日刊建設新聞社   CO−PRESS.COM
近畿地方整備局 中村晃之副局長  【2022年03月28日掲載】

さらに強靭、さらに高機能近畿の港湾整備進む

直轄海岸事業など一つひとつ着実に

地震以外の災害に備え大阪湾BCP見直し

大型コンテナ船や最大級クルーズ船受入に対応


 物流交易の拠点である港湾は、社会活動や経済活動を支える上で重要なインフラであり、いかなる状況にあっても整備の後退は許されないものとなっている。近年では、本来の港湾機能の強化・拡充はもとより、防災・減災対策やカーボンニュートラルの実現、整備における生産性向上等も大きな課題となっている。近畿圏の港湾行政を統括する近畿地方整備局港湾空港部では、管内各港湾管理者と連携しながら、各種の施策を推進しているが、それら港湾空港部取組みについて中村晃之副局長に聞いた。

■まず、港湾における防災・減災対策における取組みからお聞かせ下さい。

 国の防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策の2年目として令和3年度補正予算を港湾と海岸の直轄事業で52億円確保しており、令和4年度予算とともに事業を推進していきます。国土強靱化の代表的な事業としては、和歌山下津港海南地区の海岸事業について直轄事業としてしっかりと進めて参ります。
 近畿地方整備局管内における国土強靱化の動きは、平成30年の台風21号が契機となったと考えています。この台風では、甚大な被害が出た昭和36年の第2室戸台風を上回る潮位が大阪湾で観測されましたが、大阪市内においては、それまでに整備してきた防潮施設の効果により人家などには被害が出ず、その効果は約17兆円にも達すると推定されています。
 一方で、港湾の施設についてはそれら防潮施設の堤外地にあることから、コンテナ貨物の流出や強風による荷崩れが大阪湾全体で発生しました。これらについては、個々に対策を実施するとともに、大阪湾BCPの見直しを行ったところです。大阪湾には、神戸港や大阪港をはじめ重要な港湾が連なっていることから、それぞれの港湾管理者の取組みとともに、大阪湾全体としての取組みも必要となっています。
 大阪湾BCP(案)は、平成20年度から全国に先駆けて議論を開始しており、当初は、地震対策を中心に議論していましたが、平成30年の台風21号の教訓を踏まえ、高潮高波暴風災害時編も取りまとめたところです。
 また、堺泉北港の基幹的広域防災拠点の機能拡充も課題となっています。平成24年の供用開始から10年が経過し、これまで様々な災害対応で機能を発揮してきましたが、現在は、日本海側との連携について議論しています。南海トラフ巨大地震が発生した場合、防災拠点にも何らかの被害の発生が考えられることから、舞鶴港等において緊急物資を搬入できるかなど、さらに広域的な考え方について議論しています。

■なるほど。

 このほか、各港湾管理者はじめ自治体や関係機関による合同防災訓練も毎年実施しています。回を重ねるごとに訓練の精度も上がってきています。また、参加各機関からは様々な意見や提案もいただいており、そういった意見や提案を汲み上げながら訓練の充実も図っていきたいと思っています。
 また、今回のコロナ禍で甚大なダメージを受けたのがクルーズ船で、現在でも国内クルーズ船しか運航していません。関西は観光資源が多く、訪問を希望する観光客も多いと思われることから、各観光地の魅力を最大限に引き出すツアーを構築できるようにと支援を行っています。
 感染症対策としては、船内に感染者が出た場合に備え、港に隔離室等の対策施設の整備も必要であることから、本省が補助金を含めた制度を改正してその活用を呼びかけています。このほか、感染症BCPとして令和3年4月に本省で港湾の事業継続計画策定ガイドラインの中で感染症編が策定され、これを受け大阪湾BCP協議会においても検討を進めているところです。

