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UR都市機構 田中伸和西日本支社長  【2020年10月12日掲載】

都市内公園で まち再生

賃貸事業にも「攻め」の要素を


 今年7月に就任した都市再生機構西日本支社の田中伸和支社長。四半世紀ぶりの関西勤務で、「大阪の元気を感じる」としながら、都市再生事業では、うめきた2期を今後の都市内公園のモデルとし、賃貸住宅事業では民間とのコラボや団地再生にも意欲を見せる。取組にあたっては、「ミスを恐れず攻めの姿勢で」とする田中支社長に、就任にあたっての抱負や今後の事業展開等を聞いた。

■まず、就任にあたっての抱負から。

 入社以来、大半が在京で都市再生事業に関わっておりました。関西での勤務は、平成7年4月以来25年ぶりで、初めて住宅経営に携わることになり、気を引き締めて柔軟に大胆に取り組んでいきたいと思っています。
 大阪の印象としては、以前の勤務時代はバブル後の閉塞感がありましたが、今は、インバウンド効果や万博誘致等で元気になったように感じます。コロナの影響はありますが、首都圏に比べピリピリした感じはなく、民の力の強い大阪らしい気がしています。

■事業の取組みについては。

 賃貸住宅事業と都市再生事業の2つが柱となります。都市再生については、各分野の民間事業者等とパートナーとなり、一緒に取組みを進めていくことが求められていると思っております。その一方で、コマーシャルベースに乗らないオールドニュータウンの再生等では、公共団体ともパートナーとして事業のベースを作り、そこへ民間事業者の方々に乗ってもらうといった官・公・民揃った仕組みをイメージしながら進めていくことになります。
 現在の注力事業であるうめきた2期事業では、都市公園を核としたまちづくりに関し、今後の都市内公園のモデルになればと期待しています。
 田中支社長は、都市公園による都市再生の事例として、かつて人口流出により消滅可能性都市とされた東京都豊島区池袋で、カフェ等を誘致した公園づくりにより、家族の憩いの場としたり、駅前周辺広場のイメージを一新させ、今では住みたい街の一位になったことを例に挙げる。
 「公園をイベント以外でも人で賑わう場所とすること、それが都心であればあるほど、オフィスワーカーやまちを訪れた人が、梅田という一等地に大きな公園ができ、人が集い、屋外空間と一体となったコミュニケーションができる場所を提供できれば」とする。
 その公園のあり方については、従来、限られた管理によるある種の閉じられた空間であったものが、「パークPFI等で公園が施設化できる可能性が出てきた。そうなると周辺市街地が公園にどのようにアプローチしていくかが今後、求められ、いろんなアイデアが出てくると思います。さらに言えば、道路を公園化すれば、もっと楽しくなると思っており、そういった仕組みづくりができれば」と意欲を見せる。

■地方都市での取組みでは。

 現状では、挨拶回りを控えていますが、地方からの声や意見は、いろいろと伺っており、期待は感じています。特に現在の状況では、「次の一手をどうするべきか」で悩んでおり、これをどう受け止め、連携していくかが課題です。
 地方都市での取組みに関しては、広島県福山市で土地を取得し、民間リノベーションの促進やコミュニティ形成に向けた社会実験を実施中だ。「地方では、これまでのハコモノ行政が限界に来ており、ハコモノに拠らないまちづくりを模索しており、それらのモデルになるような取組みも実施しています」。

■賃貸住宅事業についてはどのように。

 民間事業者とのコラボのほか、住い方や住宅の使い方等をお住まいの方々がアレンジすることが可能な賃貸住宅事業を展開できればと考えています。現在の賃貸住宅ストックを画一的でなく、様々な新しい使い方をした結果、いろいろな人々が住むことになり、違ったコミュニティが形成されます。
 具体的には、子どもが自分の部屋を好みの部屋にするように、部屋を借りる人がキッチン等を使い勝手の良いようにアレンジできるようになれば、将来、URの賃貸住宅を借りようとする方々が増えるかもしれませんし、身近な住まい方を考える一助となり、その裾野を広げていきたい。
 これまでの賃貸住宅事業は、住む場所を提供し、働く場所を提供するといった感覚はありませんでした。
 コロナにより在宅勤務が進んだことで、アフターコロナも意識しながら働く場所と住む場所が一緒になった場所を提供するイメージを作っていきたい。こういったことが可能になると賃貸住宅の事業展開のバリエーションが増え、さらにその先にはオールドニュータウンの再生につながります。
 オールドニュータウンの再生については、「住宅を再生することではなく、住宅と就業の場、仕事ができる環境を一体的に再整備することで、今までと違った場所を作ることだ」とする。そのため保有する賃貸住宅ストックでどこまで何ができるか、どういったビジネスが可能かを、トータルで組み合わせることで、「地方都市やオールドニュータウンの再生など、いろんな可能性につながると思っており、いくつかの柱を組み合わせることでトータル的に良くなっていくのではと思っています」。
 事業の取組みにあたって田中支社長は、賃貸住宅事業は守り、都市再生事業は攻めで、言わば農耕民族と狩猟民族だとする。「賃貸住宅事業はミスしないことが求められるが、都市再生はミスを恐れず、新しいことを進めることが重要で、今後は賃貸住宅事業の中にも攻めの要素を取り入れたい」と語る。

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 思い出に残る仕事は東京で手掛けた大手町再開発事業を挙げる。再開発ビルを順次、建設する現在も続いている連鎖型再開発事業で、土地取得前に仕組みをつくる部分や、長期間にわたり数棟の建設に携わり、「ビル完成後に何万人もの人が働いている様を眺めていると感慨深いものがある」と振り返る。
 趣味は「特になし」としながら、コロナ以前から、手料理による「家飲み」を楽しんでいる。座右の銘は、「ネガティブモードにならない」こと。

 
 

田中伸和(たなか・のぶかず)
昭和61年3月大阪大学建築学科卒、同年4月住宅・都市整備公団採用、平成18年6月独立行政法人都市再生機構東京都心支社業務第2ユニット事業企画チームリーダー、同21年6月同支社都市再生企画部計画推進第1チームリーダー、同23年7月本社都市再生本部事業管理第1チームリーダー、同25年4月東日本都市再生本部事業企画部長、同27年4月本社人事部担当部長、同29年4月東日本都市再生本部長。58歳。



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