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近畿地方整備局 溝口宏樹局長  【2021年01月04日掲載】

関西の元気をかたちにする

全方向の社会資本整備


 国民の生命・財産を守り、日々の暮らしを支える社会資本整備に努める近畿地方整備局では、防災・減災対策をはじめ、河川や道路、港湾等の各分野における施策を推進しながら、生産性向上や働き方改革に対応するため、入札契約制度の改善やICT施工の導入、インフラ分野でのDX(デジタルトランスフォーメーション)等への取組みを進めている。これら施策の展開にあたって同局の溝口宏樹局長は、「関西の元気をかたちにするもの」とする。その溝口局長に、これまでの事業の進捗状況や今後の見通し等について聞いた。

     主な取組み  変革の波
 河川など自然災害への備え急ぐ  万博に向けてインフラしっかり
 

■まずは、今年度の主な事業の取組みと進捗状況についてお聞かせ下さい。

 初めに、新型コロナウイルスへの対応に関して申します。昨年のコロナ禍において、建設業の方々が現場での感染対策を早い段階から進めていただき、これまでに建設業におけるコロナの影響は最小限に抑えられました。自粛期間中も、社会活動維持のために、建設業の方々が休まずに経済の下支えを行っていただいたことに、まず改めて感謝申し上げます。
 さて、今年度の主な取組みですが、河川では、気候変動の影響による今後の自然災害に備えて、天ヶ瀬ダム再開発事業や足羽川ダムの建設事業、淀川での阪神なんば線淀川橋梁改築事業など、安全・安心を確保するための治水対策事業や砂防施設の整備など、防災対策を中心に進めています。
 このうち天ヶ瀬ダム再開発事業では、昨年7月22日にトンネル式放流設備が貫通し、令和3年度の完成に向け着実に進捗しています。足羽川ダムに関しては、同じく昨年11月15日に現地で起工式を行ってダム本体の建設工事に着手しており、阪神なんば線淀川橋梁改築事業については橋梁の架け替え工事を推進中です。
 道路関係では、近畿圏の基幹ネットワークを形成する北近畿豊岡自動車はじめ、中部縦貫自動車道や近畿自動車道紀勢線等の整備を推進しておりますが、これら道路は、令和時代にふさわしい豊かで暮らしやすい地域社会を実現するためのものです。この中で北近畿豊岡自動車道については、豊岡道路U期を令和2年度に新規事業化し、昨年11月1日には日高豊岡南道路が開通を果たしています。
 中部縦貫自動車道では、大野から和泉間の開通目標を令和4年度に設定し、現在はトンネル及び橋梁工事等を全面的に展開しています。近畿自動車道紀勢線に関しては、串本太地道路において今年度から用地買収に着手しており、道路ネットワークにおけるミッシングリンクの解消に向けて着実に事業は進捗しています。
 また、神戸市の神戸三宮駅において分散しているバス停を集約し、新たな中・長距離バスターミナル等の交通結節空間を創出する交通ターミナル整備事業に、近畿管内の直轄事業としては初めて令和2年度に事業化し、再開発ビルと連携して整備を進めているところです。
 港湾事業では、国際競争力の強化を図るため、国際コンテナ戦略港湾の阪神港での機能強化に取り組んでいます。具体的には、神戸港と大阪港の基幹航路に就航する大型船の入港を可能にするため、国際標準の水深と広さを有する大水深コンテナターミナルの整備等を進めています。
 また、コンテナターミナル周辺での混雑が深刻化していることから、情報技術を活用したゲート処理及びヤード内の荷役作業効率化を目的に、新・港湾情報システムであるCONPASの阪神港への導入の検討を進めています。このほか、地域産業の競争力強化のため、堺泉北港で自動車専用船の大型化、ドライバー不足を背景としたモーダルシフト進展に対応するための埠頭再編を行っています。

■新型コロナウイルスの影響により、生活や行動様式が変化しましたが、それらを踏まえた事業の進め方や取組みについて。

 今年度当初は工事発注の遅れもありましたが、その後は遅れも取り戻し予定通りに事業は進捗しています。その一方で、コロナの感染拡大防止対策をきっかけとして、社会全体でデジタル化が急激に進展し、仕事のやり方も大きく変わってきています。近畿地整でも、テレワークやオンライン会議等を積極的に導入し、工事においても受発注者双方向通信による監督・検査の遠隔臨場を試行的に取り組むなど、時代に応じた働き方にチャレンジしています。
 今後は、インフラ分野でデータとデジタル技術を活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)を強力に推進していくことが必要です。このため近畿地整では、地方公共団体や建設業の方々に細心のVR技術等を活用したDXを学習・体験していただける研修施設として、近畿技術事務所にインフラDX推進センターを今年4月に設置し、率先してDXの導入に取り組んでいきたいと考えています。

