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近畿地方整備局 中山義章営繕部長  【2022年11月14日掲載】

地域住民を守り、末永く親しまれる共有財産

大手前合同庁舎完成で耐震化率99%に

遠隔臨場など業務の効率化を進める

全て余裕工期で 働き方改革


 様々な分野にわたり、地域の人々に幅広く活用されている公共建築。中でも、公共サービスの提供や災害時の対策拠点となる官庁施設の役割は、ますます重要なものとなっている。近畿の営繕行政をリードする近畿地方整備局営繕部の中山義章部長は、それら役割に応えるため、管内における施設の適切な維持管理に努めている。その中山部長に、公共建築を取り巻く状況や整備の方向性等を聞いた。なお、11月11日の「公共建築の日」及び11月の「公共建築月間」は、公共建築に対する国民の理解と関心を深めるため平成15年に制定され、11月11日としたのは、日付の数字を建築の基本構造と躯体を象徴する四本柱をイメージしたことや、公共建築の代表である国会議事堂が昭和11年11月に完成したことに由来している。

■初めに公共建築の役割について。

 公共建築は、行政はもとより教育や福祉等の幅広い分野にわたって、地域の人々と密接な関わりを持ちながら利用される施設で、地域の活性化や生活・文化の向上、さらには景観形成等の上において重要な役割を果たしています。特に重要な点では、不特定多数の方々が利用されることから、平時や災害時も含めて安全に使用されることが求められています。
 災害時においては、災害応急対策活動の拠点となり、また、体育館や公民館等では避難施設となることから、必要な防災性能を備えるとともに、日常から適切な維持管理が行われていることが重要となります。それらを含めて公共建築とは、いつ、いかなる場合でも安全で安心して地域住民の方々に利用してもらえ、また、国民共有の財産であることから、長期にわたり愛される施設であればと思っています。

■災害拠点として機能するための対策では。

 近畿地整管内の官庁施設は、令和7年度までに耐震化率100%を目標として取組みを進めており、昨年末までの耐震化率は96・5%に達しました。また、PFI事業で整備を進めていた大手前合同庁舎が完成しました。地域と連携した防災施設として整備したこの新庁舎の完成に伴い、分散していた庁舎が順次、移転することで耐震化率が99%になります。これにより安全・安心の対策がかなり進むことになります。今後は、既存施設の機能を維持するため計画的に改修工事を実施していきます。
 また、南海トラフ巨大地震等への備えとしての老朽化対策、電源設備の上階への配置等の取組み等を実施していくことになります。地道な取組みですが、公共建築を末永く使っていくためのものです。このほか、大手前合同庁舎は全国の合同庁舎では初のZEB―Orientedを取得しており、今後の官庁施設のモデルとなります。

■公共建築には、伝統工法や技能継承等の役割もあります。

 近畿地整のHPでは、平城宮跡大極殿院復原整備工事に従事された職人の方々へのインタビュー記事を掲載しております。伝統工法等を採用した工事は頻繁にあるわけではありませんが、近畿は古くからの文化がある地域ですのでそういった施設は多いと思います。京都迎賓館についても伝統技法が用いられています。工事内容に応じて発注方式を検討したり、従事された人を顕彰するなど、それら分野の方々を少しでもフォローできればと思います。
 また、伝統的な建物でなくても、どこか一部に採用することも手かと思われます。

■営繕工事における働き方改革については。

 営繕工事に限らず、建設現場で働く方々が働きやすい環境整備を行うことは、我々にとっても重要です。働き方改革は担い手確保の取組みでもあり、建設業もしっかりと休暇をとること、特に週休2日の確保が求められています。週休2日に関しては、昨年度から営繕工事の新築工事において、原則、発注者指定型としております。今年度からは対象を拡大し、営繕工事の改修工事において、3億円以上の建築工事と2億円以上の設備工事を新たに対象としました。
 週休2日の実現には、工期が適切に確保され、それに係る必要経費を計上することが重要です。単に発注者が対象工事を指定するだけではなく、発注者が適切に工期を設定して経費を見積もることが必要です。令和4年度の9月末時点では、6件の工事が完成しており、いずれも受注者希望型で4週8休を達成しています。ただ、改修工事等では土日ではなく、週のうち2日間の現場閉所となっています。
 また、工期については全ての営繕工事において余裕工期を設定しています。契約から着工までに一定の期間を設けたもので、経費についても週休2日を達成すれば1・05%のアップとなります。

■働き方改革や業務効率化を図る取組みとしてBIMがありますが、営繕工事での取組みでは。

 BIMについては現在、発注者指定型で国立京都国際会館展示施設第U期や大阪・関西万博日本館の設計など4件で実施しています。国立京都国際会館では、官庁営繕事業における一貫したBIMの活用を前提としています。基本設計での活用や工事に際して受注者へのデータ提供を見据えての取組み等です。大阪・関西万博日本館の場合は、博覧会協会が策定したガイドラインに基づき、BIMによる施工部位の干渉チェック、補修スペースの点検等を行っています。
 受注者希望型では、現在発注している京都中京労働庁舎(仮称)新築設計業務と尼崎法務総合庁舎新築等設計業務で実施しています。このうち尼崎法務総合庁舎では、受注者から建物のボリュームや景観のシミュレーションで活用するとした提案を受け付け、いずれも工事での効率化につながるものと考えています。営繕工事は土木工事と違って、工種も多岐にわたることから、BIMにより配管や配線等の干渉チェックなどをして工事を行うことが重要です。やはり平面より立体的に見ることで工事への理解が深まります。

■地元への説明会等でも活用されていますね。

 また、業務の効率化では、ASPの活用や遠隔臨場の取組みを進めていきます。遠隔臨場は昨年に1件を試行しました。今年度からは7月以降の発注案件については原則、適用とし、今年度は5件を予定しております。遠隔臨場は、現場に出向く移動時間を省き、その時間を品質管理や安全管理に充てていただければと思っています。まだ始まったばかりなので、これら試行により受発注者がノウハウを高めることができればと考えます。
 このほか、工事関係書類の簡素化では、従来、電子データと紙データの提出を求めていたものがあったため、昨年度末から基本的に電子データのみの提出とするよう改定しました。これらの取組みは、働き方改革と同義であり、週休2日の取組みと絡めていければと考えています。

■建設キャリアアップシステムの取組みについては。

 現在の適用対象は、WTO案件と3億円以上の建築工事、2億円以上の電気工事と機械工事をモデル工事としています。営繕工事では、今年度は電気工事2件を予定しています。今後は、小規模工事へも対象を拡大していくことになりますが、まずは対象工事で実績を重ねていきます。

■働き方改革をはじめとする、これら取組みにあたっては、地方自治体と民間工事への普及が課題となります。

 それについては、建設業団体との意見交換会でも議題になっています。府県や政令市と発注者協議会等を通じて、密接に連携しながら取組みの普及促進に向けた周知徹底を図っています。民間工事については、まずは、国として取組みをきちっちりやることで、業界としても声を上げやすくなるかと思います。

■今後もより良い公共建築づくりにご尽力下さい。



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