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近畿地方整備局 成宮文彦統括防災官  【2023年09月25日掲載】

頻発・激甚化する自然災害「備え」あってこそ

TEC―FORCEが立ち向かうとき

近畿に隊員1400余高度化する役割

大地震対策100以上の協力機関と計画策定


 近年では、気候変動による台風や大雨等の自然災害が多発する中、南海トラフ巨大地震をはじめとする大規模地震も高い確率での発生が予測され、国では国土強靭化対策等の取組みを進めている。近畿圏における防災・減災行政を先導する近畿地方整備局では、専属部署を設置して各種災害へ備えるとともに、発災時にはTEC―FORCEを派遣しての支援活動を実施している。災害への事前準備について、「自らのこととして日頃からの備えが重要」と語る成宮文彦統括防災官に、近畿地整の取組みを聞いた。

   さまざまな自治体支援

■まず、統括防災官の役割と、TEC―FORCEの発足から現在までの取組みと活動状況についてお聞かせ下さい。

 災害は現在も全国各地で頻発しており、気候変動の影響もあって今後、さらに頻発化、激甚化するものと予想されています。国土交通省では、大規模災害への備えとして自治体に対する迅速な支援を行うため、2019年からTEC―FORCEを組織して取組みを行ってきています。これまで多くの災害支援を実施する中では、自治体等からの期待も高まってきており、派遣回数も増え、隊員数も増員してきています。
 また、活動を続ける中では、TEC―FORCEに求められる役割も拡大し、求められる内容も高度化してきました。このため適切な支援を行うためには、その役割を的確にコントロールすることが必要になってきました。
 さらに、災害は予測が困難で、日頃の備えがないと対応が出来ません。防災は、平時から事前に備えておくことが大事であり、災害対応にあたっては、自治体はもとより自衛隊や関係機関、建設業界等が連携し、それぞれが役割を果たしていく必要がありますが、それについても日頃から関係を構築する必要があります。
 これら事前の備えと関係機関との連携、的確な災害支援のコントロールを行う専属の部署が必要となることから、防災室と災害対策マネジメント室が設置され、それらを組織として統括するのが統括防災官の役割となります。

■現在のTEC―FORCEの体制は。

 今年4月の時点で全国で1万6186人が認定され、このうち近畿地整は1433人となっています。派遣実績では、創設から令和4年3月末までで、全国でのべ13万1000人・日、近畿地整は今年5月での時点でのべ1万3000人・日を超える隊員が活動しています。

■任務の拡大、高度化ということですが具体的には。

 当初は河川や道路等の土木構造物の被害や地震災害に対する支援でしたが、近年では豪雪時に立ち往生した車両に対する搭乗者支援、鳥インフルエンザに対する自治体支援等があります。また、昨年は小笠原諸島で海底火山の影響により軽石が沿岸部に漂流したケースでは沖縄まで調査に行きました。和歌山の水道橋落下では、復旧に向けた支援に加え、緊急的な支援として給水機能付きの散水車の派遣やペットボトル飲料水の提供など実施してきました。
 災害調査においても、当初は隊員が測量機器を持って現場調査を行っていましたが、現在ではドローンやレーザー距離計を活用し、安全かつ迅速に被災状況調査を行うようになっています。また、通信機器を活用し、被害箇所のリアルタイムの映像を災害対策本部や自治体庁舎へ伝送する等の対応も実施しています。

■リエゾンとの役割分担は。

 リエゾンの場合、震度6以上の大規模地震については、予め決められているメンバーが、昼夜を問わず指示を待たずに出発することになっています。過去には、被災情報の収集は電話等で被災自治体に問い合わせて行っていましたが、被災自治体にはそういった問い合わせに逐次対応する余裕がないことも多く、まず、リエゾンを派遣して直接情報収集を行います。リエゾンからの情報も含め、支援要請を受けてTEC―FORCEを派遣することになります。また、被害状況によっては他地整に支援要請を行い、逆に他地整から要請があればこちらからも派遣します。

   各建設業団体と協定

■関係機関との連携はどのように。

 例えば、大規模な地震への対応としては、平成26年に南海トラフ巨大地震対策計画近畿地域対策計画が策定され、これに基づき各種対策を実施しており、また、その後に発生した地震の教訓や知見を活かし、応急活動計画や戦略的浸水対策等の見直しを行っています。計画は、近畿地整はじめ国の11機関に加え、自治体や自衛隊など104の協力機関で策定しました。これら計画の実施に際しては、近畿地整のTEC―FORCEだけではなく、全国のTEC―FORCEの応援と協力が必要となることから、TEC―FORCEの具体的な活動計画を定めていきます。
 また、首都直下型地震はじめ発生が予想される他の大規模地震に備えた計画とそれに対する支援計画もあり、国交省全体でノウハウを共有しています。これら計画策定に合わせ、各機関との役割分担も決めていきます。活動に際しては南海トラフ巨大地震に限らず、頻発する地震にも対応するため、定期的に訓練や意見交換を実施しているほか、災害支援に関して、陸路が使えない場合は海路を利用した救援物資の輸送を行うことも計画されています。

■災害対応には地域建設業の果たす役割には大きなものがあります。

 例えば、建設業者の協力のもと、道路啓開を行った後、自衛隊が入っていきますが、そういった部分はあまり知られていません。インフラの復旧や地域の復興に建設業界の力は不可欠であると思っています。そのため各建設業団体と災害協定を締結しています。ただ、建設業者の方々も被災する場合はあり、我々としても企業のBCP計画を策定していただけるよう支援を行っています。

■なるほど。

 自然災害に対して国交省では、防災・減災国土強靭化対策として各種施策を実施していますが、ハード整備には時間がかかり、整備が完了しても整備水準を上回る災害が発生する場合もあります。それらを念頭に置きながら、「備えていたことしか役に立たなかった。備えていただけでは十分ではなかった」ということを、東日本大震災の体験に基づく教訓として言われています。このため、誰かがやってくれるのではなく、住民の方々は自らのことと捉えて、日頃から災害への備えをしていただくようお願いしたいと思っています。

■今後も安全安心の確保に向けご尽力下さい。ありがとうございました。



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