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大阪府危機管理室 小池重一室長   【2021年09月27日掲載】

襲いかかる自然災害、対策の根幹はインフラ

最悪事態想定して行動

次期防災情報システムを改修


 自然災害をはじめ、各種の危機事象に対し、府民を守るため、市町村や防災関係機関と一体となり、府域の総合的な危機管理と防災力の向上に取り組む大阪府危機管理室では現在、小池重一室長の下、健康危機事象の新型コロナウイルス感染症対策として、感染拡大防止と療養施設の確保に努めながら、台風や地震等の大規模災害へ備えた取組みを展開している。「自らの命を守ることが人の命を救うことになる」と呼びかける小池室長に、コロナ対策や自然災害における取組みについて聞いた。

  コロナとの戦いも

■危機管理室の役割からお聞かせ下さい。

 府民の生命や財産等を守るため、大阪府として、自然災害事象や、感染症等に対する健康危機事象、テロ等の国民保護事象等に対し、適時適切に対処しなければなりません。このため、危機管理室の役割は、危機管理監の指揮のもと、本府に関する危機事象に対し、庁内横断的な観点から各部局との総合調整を図るとともに、府内市町村はじめ消防、警察、自衛隊その他の防災関係機関と一体となり、府域全般の総合的な危機管理とその対応力の向上に取り組んでいます。 
 現在は、いつ起こるかわからない自然災害事象への対応力強化と、実際に起きている新型コロナウイルス対応を室員89人体制で総力を挙げて取り組んでいます。
 自然災害への対応力強化の取組みに際しては、これまでの災害事象を検証し浮かびあがった課題や時代の趨勢にあわせることが重要です。例えば、府内に広域的な大規模災害が発生もしくは迫っている場合には、府民のみなさまに行動変容を起こしてもらうため、知事から「災害モード宣言」を発してもらうこととしています。また、台風への備えとして、気象庁が早めに台風予測が示されるようになりましたので、台風来襲時のタイムラインを庁内の災害対応の指針である災害等応急対策実施要領に盛り込むなど、防災減災を図るため、要領等の適宜、改訂も行っています。
 私は危機管理の原則は「疑わしい時はまず行動」「最悪の事態を想定して行動」「見逃すことは許されない」と考えており、これを危機管理室のみならず、庁内全ての組織風土として構築する必要があると思っています。

■コロナにおける危機管理室の対応は。

 コロナ対応は、分数に例えて、分母と分子の関係に分けることができると思います。分母では医療キャパシティを増やす、分子は感染者を増やさないことです。分子の対策として危機管理室では、感染拡大防止対策の徹底を図るため、緊急事態宣言下における府民のみなさんへ不要不急の外出自粛の呼びかけや、飲食店等事業者のみなさんへ営業時間短縮のお願いなど、緊急事態措置の実効性の確保に向けた取組みを行っております。分母の部分では、病床確保は健康医療部が精力的に行っておりますが、療養施設としてのホテルの開設と運営については危機管理室が担っており、9月末までには31施設で8400人分の確保を予定しています。

■自然災害への対応では。

 平成30年7月の西日本豪雨では、200人を超える死者と行方不明者が出たことから、国では中央防災会議の議論を踏まえ、今年5月に災害対策基本法が改正されました。改正のポイントは、一つには、逃げ遅れによる犠牲者ゼロを目指し、避難勧告と避難指示が避難指示に一本化されたことです。避難指示で必ず避難、ということを意識し、府民の皆さんには行動に移していただきたい、と思います。
 また、避難情報に、人の行動にまで踏み込んだ具体的な行動指示である緊急安全確保がレベル5として設定されました。これは必ず発令されるものではないですので、普段からハザードマップを確認し、風水害や土砂災害のおそれのある場合は、どこに逃げるかを意識し、訓練するとともに、万が一の時のとっさの行動も想起していただきたい、と思います。
 早めの避難指示で多くの住民のみなさまが安全確保の避難行動を行ってもらうことにより、万が一、災害が発生した場合において、被災者数を軽減することが可能となり、被災者が少なければ少ないほど、救助・救命活動がより迅速になりますので、自分の命を守るため、それが大事な人の命を救うことになる、ということも理解していただきたく、思います。
 また、市町村に対して高齢者や介護が必要な要配慮者に考慮した個別避難計画の作成が努力義務化されました。自助・共助の社会づくりについてはこれまでも言われていましたが、近年の災害を踏まえ、より加速して取り組んでいく必要があり、本府としてもしっかりと支援していきたい、と思います。
 予測精度が上がった災害情報に関し、「伝える」から「伝わる」を意識していかなければなりません。現在、HPで提供している災害情報について、これをよりわかりやすく「伝わる」よう、文字情報から地図等を利用したビジュアル化を進め「地図」による見える化を進めるべく、令和4年8月の運用開始を目指して次期防災情報システムを改修しております。

