日刊建設新聞社   CO−PRESS.COM
大阪労働局労働基準部 小野祥二安全課長  【2022年06月27日掲載】

「安全は急がず焦らず怠らず」

死亡災害撲滅に向けた取組みを推進

6月〜8月に労災防止活動を集中展開

大変重要な
「リスクアセスメント」「作業手順」「安全確認」


 第95回全国安全週間が今年も7月1日から7日まで、厚生労働省大阪労働局らの主唱、建設業労働災害防止協会大阪府支部らの協賛を得て、「安全は 急がず焦らず怠らず」をスローガンに展開する。昭和3年に実施されて以来、「人命尊重」を基本理念に、一度も中断することなく続けられている。
 令和3年における大阪府内の労働災害発生状況は、全産業で死傷者8821人。そのうち建設業は693人と7・9%の割合を占める。また、大阪の建設業の特徴としては墜落・転落災害の割合が高いことが挙げられる。
 大阪労働局では「命綱GO活動」の推進をさらに強化するとともに、6月〜8月の3ヶ月間を「STOP死亡災害 2022」活動として集中的な労働災害防止の取組みを展開する。これら災害防止活動の中心的な役割を担う大阪労働局労働基準部安全課の小野祥二課長に安全行政の取組みなどについて聞いた。

■まず、令和3年における大阪府内の労働災害発生状況についてお聞かせください。

 令和3年における大阪府内の労働災害発生状況ですが、休業4日以上の死傷者数は、新型コロナウイルス感染症のり患を除き、8821人となり前年と比べて408人増加(4・8%増)しました。
 死亡者数も新型コロナウイルス感染症のり患を除き、52人と前年より6人増加しております。
 大阪府内の建設業における死亡者数は15人と令和2年に比べ3人増加しており、墜落・転落災害により7人(46・7%)が亡くなられています。
 その発生状況を見てみますと、「屋根の補修工事中に、スレートを踏み抜いたもの」や「要求性能墜落制止用器具を着用しながら使用していなかったもの」など、基本的な墜落防止措置としての設備の設置や要求性能墜落制止用器具の使用により防止できたものがほとんどです。
 死亡災害については、業種別では依然として建設業の占める割合は高く全体の28・8%を占める状況です。死傷者数についても新型コロナウイルス感染症のり患を除き693人と令和2年より16人増加し、2・4%の増加となっております。
 また、令和3年においては、水道工事のずい道内に作業員が閉じ込められるなど社会的に大きな影響を与える事故が発生しております。これらを防止するためには、労働安全衛生法等の法令の遵守はもちろんのこと、作業を行う上で起こりうる危険源を洗い出し、リスクアセスメントを実施し安全対策を講じ、許容可能な範囲にまでリスク低減することが大切であると考えます。
 作業手順を作成すれば、作業者一人ひとりにこれを遵守するよう安全教育を実施し、作業場の巡視では直接、手順どおりに作業が進められているかを確認するなどの安全管理を行っていただきたいと思います。
 労働災害防止には、「リスクアセスメント」「作業手順」「安全確認」が大変重要であると考えています。

■全国からみた大阪の状況については。

 全国においては、死傷者数が新型コロナウイルス感染症のり患を除き、130,586人と5,471人増加(4・4%増)しており、死亡災害は新型コロナウイルス感染症のり患を除き、778人と6人減少となっています。
 全国の建設業の死亡者数は288人で、令和2年の258人に比べ30人増加となりました。
 また、死傷者数は新型コロナウイルス感染症のり患を除き、14,926人であり令和2年の14,790人より136人増加となっており、全産業のうち建設業が占める割合は11・4%です。
 大阪においては全産業での死傷者8,821人に対し建設業は693人であり、建設業の占める割合は7・9%となります。
 建設業の死亡災害のうち、墜落・転落災害の占める割合については、全国では38・2%、大阪では46・7%。死傷災害のうち、墜落・転落災害の占める割合は全国では30・3%、大阪では33・6%であり、墜落・転落災害の割合が高いことが大阪の特徴として挙げられます。

