日刊建設新聞社   CO−PRESS.COM
interview
近畿地方整備局 磯部 正 営繕部長  【平成22年11月15日掲載】

公共建築の役割に変化

国産木材活用の動きも


■まずは公共建築の役割についてお聞かせ下さい。

磯部部長

公共建築と言いましてもその意味合いには広いものがあります。かつては街づくりや街並み形成を先導する役割などがありましたが、現在ではそういった役割は薄れてきております。公共建築の一つには官公庁の建物がありますが、その中では執務する側だけでなく訪れる方や利用される方の利便性や親しみやすさといった国民との接点の場となることを意識して作っていた。これは昔から変わらない大事なものですが、ただ、昔と現在ではそのやり方が変わってきているとは思います。

■建築物としての先導的役割となると、やはり官庁営繕が主流となる。

磯部部長

建築の場合、住宅も含めて8〜9割は民間が占めており、ウエイトから見れば官庁営繕は全体の数パーセントでしょう。ただ、技術基準や性能、数量など統計的な資料として見た場合、公共建築はまとまっているため目立って見え、ある意味において建築の世界を代表する役目はあると考えられます。古い時代には新しい技術や工法を導入して民間に普及させる役割を担っておりましたから、そういった意味では先導的役割を果たしてきた部分はありました。

■官庁営繕の場合、独自の技術開発やその時代の最先端技術を取り入れたものとなっていた。

磯部部長

ええ、その部分はありましたが、現在では建築全体を引っ張っていくという役割はかなり低くなっております。その反面、官庁の建築技術者に求められる公平性がより強くなってきたと感じます。例えば建築に関わることでアドバイスを求められた時に技術的に客観的な判断を下せるかどうか。官庁の技術基準は客観的な基準とされているところから、今後はそういった役割も課せられてくると思います。

■今後の公共建築は、財政状況などから新たな施設整備より維持管理にシフトしていきますか。

磯部部長

今あるものを大事に使っていこうとするのが現在の流れです。例えばこの庁舎(第一号合同庁舎)もかなり古いですが階高などに余裕があり、廊下も長く広い。当初は冷暖房設備がなく後から手を加えたものです。今ではフレキシブルで余裕を持たせた設計が基本となっておりますが、当時にその認識があったかどうかはわかりませんが、余裕があったためまだまだ使用可能で愛着もある。そういった配慮は大事なことだと思いますね。また、当時の話を伺いますと現場でコンクリートも製造していたようです。

■維持管理が中心になると言われましたが耐震改修もメーンとなってくる。

磯部部長

そうですね。計画的に着実に進めてまいりますが、私個人としてはリノベーションが良いと思っています。庁舎の増築に併せ、老朽化した部分の構造のみの残して建て替えるもので、全面建て替えよりコストがかからない。改修の場合、実際に働いている人の要望を聞いて対応できますが、建て替えた場合、一から使うため、そこにまた使い勝手の良し悪しが出てくる。ですから内部の使い勝手を良くして外部を綺麗にした方が効果的ではないかと思っています。

■ところで大阪、関西の公共建築で何か感じられたことはありますか。

磯部部長

官庁営繕では、事務庁舎がメーンになりますが、美術館や博物館など文化的建物は関西の方が多い様な気がします。数的には首都圏の方が多いですが、 比率的には関西の方が多いと思います。京都や奈良に博物館があるなど、地域的な比率では関西は多い。しかしながら最近では、国会図書館関西館以後は国際美術館のほか、 合同庁舎の建設以外に目立った計画はあまりなかったですね。

■近年では、技術や技能、あるいは建設文化の継承が危ぶまれておりますが、公共建築にはそれらを継承する役割も求められているのでは。

磯部部長

確かにそういった面も必要かもしれません。また最近では、国産木材を活用する動きもあります。内装の一部に使用するとか、 自治体の建物には地場木材の使用などが可能でしょうけど直轄事業では難しい面もあります。いずれにしろ、公共建築として良い建物ができると回りに影響を 及ぼしてきますから、その点での役割は続きますね。

磯部正(いそべ・ただし) 昭和57年4月建設省近畿地方整備局採用、大臣官房官庁営繕部、関東地方整備局営繕部営繕調査官、警視庁総務部理事官、東北地方整備局営繕部長等を経て、今年十月から現職に。京都大学大学院修士課程工学研究科建築学科専攻。54歳。


Copyright (C) 2000−2010 NIKKAN KENSETSU SHINBUNSHA. All Rights Reserved.
当サイトを利用した結果に関するトラブルなどに関しては、当社としては一切責任をとりかねます。