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マンション適正管理サポートセンター(MTS) 草刈会長、小野事務局長
    【2022年04月11日掲載】
 
改正マンション管理適正化法が施行

求められる管理組合主体の大規模修繕

「プロポーザル・総合評価 落札方式」のさらなる普及へ

国のマニュアルに明記


草刈会長(左)と小野事務局長



 改正マンション管理適正化法が今月から施行された。改正法では、マンションの管理計画の適正性を自治体が認定する制度が盛り込まれるなど、行政と管理組合の責務が強化されている。適正管理を推進するうえで、大規模修繕工事の重要性が高まる中、(一社)マンション適正管理サポートセンター(MTS)では、適正な発注方式として、管理組合主体の新たな仕組みである「プロポーザル+総合評価落札方式」の普及・定着を目指す。
 MTSの草刈保廣会長と小野利行事務局長に現状や今後の取組みなどを聞いた。

■改正マンション管理適正化法が4月1日から施行されました。

 適正管理に向けて地方自治体もいよいよ動き始めている。例えば名古屋市では、独自施策としてマンション管理条例を制定した。管理不全を予防し、良好なマンションストックや住環境を形成することが狙いで、既存マンションには管理状況の届出を義務化し、分譲前のマンションにも分譲会社からの管理計画の届出を義務化する。これにより、新築・既存マンションを問わず、名古屋市ではすべてのマンションの管理状況や連絡先などを把握し、大規模修繕工事や長期修繕計画の指導まで実施することになる。先進的な取組みであり、他の自治体への波及も期待している。

■適正管理を推進すべく、昨年9月には「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」も改訂されています。

 マニュアルには、MTSが推進してきた大規模修繕の発注方式である「プロポーザル+総合評価落札方式」が新たに明記された。これは大規模修繕の正常化に向けた大きな一歩となる。適正な修繕工事は適正管理の一丁目一番地。そのためには発注方式が適正でなければならない。MTSではセミナーや勉強会などを通じ、公平・公正で透明性が高く、管理組合が主体的に意思決定できる仕組み、「プロポーザル+総合評価落札方式」の導入の必要性を訴え続けてきた。あわせて談合防止と地域経済活性化の観点から、地域の仕事は地域の業者が請負う環境整備も必要だと。一昨年には国土交通大臣に要望書も提出した。そういった取り組みが功を奏したと思っている。

■適正管理のためには何より適正な修繕工事が必要だと。

 国土交通省の調査結果によると、大規模修繕費は1戸当たり概ね100万円。つまり、基本的にはそれ以上にはならないということ。しかし、いまだに150万円かかったという話もある。最近、MTSに相談があった事例では、管理会社の概算見積もりが1戸当たり200万円を超えていた。工事金額は修繕積立金残高とほぼ同額。狙い撃ちだ。内訳を確認したところ、必要のない工事や先延ばしできる工事がたくさん含まれていた。そういうものをきちんと整理し見直していけば、工事費は大幅に削減できる。一方、必要な工事は多少お金がかかってもやるという姿勢も大事だ。
 われわれの「プロポーザル+総合評価落札方式」では、まず管理組合とMTSのプロのサポーターで劣化調査と診断を実施し、そこに管理組合の要望事項を加え、施工範囲を決定する。そして、その施工範囲を条件に業者を公募し、参加各社に仕様書・見積書を提出してもらう。要するに、プロポーザルで業者に競争させること。これがコストパフォーマンに優れた業者を選ぶうえで最も重要なポイントである。

■バックマージンなど不正の温床ともなっていたP点900点以上、資本金1億円以上など公募条件も引き下げた。

 資本金は5千万円あれば十分。P点にはこだわらない。管理組合のみなさんは元請下請を含めた大規模修繕の施工実績を重視する傾向がある。次に財務体質の健全性。これについては業者から決算報告書を提出してもらって確認している。参加条件を下げても、施工品質にはまったく問題はない。大規模修繕は主に「防水」「塗装」「足場」の3つからなる仕上業。そんなに難しい工事ではない。これまでが過剰だっただけだ。また前述した通り、MTSは「地域の仕事は地域の業者で」。即ち、まちの大工さんづくりを目指している。「プロポーザル+総合評価落札方式」で地域に根差した技術力のある工事業者に発注し、「安く、良く、安心に」出来上がったとなれば、日常の小修繕についてもその業者に頼んだらいい。いわゆる出入りの大工さん。材料・工法の技術開発も進んでおり、こまめな手入れをすれば、100年マンションも実現できる。

■これまでの実績について教えてください。

 MTSでは既に5件の大規模修繕工事のサポート業務を受注している。だが、積極的に営業をかけたことはまだ一度もない。業界の正常化に向けた啓蒙活動を展開する中で、引き合いを受けたものばかりだ。例えば、滋賀県住宅課や神戸すまいまちづくり公社が主催する大規模修繕に関するセミナー、奈良県マンション管理組合連合会の総会などで「プロポーザル+総合評価落札方式」を紹介し、そこで興味を持った管理組合に招かれ、勉強会を重ねた結果、受注に至るという流れだ。現在、奈良で取り組んでいる大規模修繕の案件は、月1回のペースで1年以上、管理組合のみなさんと勉強会を実施している。

■そうなると管理組合のみなさんの負担も大きい。

 われわれは折に触れて「管理組合が主体だ」と言っている。MTSはあくまで意思決定のサポート役、お手伝いだ。本来は管理組合がもっと汗をかかないと。今回の法改正では、行政だけでなく管理組合の責務が強化され、条文にも組合に対して「自ら適正管理に努める」と明記されている。これを機に、管理会社に丸投げせず、自分たちの資産は自分たちで守っていく。そういった目覚めた管理組合にならなければいけない。
 ただ正直なところ、現役世代は修繕委員会の活動に十分な時間を割くことは難しいとも感じている。今後、マンション住民が良好なコミュニティを形成し、時間にゆとりがある高齢者にもっと活躍してもらうことが不可欠ではないだろうか。

■最後に一言お願いします。

 MTSとの勉強会で蓄積した大規模修繕に関するノウハウを、是非とも管理組合の財産として引き継いでもらいたい。そして、次の修繕工事の時には、管理組合自らが公募から業者選定までの発注業務をすべて取り仕切る。コンサルタントなんて不要だと。それがわれわれの究極の目標でもある。
 今回マニュアルに記載されたことで「プロポーザル+総合評価落札方式」に対する関心は確実に高まるだろう。その仕組みを広く普及・定着させるため、さらなる改善に取り組んでいきたい。

 
 
 
 


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