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interview
大阪府立大学教授    橋爪 紳也氏 
UCFA発起人代表    吉永 健一氏  
大阪市立大学特任講師 高岡 伸一氏 
「第1回ニッポン建設映像祭」を語る  【平成22年7月29日掲載】
当時の風景や現場の服装なども興味

橋爪 紳也氏 吉永 健一氏 高岡 伸一氏


フィルムを通して都市の成り立ちを知る―。日本の都市が近代化する過程を捉えた工事映像記録を集め、当時の時代背景や建設技術についての理解を深めるための「第一回ニッポン建設映像祭」が8月21日、大阪ガスビル(大阪市中央区平野町4−1−2)で開催される。建築家や建築研究者らが立ち上げた「アンダーコンストラクション・フィルム・アーカイブス」(UCFA)が主催するもので、関係者すらその存在を知らず、人目に触れることなく忘れさられようとしていた貴重な映像記録を掘り起こしたもので、UCFAの設立発起人代表を務める建築家の吉永健一氏とメンバーで大阪市立大学の高岡伸一氏、特別アドバイザーの橋爪紳也氏に、その目的や今後の方針を語ってもらった。

■建設工事の記録フィルムを集めるきっかけ、動機から教えてください。

橋爪

そもそもは、大阪ガスさんが創業100周年を記念して、大阪瓦斯ビルを登録文化財として申請しようとした時に、瓦斯ビルの歴史を再評価しようということになり、私もお手伝いさせていただくことになりました。その作業の中で、当時の建設工事を記録したフィルムが大阪ガスと設計者である安井建築設計事務所に残っていたことが判明し、それで上映会を開いたことが始まりでした。

■瓦斯ビル建設は昭和初期だったと思いますが、よく残っていましたね。

橋爪

私もそういったものが残っていたことも知りませんでしたし、見て驚きました。建設現場が現在とは全く違うことに加え、周辺のまちなみ景観が映りこんでおりました。それは、我々がかつて見たことのある戦前の大阪の風景を映した映像とは全く違うアングルで撮影されていたわけです。工事用記録フィルムですから、建築中のビルの上から見た大阪の市街地というのは貴重ではないかと。

■ニュースフィルムとは違った視点で捉えている。

橋爪

そこで建設各社や他の設計事務所、あるいは協会などにも同様の映像が残っているのではないかと思い、調べていくうちに数はありましたが限られたものであり、かつ資料として残されているだけで一般には公開されず、研究資料としても提供されていない状況でした。また、海外でのデジタルアーカイブでは都市の記録は公的なものが残されていますが、建築現場の記録として残そうという発想はありません。そこで建築に携わる者として、戦前の貴重な映像を今後の建設業界に生かし、また原点を知る上でも役に立つのではとの発想からスタートしました。

■スタート当初はどのような動きから。

橋爪

まず各社がどういった映像を保有し、どのような保存状態なのかも解らなかったので、研究者の立場として呼びかけようと。ただ、そういった活動は公的な機関で行った場合、全国的にはなかなか広がりにくいため任意団体から始めるべきと考え、高岡さんと吉永さんに協力を求めたわけです。

■吉永さんは別のところで同じような活動をされていたとお聞きしておりますが。

吉永

ええ、千里山団地が解体されることに伴い、同団地の良さをもう一度見直そうと昨年10月に周辺住民の方々にも参加していただき見学会を行いました。その時に事業主であるURの方へ竣工当時の写真か何かがあるかどうかをお聞きしたところ、フィルムの缶が見つかり、調べたところカラーでナレーションが入った映像が見つかりました。そこで上映会を行ったところ非常に評判が良かったです。URの方でもその存在を把握していなかったようです。

■実際にご覧になった感想は。

吉永

おそらく、UR、当時は住宅公団でしたが、千里山団地の建設に力を入れており、現在でいうプロモーションビデオ的に作ったのではと考えられます。実際に見て、団地が建設される前の風景も写っており、当然工事の状況も写りまた、竣工後に嬉しそうな笑顔で引越してくる住民や生活風景まで記録されていました。その時に、同じような映像が他にもあるんじゃないかと橋爪さんらとUCFAを立ち上げました。

■高岡さんも発起人のメンバーです。

高岡

まずはどこの会社に何があるかを洗い出すためゼネコンさんに声をかけて回りました。その結果、主要なゼネコンさんにはある程度残っおりましたが、保存状態がばらばらで、進んでいるところはデジタル化されておりましたが、フィルムのままというところもありました。特にフィルムの場合、タイトルは付いていても内容がわからないものもある。それでも我々としては、広く外に発信し健設業の醍醐味みたいなものを紹介したいと伝えたところ、皆さんから賛同していただき、第一回目の上映会に向けて準備を進めているところです。

■フィルムのラインナップを見ると結構、おもしろそうですね。

橋爪

建設業界、建築業界上げて我々の活動を社会貢献として支えていただければ非常にありがたい。また、昔の映像を前に各界の人達がディスカッションする研究会も計画しています。単なる鑑賞会ではなく、記録映像を素材に現在のことを考えるといったワークショップ的な場を設けることに意味があるんじゃないか。建物のある場所でその映像を流すことで、「場の力」のようなものを感じることがあり、第一回目の会場が瓦斯ビルということでやはり瓦斯ビルの映像を流すことは大事なことだと思います。

高岡

まずは瓦斯ビルで瓦斯ビルの建設記録を見ることに大きな意義があると思います。

橋爪

瓦斯ビルで瓦斯ビルの記録を見て、その後瓦斯ビルから歩いて数分にある船場センタービルの記録を、地元の人に見ていただくことに非常に意味があると考えます。わが町の変貌を見てもらうことで考えることは多々あるのではと。

■なるほど。

高岡

建設工事の記録だけでなくもうひとつの見所として当時のまちの風景や現場の服装などの発見もあり、違った視点から見るのもおもしろいですね。

吉永

その反対に工事にしても瓦斯ビルの時代から変わっていない部分もあります。

高岡

変わっていない部分と全く変わってしまった部分もあります。特に時代順に並べて見た場合よく分かります。職人さんの服装でも、昔は法被に麦わら帽子だったのが、ある時代を境に作業服にヘルメットと変わり、さらに安全帯を付けるようになった。そういったように、いろんな角度から見れば研究資料としても価値があり、一般の映像作品としても価値があると思いますね。

吉永

今、職人さんの話がでましたが、鳶の職人さんなど昔は結構、危険な場所でも安全帯なしで作業しているのが分かります。

高岡

そう。だから鳶は偉いんだなとわかりますね。そういう姿を見れば一般の方々も、また現役の職人さんも「すごいな」と思うかも知れませんね。

■第一回目の上映会を楽しみにしております。ありがとうございました。

UCFA主催 第1回ニッポン建設映像祭
8月21日(土)大阪ガスビルホールで開催


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