■今年度事業について。

 阪神港に関しては、令和3年はコンテナ貨物の取扱量が五%程度増加すると見込まれており、これまで以上に集貨・創貨・競争力強化の取組みを進めていきます。競争力強化については、ハード面では、大型コンテナ船に対応する航路増深とコンテナターミナルの耐震化等の事業が中心になります。
 大阪湾岸道路西伸部事業では、阪神高速道路(株)と近畿地整の道路部とともに力を合わせて進めていきます。神戸港内の地質調査の結果、地盤が粘土層と砂層の互層となっており、このため海上橋梁の主塔基礎部分では綿密なボーリング調査が必要との判断から、現在、現地ボーリングを実施しているところです。調査結果等を踏まえ引き続き、技術検討委員会の助言を頂きながら進めていきます。
 また、世界最大級のクルーズ船を受け入れるため、六甲アイランドとポートアイランド間の西側の新港航路上に架かる橋梁桁の高さを引き上げる必要があり、橋脚位置の移動と航路の切替えが必要となることから、航路切替えのための既存防波堤の撤去工事と浚渫工事を実施しています。
 この他、令和3年度新規の直轄事業として姫路港広畑地区で水深14メートルの岸壁整備の事業化が認められたことから、この設計を進め早期の現地着工を目指していきます。また、舞鶴港和田地区のターミナル整備でも今年度の着工が認められ早期の供用開始を目指します。

■施策や工事にあたってはSDGsへの配慮も必要ですね。

 神戸港では脱炭素に向けた水素利活用の取り組みが進んでいて、民間事業者が豪州で製造した水素を海上運搬し、神戸港内の施設に貯蔵する技術的な検証が行われています。
 このような背景の下、神戸港が全国の港湾に先駆けて次世代エネルギー等の利活用により脱炭素に配慮した先行的な取り組みを行う7港湾に指定されました。このため、神戸港カーボンニュートラルポート(CNP)検討会を昨年度立ち上げて検討を進め、今年2月には神戸港におけるCNP形成に向けたロードマップを取りまとめました。
 また、コンテナターミナルにおいて、接岸中の大型コンテナ船に陸上から電気を供給する装置(陸電施設)の整備を目指しています。現時点では電力コストや接続作業の手間などに課題があるため検討を進めている段階です。

■現在では、工事において働き方改革や生産性向上等が求められていますが、これへの取組みは。

 新担い手三法の施行により、働き方改革と担い手の育成、生産性向上を三位一体で実施することが求められています。この中で、生産性向上では、DXへの取組みとしてICT施工、BIM/CIMの導入、遠隔臨場等を行っています。
 ICT施工では、当初、浚渫工から試行し、現在では基礎工、ブロック据付工やケーソン本体工と順次、工種を拡大しています。件数ベースでは、平成29年度の3件から令和3年度は13件となっており、今後も取組みを継続していきます。BIM/CIMに関しては、舞鶴港第二埠頭で全国に先駆けて導入しました。関係者間での情報共有や施工シミュレーション等で活用し、効果を得ています。
 遠隔臨場でも同様で、特に急な日程変更等にも柔軟に対応できるなどの意見もあります。ただ、これらの活用には、システムや操作上の課題もあり、今後も試行を重ね、課題をクリアしながら知見や実績を蓄積していきます。
 また、働き方改革における週休2日の取得や時間外労働の規制等の取組みに関しては、働き方改革実行計画で大筋の部分が示されていることから、それを踏まえて必要な取組みを実施していきます。
 港湾工事における週休2日の取組みに関しては、発注者指定型で目標の度合いに応じて工事成績への加点や経費補正を実施しています。港湾工事の場合、施工時期が限定されるものが多く、そこをどうやってクリアしていくか課題もありますが、港湾工事での週休2日と4週8休の全国達成率は、令和元年度は61%、令和2年度は67%と着実に進んでおり、この流れを更に進めてまいります。

■今後も各分野にわたる港湾整備にご尽力下さい。ありがとうございました。



Copyright (C) NIKKAN KENSETSU SHINBUNSHA. All Rights Reserved.
当サイトを利用した結果に関するトラブルなどに関しては、当社としては一切責任をとりかねます。