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建設産業専門団体連合会 岩田正吾会長  【2023年12月04日掲載】

中建審「中間とりまとめ」

持続可能な建設業に向けて

標準労務費の設定に期待

スピード感を持った取組みを


 中央建設業審議会・社会資本整備審議会基本問題小委員会では今年9月、持続可能な建設業を目指すために早急に講ずべき具体策の「中間とりまとめ」を策定した。担い手確保の取組みを加速させるため、請負契約の適正化や適切な労務費等の確保等に関し、建設業法改正も視野に入れている。この取りまとめについてその成果に期待を示し、「スピード感を持って進めてもらいたい」とする小委員会メンバーである建設産業専門団体連合会の岩田正吾会長に、今後の取組みの見通しなどを聞いた。

■持続可能な建設業に向けた中間とりまとまめについてのまずは感想から。

 とりまとめについては大いに評価し、期待もしています。ただ、提言するとされている項目についての実効性をどのように担保するのか。契約者同士に任せるのではなく具体的にどうするのか。我々としては実効性を持たせるためにもその根本になる建設業法に入れ込んでほしいと願っています。また、今後の取組みではスピード感を持って進めてほしい。時間をかけると潰れてしまう業者も出てくる。これについては、小委員会の中でも中建審でも申し上げています。
 小委員会では、資材の価格転嫁や発注者と元請間の課題等も議論してきましたが、労務の価格転嫁については発注者側からも適時行うべきと言われており、大まかには賛同を得ています。ただ、標準労務費に関しては、中建審が勧告して一定の基準を示すこととしており、そこについては、それぞれの物差しがあることから、今後、運用段階で専門委員会を立ち上げて、その場で議論することとなっています。
 設計労務単価並みの賃金が、民間工事においても支払われた暁には、賃金台帳を出してでも支払いの証明をしようと建専連理事会においても可決し、腹を括っているのでそれに応えていただきたいと思っています。
 取組みにあたっては短期的には、仕事が閑散期を迎えるまでに大まかな道筋を付ける必要があり、また、現場の状況に応じたケースバイケースで取り組む必要もありますが、その際は動きながら、走りながら進めることが必要です。議論がまとまってからでは、経営がもたない業者もいることからそうならないようスピード感を持って進める必要があります。

■建設業法改正にまで踏み込んだ要因は。

 我々専門工事業者は現場所長と契約単価の取り決めをするわけですが、契約者レベルでの話し合いと、日建連や全建、全中建の経営トップの方々とは、相当な温度差があることから、これまでのような契約はコンプライアンス違反であることを建設業法に明記してほしいと提案しました。そこが一番の肝だと考えているからです。
 仕事がヒマになった時、安値で請ける業者がいれば、その部分に引っ張られてしまう。外国人労働者を多く集め、外注業者を使い分けている業者と、少なからず人を雇用してその原資を確保して賃金を上げようとする業者が同じ土俵に乗せられると価格競争で勝てなくなる。どうしても廉売行為に引きずられてしまう。
 また現場所長も決められた予算の中では安い業者へと流れていった歴史がある。これを変えるためには建設業法に明記し、それを基に契約交渉ができるよう、その裏付けとなる法整備という武器が必要で、中間とりまとめではその部分にも踏み込んでおり、私としても評価しています。

■建専連としては標準労務費への期待が大きい。

 標準労務費は、設計労務単価に替わるものになりますが、法定福利費をはじめ各経費も含めたものになります。当初は鉄筋工事と型枠工事からスタートすることになると思います。一つの建物を基準として歩掛りを算出し、設計労務単価と経費をかけて出すようですが、設計労務単価は調査した価格であることから、我々が支払えば上がっていくわけで、そうなると毎年上がっていくアップスパイラルになると期待しています。既に国交省では営繕関係で鉄筋と型枠について歩掛りの積算が行われています。
 これまで、設計労務単価に歩掛りをかけた請負単価がなく、言わば点であったものが線になったものです。一部ゼネコンでは設計労務単価を基準とした契約を実施しているところもあります。ただ、建専連に加盟していない団体も多くあり、それら含めた経費率を見直すには時間がかかり、特定職種だけ見直すこともできず、そのためにもスピード感を持って進めてほしいと思っています。

■取組みには元請側の理解と専門工事業者側も対応を変えることが求められます。

 多くの元請企業は、今のままでは技能者がいなくなり、建設業が衰退すると危機感を持っております。委員会では、目先の議論ではなく、健全な業者が生き残れる持続可能な建設業を目指して議論してきたものです。そのあたりは国も元請団体も同じ目線だと思います。
 ただ、それでも単価を叩いて生き延びようとする元請もおりますし、理解しようとしない業者もいる。また、建築工事では特に民間工事が課題です。今回のとりまとめの中でも、民間事業者への勧告対象に含めた記述が盛り込まれたことは大いに意義があります。
 標準労務費では、これまでより経費率も上がってきますが、そこだけは手を付けないよう交渉することが必要です。そこは事業主がどう対応するかです。実際、現場レベルでどういった反応が起こるのか分からない部分もありますが、いずれにしろ業法改正ができて初めてスタートラインに立つことができると思っています。



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