   「エイジフレンドリー ガイドライン」の周知

     外国人労働者の教育も徹底

■今年度の大阪労働局の目標と重点事項を教えてください。

 今年度も、平成30年度を初年度とする「大阪労働局第13次労働災害防止推進計画」の死傷災害を平成29年と比べ、令和4年には5%以上減の7,927人以下に、死亡災害を15%減の51人以下とする目標を達成するため、さらに強力に施策を展開しなくてはならないと考えております。
 先ほど申し上げたように、令和3年は死亡災害、死傷災害とも前年より増加し、死亡災害については全産業で53人以下とする目標は達成しましたが、死傷災害については全産業で8,009人以下とする目標には全く届いておりません。
 建設業につきましても、死亡災害、死傷災害ともに増加しており、予断を許さない状況です。
 できる限り多くの建設現場のパトロールを実施し、年末にも、近畿ブロック各労働局と連携し、一斉に建設現場に対し現場指導を実施することとしています。
 さらに、今後増加が見込まれる高年齢労働者について「エイジフレンドリーガイドライン」の周知徹底と同様に増加が見込まれる外国人労働者の労働災害防止のため、危険体感教育や現場送り出し教育等の安全衛生教育の徹底を図っていきたいと考えております。

■特に建設業における取組及び注意事項については。

 今年の大阪府内の建設業における労働災害による死傷者数は、4月末日現在で新型コロナウイルス感染症のり患を除き、131人と前年同期と比べ38人(22・5%)の減少となっております。しかしながら、死亡者数は5月20日時点で4人と、前年同期より1人増加し、4人のうち3人が墜落・転落災害となっています。墜落制止用器具を着用していながらも使用しなかったために墜落・転落災害に至るケースも散見されます。
 大阪労働局で展開している「命綱GO活動」をさらに推進し、墜落・転落災害を防止する必要があります。「命綱GO活動」では、墜落制止用器具のフックの掛け替え時の墜落防止や、万が一墜落しても墜落時の衝撃の緩和を図る、2丁掛けフルハーネス型墜落制止用器具の使用の促進を進めています。
 また、昨年には建設業で熱中症により1人が亡くなられていることもあり、建設業では今後のさらなる労働災害防止対策が必要となっていることから、6月・7月・8月の三か月間を「STOP死亡災害 2022」活動として集中的な労働災害防止の取組みを展開します。
 今年も熱中症の予防対策が必要な季節になりました。
 昨年は、大阪府内の職場での熱中症による休業4日以上の死傷者数は27人となっており、死亡者も2人発生しています。
 昨年に引き続き、今年も5月1日から9月30日まで「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施し、予防対策に取り組んでいます。
 同時に、職場における熱中症による死亡者ゼロを目指し、異常を認めたときにはすぐに救急車を呼ぶなどの対応を行っていただくと共に、労働者が「体調が悪いです」と同僚や上司などに伝えやすい職場・現場環境の実現をお願いいたします。
 皆様方にも、これらの活動の趣旨を御理解いただき、積極的に労働災害防止への取組みをお願いいたします。
 7月1日から実施される令和4年度全国安全週間におきましても、「安全は 急がず焦らず怠らず」のスローガンの下、実施要綱に基づき、建設業における労働災害防止対策について、「足場等からの墜落・転落防止対策の実施、手すり先行工法の積極的な採用、改正された法令に基づくフルハーネス型墜落制止用器具の適切な使用」や「適切な安全衛生経費の確保」等の実施を提唱しております。
 また、期間中YouTube にて動画による局長メッセージや建設業に携わる方々へのメッセージを投稿し、広く労働災害防止を呼び掛けております。

 
     時間外労働の上限規制、早めの準備を

■最後に一言お願いします。

 長引くコロナ禍と国際情勢の影響など経済情勢の先行きには不透明なところもありますが、2025年には万国博覧会の大阪開催が予定されており、来年には本格的な建築工事が始まることで、元気な大阪となり、建設業界においてもより活性化していくことが期待されるところです。
 しかしながら、建設業界においては、今でも人手が足りないとの声を聞くところであり、今後、経済活動が活性化していくなかで人手不足が加速化し、限りある人員にのみ頼ることとなれば、労働災害発生のリスクが高まります。建設業に人が集い、魅力的であるためには「安全で安心して働ける職場環境の整備」が重要であり、労働災害の防止はもとより、長時間労働の抑制や週休二日制の導入等の働き方改革に積極的に取り組んでいくことが重要です。また、建設の事業については、現在時間外労働の上限規制の適用が猶予されていますが、2024年4月1日より適用となるため早めの準備をお願いします。



Copyright (C) NIKKAN KENSETSU SHINBUNSHA. All Rights Reserved.
当サイトを利用した結果に関するトラブルなどに関しては、当社としては一切責任をとりかねます。