  改正された災害対策基本法

  犠牲者ゼロを目指して

  安全安心確保建設業に期待

■災害発生時の対応について。

 全庁的には、大阪府地域防災計画に基づき、災害予防から発災後の災害応急と復旧、復興と各段階における部局毎の取組みとともに、災害発生時は知事をトップとする災害対策本部の立ち上げまでの5段階体制を構築しています。
 また即時対応できるよう、府庁周辺の公舎に、私を含め幹部職員9人が居住しております。加えまして、夜間や休日に府内で震度五以上の地震が発生した場合には、「緊急防災推進員」として指名された府庁周辺で30分以内に居住する府職員60人と、危機管理室幹部職員が大阪府危機管理センターに参集して初動活動を行うことになっています。
 初動期の活動では、府内の状況を把握するため、府と市町村が共同運用する大阪府防災情報システムによる情報収集と、大阪市消防局のヘリコプターや生駒山や葛城山等に設置されているカメラ映像により情報収集を行います。また、各市町村庁舎近隣に居住する府職員が、緊急防災推進員として地元市町村庁舎に駆け付け、対応状況を報告することになっています。

■他機関との連携は。

 国との連携ですが、平成30年6月の大阪府北部地震では、近畿地方整備局のTEC―FORCEの方々に助けていただきました。府内の土砂災害発生カ所の災害判定にあたり、当時、私も河川環境課長として同行しましたが、いろいろな技術的な助言をいただきました。また、府内の土砂災害警戒区域の状況を把握するため、近畿地整の防災ヘリを飛ばしてもらい、情報提供も受けることができました。
 また、近畿地整には内水浸水に対応するポンプ車等も装備されており、これらモノ、ヒト、技術の連携体制強化を図っていただきたい。また、情報の連携もより強化していきたい。具体的には、淀川や大和川は、流域が広く、大雨時の水位の上がり方が大阪府の管理する河川と異なりますので、わかりやすく府民に対して適切に伝えられるよう連携を深めていきたいと思っています。
 このほか、民間との災害協定については、令和3年8月の時点で災害時の物資提供や建設資材の調達等に関して355の企業・団体と347の防災協定を締結しており、最近のコロナ禍では、従来の避難所に加え、新たな避難所確保を市町村が必要となることから、府内のホテル等の宿泊施設とも防災協定を締結いたしました。
 他機関、救助機関等の連携はもとより、自助・共助の推進が重要です。府民のみなさんには、とりわけ、南海トラフ巨大地震に備え、ハーザドマップをよく読んでいただき、非常時の避難場所や避難ルートの確認をお願いするとともに、強い住まいとおいしい備蓄をお願いしたい。家庭内における家具の転倒防止器具の設置、備蓄食料でも長期保存が可能で多彩なメニューの美味しい食品があり、消費した分だけストックするというローリングストックの実践など、できることから取り組んでいただきたい。

■最後に建設業に対するご意見や要望等がありましたら。

 私自身は、災害対策の根幹はインフラだと思っていますが、そのインフラを整備し、維持管理するのは建設業であり、府民の安全安心を確保する役割を担っていただいていると思っています。そのためにも建設業の持続した発展が必要で、現在は担い手確保が課題となっていますが、ICT等を活用しながら、その使命を持続的に担っていただきたいと思っています。

■ありがとうございました。



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