■大阪・関西万博の取組みが進む中、関連するインフラ整備等における近畿地整の役割はどのように。

 2025五年の大阪・関西万博は、関西の魅力を世界に発信する絶好の機会であり、これに併せてインフラ整備を着実に進めていく必要があります。会場となる夢洲地区の周辺では、夢舞大橋や此花大橋の拡幅、鉄道の延伸や夢洲コンテナターミナルの拡充、さらには淀川左岸線等の事業が進められるとともに、来場者の輸送におけるピーク時の分散化等の工夫の検討が進められており、近畿地整としても万博の円滑な開催に向けてできる限りの取組みと支援を行っていきます。
 また、淀川での舟運活性化として、平成29年には大阪と京都を結ぶ定期船の運航が開始されました。しかし淀川大堰で航路が分断され、上下流の運搬に支障がありました。このため、震災等の非常時に緊急運搬を可能とする淀川大堰閘門の設置を計画しており、万博を契機にさらなる舟運の活性化を期待しています。このほか、万博以外にも、うめきた2期のまちびらき、なにわ筋線開業、リニア中央新幹線の開業などビッグプロジェクトが目白押しです。
 これらプロジェクトを支援し、関西の元気をかたちしていくためには、関西都市圏の交通渋滞の緩和を図り、競争力の高い物流ネットワークを構築していくことが必要です。特に環状道路の整備が重要でありで、近畿地整では環状道路ネットワークを構成する大阪湾岸道路西伸部、淀川左岸線延伸部、京奈和自動車道の整備を行っています。
 このうち大阪湾岸道路西伸部と淀川左岸線延伸部では工事に着手しており、環状道路の一番外側に位置する京奈和自動車道は約73%が開通し、残りの大和御所道路と大和北道路の整備を鋭意、進めています。また、環状道路に接続する名神湾岸連絡線についても、都市計画決定に向け環境アセスメントの手続きを進めているところです。
 道路は、激甚災害やコロナ禍にあってもしっかりと機能し、物流を支え、暮らしを支え続けていくことが不可欠であり、新しい優れた技術を取り入れながら、強靱で活力を生み出す道路ネットワークづくりに力を入れていきます。さらに、インバウンドを踏まえ、これからの関西を支えるためには道路を含め、鉄道や空港、港湾が一体となった観光スポットなどを結ぶ交通ネットワークづくりが重要で、これらの観点からも取り組んでいきたいと考えています。

     国土強靭化  防災・減災
信頼性の高い幹線道路網構築へ  河川「流域治水」への転換進める

■国土強靱化のための緊急3か年緊急対策は今年度が最終年度となりますが、これまでの取組みについて。

 強靱化の3か年緊急対策では、平成30年度からの3年間で、河川については管内の全10水系で樹木伐採や掘削、堤防強靱化と耐震対策等を集中的に実施しました。熊野川では、河道掘削と利水ダムの治水協力により、令和元年台風10号の洪水に対し日足地区で約1・3メートルの水位低減効果があり、家屋の浸水被害が回避できました。
 道路では、土砂災害に対応した道路法面・盛土対策、大雪に備えたチェーン着脱場、冠水が発生する恐れのある箇所の排水施設、緊急輸送道路の無電柱化等の整備を実施しました。また、港湾では、神戸港でのコンテナターミナルの耐震対策、日高港等で防波堤の粘り強い化、さらに海岸護岸の改良等を、3か年緊急対策として実施しましたが、自然災害に対し強靱な国土づくりにはまだまだ不十分で、今後も取り組んでいく必要があります。

