲気づくりが重要でしょう。それらの土地を合わせれば大阪駅北ヤードの倍近くある。また、そこの所有者でもあるURは、事業を推進するだけでのノウハウを持っておられる。ですから、それらを一体的になって推進できるような仕組みを構築できればばおもしろいと思います。
 森之宮周辺は、大阪城という借景に恵まれ、JRと地下鉄が乗り入れ、高速道路のランプもある。戦後の暗いイメージ引きずっている部分があるせいか長い間、行政や民間の手が入らなかった。しかし、よく考えると立地条件が揃っている地区でもあり、発想を変えればいくらでも利用価値があると思います。
 現在、大阪市内を俯瞰した場合、北ヤードが動きだし、南では天王寺や阿倍野で再開発事業があり、難波はパークスが出来てから活性化している。これに西側として咲洲も動き出せば、「大阪全体が動き出した」という雰囲気が出てくる。

■行政のパワーが落ちると建設業界も下向きになってしまいます。

小河副知事

 確かに元気がないですね。府内には利用価値のある場所や土地がまだ残っている。かつてはそれらの活用や利用に関しては業界サイドからのいろんな提案が出されてきた。しかしながら現在では、そういった動きが全くない。例えば、知事が北ヤードと関空をリニア線で結ぶという構想を打ち出した。課題は技術と財政ですが、技術に関しては日本の建設業者なら十分にクリアできる。財政についても業界各社と商社などがファンドを立ち上げればやれないことはないと思います。それこそPPP提案で、そうすれば自らの技術をアピールでき、仕事も生まれる。そういった発想、提案がでてきてもおかしくは無いと思いますね。

■確かにそういったことも必要なのかも知れません。今後も府政推進にご尽力下さい。

小河保之(おがわ・やすゆき)副知事の略歴
 昭和44年4月大阪府入庁、同47年4月鳳土木事務所、同52年4月土木部街路課、同53年4月同部都市整備局総合計画課、同55年4月富田林土木事務所長野工区長、同58年5月企画部企画室主査、同59年4月企業局空港対策部計画課主査、同60年4月土木部都市整備局交通政策課街路係長、同62年5月土木監理課主幹、同63年4月岸和田土木事務所主幹、平成元年4月空港関連道路建設事務所主幹、同2年4月土木部道路課主幹、同3年4月奈良県技術吏員・土木部道路建設課長、同6年4月兵庫県技術吏員・土木部参事兼道路建設課長、同9年4月大阪府技術吏員・土木部道路課参事、同10年4月茨木土木事務所長、同11年5月土木部副理事兼道路課長、同13年4月土木部技監、同15年4月土木部長、同17年4月危機管理監、同19年3月大阪府退職、同19年7月から現職に。京都大学交通土木工学科卒業。大阪府出身。63歳。


Copyright (C) 2000−2010 NIKKAN KENSETSU SHINBUNSHA. All Rights Reserved.
当サイトを利用した結果に関するトラブルなどに関しては、当社としては一切責任をとりかねます。