■強靱化対策以外の防災・減災への取組みは。

 近年は、気候変動による激甚な災害が全国各地で頻発しています。激甚化する自然災害のリスクに対しては、人命を守るため氾濫を防ぐ堤防やダム等のインフラ整備を一層推進していくとともに、既存インフラの確実な管理や機能向上、土地誘導による住まい方の工夫など、事前防災を加速する必要があります。
 また、危険が迫りつつある場合のわかりやすい情報発信や的確な避難行動支援、発災時の迅速な復旧と復興の実施と支援、地域防災力を発揮する地域建設産業の維持・育成が重要と考えています。
 このうち河川関係では、既存ダムの利水容量を一部洪水調節に活用するなど、既存インフラ施設の活用に取り組んでいます。また、河川管理者等による治水対策に加え、国はじめ都道府県、市町村、企業や住民に至るあらゆる関係者により流域全体で行う「流域治水」への転換を進めており、昨年にはその第一歩として、近畿管内の10水系全てに協議会を設立しています。大和川や猪名川等の流域では、既に地下貯留施設の整備が進められ、関係者と連携して流域治水の取組みを管内に広げるとともに、対策内容も進化させていきます。
 過去において大阪では、昭和36年の第2室戸台風で約13万戸の家屋が浸水したことから、海岸や河川の堤防、水門を整備し、その後も適切な維持管理を行ってきました。その結果、平成30年の台風21号では、大阪港で第2室戸台風を上回る既往最高の潮位を記録しましたが、市街地への高潮浸水を完全に防止することができました。その被害防止効果は約17兆円になります。こういった将来の災害に備えた投資が、いかに重要かを示す事例であり、これからもハード整備においても、より効果のある事業に取り組んでいきます。
 道路については、災害の激甚化・頻発化を踏まえ、発災後概ね一日以内に緊急車両の通行を、概ね1週間以内には一般車両の通行を確保できる「強靱で信頼性の高い国土幹線道路ネットワークの構築」に向けて、これまでの局所的な防災・減災対策の拡充とミッシングリンクの解消や高速道路の4車線化、ダブルネットワークの強化を加速させます。
 さらに港湾では、南海トラフ地震に伴う津波被害や高潮・高波による浸水被害軽減を目指し、先程も言いましたが、コンテナターミナル等の耐震対策や防波堤の粘り強い化、護岸の補強と嵩上げ、津波防波堤及び水門設置等の整備を進めていきます。

■局長ご自身もTEC―FORCEとしての派遣や災害支援への経験がおありですね。

 令和元年8月の九州北部の豪雨災害ではTEC―FORCEとして佐賀県庁に派遣されました。六角川水系の水害により鉄工所から流出した油の回収作業に係る浸水排水作業に関する技術支援を行いました。現地では、県当局と九州地整、自衛隊とともに、油の河川下流への拡がりを防止しながら、油除去作業、ポンプ車一六台による排水作業と浸水解消を行いました。
 また令和元年10月に東日本を襲った台風19号では、福島県庁に詰めました。この時は、内閣府への併任辞令が出ました。ここでは統括役として全体調整を行いながら県からのニーズに対応する役割でした。約7万戸に及ぶ断水への対応から、物資拠点の設置や物資のプッシュ型支援、避難所との連絡調整、災害廃棄物処理等の進捗管理と関係機関との情報共有や応援部隊相互の連絡調整等を担当しました。

■その体験を踏まえて防災・減災への思いを。

 ソフト面も含めたインフラ整備における事前防災、つまり事前のしっかりとした対策の必要性と、発災時に迅速に対応できるよう準備しておくことがいかに重要であるかを改めて痛感しました。事前防災においては、河川や道路整備はもとより、浄水場や下水処理場等も含めたライフラインの対策も必要です。
 また、東日本台風では、福島県内で約50ヵ所の堤防が破堤しましたが、土嚢積等の応急作業を、地元の建設会社が総出で実施されていました。やはり災害時には地元建設業者がいなければ対応はできないと思いましたね。これは道路啓開や災害廃棄物処理でもしかりです。

     担い手確保  生産性向上
 週休2日普及で魅力向上へ  ICT施工の工種拡大など積極化

■災害対応はじめ施策の推進には、行政側、建設業者側ともマンパワーの充足も必要です。

 確かに、多くの市町村では技術系職員の不足等により、災害復旧事業の遅れや復旧工法の技術的な検討不足等の問題が生じています。この状況を改善し、災害発生時に速やかな予算措置と技術者確保を行うため、技術系行政経験者に協力を求め、市町村が相互に支援する仕組みの構築に向け、現在、管内の防災に関心が高い市町村と令和3年度の出水期に備えた議論を進めています。

■建設業の担い手の確保育成については、国交省では新・担い手三法や働き方改革を推進されておりますが。

 新・担い手三法は、建設業の働き方改革の推進と建設現場の生産性向上、持続可能な事業確保の観点から、これまでの担い手三法を改正したものです。建設業では、長時間労働が常態化し、現場の急速な高齢化と若者離れの進行により担い手が不足し、「地域の守り手」としての役割を維持することが困難であることが大きな課題となっています。これら課題を解消し、建設業者が今後も地域の守り手として活躍し続けることができるように施策を定めたもので、近畿地整においてもそれに基づく取組みを推進しています。
 その一環として、建設現場の週休2日を促進するため平成29年度から、維持作業を除く全工事を週休2日の対象工事とし、予定価格3億円以上を発注者指定型、3億円未満を受注者希望型とした取組みを進めており、これにより週休2日を実施している工事は年々増加し、昨年度では発注し完成した工事のうち約5割が週休2日を実施しました。
 さらに今年度からは、当初予定価格に週休2日を前提とした労務費や機械経費、間接費を計上しました。これは、元請下請を問わず、参加する全ての業者に適正価格での下請契約や賃金の引き上げの取組みが浸透することで、全ての技能者に週休2日への労働環境が変わってきていることを実感してもらえるようにと取り組んでいます。
 また、週休2日の実現には、適正な工期設定が必要であることから、発注者指定型工事では、工事の発注時に概略工程表や工事工程に関する関係機関との協議、進捗状況の開示を行い、工程変更が生じた場合には適切に変更できるようにするなど、受注者が安心して適正な工期で工事施工が行える取組みも実施しており、引き続き建設業の魅力向上を目指し、週休2日の普及促進に努めていきます。

■生産性向上の取組みとしてICT施工の推進も必要です。

 国交省では、i―Constructionの取組みを徹底し、建設現場の生産性を2025年度までに2割向上させることを目指しています。このため、ICT施工の工種拡大はじめ、現場作業の効率化や施工時期の平準に加え、BIM/CIMによる3次元設計を導入し、測量から設計、施工、維持管理までの情報シームレス化等に取り組んでいます。令和2年度では、大規模構造物の予備・詳細設計においてBIM/CIMを導入し、令和5年度までに全ての詳細設計と工事において導入するよう、段階的に適用拡大を進めているところです。
 近畿地整では、豊岡河川国道事務所をi―Constructionモデル事務所として、円山川中郷遊水地整備事業及び北近畿豊岡自動車道豊岡道路を3次元情報活用モデル事業として、集中的かつ継続的に3次元データを活用し、BIM/CIMを活用する上での課題解決を図りながら、活用拡大に向け取り組んでいます。

■担い手確保や生産性向上に関しては、地方自治体とともに民間工事への浸透が強く求められています。

 やはり、近畿地整として先頭に立って取り組んでいくことが、地方自治体や民間工事への浸透への近道ではないかと考えており、そのためにはさらに徹底した取組みが必要です。 災害時には地域の守り手として建設業の役割は重要であり、道路啓開や復旧作業を早期に進めるためには建設業の方々の活躍が不可欠です。今年もこうした建設業の災害時の活動を国民に知ってもらえるよう努力しながら、建設業の担い手確保を目指した建設業の魅力向上につながる施策に取り組んでいきます。

■最後に、建設業に対するご意見や要望、局長ご自身が期待されるところがありましたら。

 繰り返しになりますが、建設業は地域の守り手として平時におけるインフラ整備、災害時には最前線で地域社会の安全と安心を確保するなど、地域の生活や社会経済活動を支える重要な役割を、 将来にわたって担っていただかなくてはなりません。近年では、大きな地震への発生や気候変動による水害、土砂災害、渇水被害の頻発化、激甚化が懸念されており、その役割はますます重要になっています。
 これらのことから、本年も、建設業界の方々と一緒になり、魅力ある建設業の実現に向けて働き方改革に取り組むとともに、関西の活力の源である鉄道や空港との連携も含めた道路、港湾等の交通ネットワークづくり、河川やダム、砂防施設といった安全基盤づくりを進め、 「安全で活力のある関西」「夢のある関西」を目指して一層の取組みを進めてまいりますので、ご協力をお願いします。

■各施策の推進にご尽力下さい。ありがとうございました。

 
 


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