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(株)浪花組 渡邉寛明大阪本店長  【2020年09月07日掲載】

左官業一筋伝統と改革

新入社員に寄り添い定着率上昇

漆喰工法の復活・広がりに全力


 左官業者として長い歴史と伝統を有する浪花組(本社・大阪市中央区、中川浩士社長)。大阪が誇る職人集団として確固たる地位を築いている。しかし近年では、働き方改革や担い手確保への取組みなど環境が変化し、その対応が課題となっている。同社の拠点である大阪本店の渡邉寛明本店長は、就任以来、それまでの慣例に捕らわれずに様々な取組みを実践し、成果を上げているが、その渡邉本店長に、現状と課題について聞いた。

■まずは、社内体制を教えて下さい。

 大阪本店では、営業職も含め内勤16人、直用の左官工が98人在籍しています。勤務時間は午前8時から休憩を挟み午後5時まで、残業は現場に応じて行っており、手当も支給しています。有給休暇は、連休があればそれに合わせて取るように積極的に奨励しており、殆どの社員は消化しています。
 現場に関しては、通常で協力業者等の左官職人136人を含め230人以上、これとは別に土間工事に40〜50人で、会社全体では、大阪と東京、横浜、名古屋も合わせ1日あたり約600人以上が従事しています。人員体制は、一班で30人程度とし各班を現場に配置しています。班メンバーは、ベテランと中堅、若手を組合せ、技能が習得できるような体制にしています。

■技能資格の取得に関しては。

 職人の資格取得については、登録基幹技能者と一級技能士資格は、受検資格を満たした者については会社から率先して受検してもらっております。技能資格を取得することで、個人はもちろん、会社としてもレベルアップすることができますし、取得者は、何処へ行っても通用するものと思っており、例えば他社へ移っても通用する職人になってほしいとも思っています。

■新規入職者の確保が課題となっていますがその取組は。

 現在の職人の平均年齢は53歳と高齢化しており、あと5年もすれば50人近くが定年を迎えることになり、それを埋めるために現在、募集に努めています。新規入職者の募集に関しては、私が本店長に就任してからの5年間に新卒50人の採用を目標としていましたが、これまでに35人が入社し、このうち現在では21人が在籍し、定着率では約60%と、以前に比べ比較的高くなっています。

■定着率が上がったわけは。

 20年程前は毎年、全国から50人程が入社していましたが、3年もすると3人位しか残らなかった。当時は、採用するだけ採用し、あとは職長や親方に預けっぱなしでした。今は、新入社員研修の中で、新入生の性格等を判断し、職長や親方の性格、現場環境、班のメンバー構成等を見極めながら、メンバーに若い子がいればそこに新人を配置するなど考慮しています。いきなりベテランと組ませても話が合うわけがなく、直ぐに辞める者も多かった。やはり年齢が近い者同士の方が話が合います。
 また、体系的な新入社員教育もありませんでしたが、現在は社内研修と現場見学、鏝塗り体験を実施してから送り出していますし、作業服と空調服や安全帯、靴まで支給しています。私自身も現場を見に行ったり、携帯で連絡して様子を聞いたりしていますが、辞める子はおります。また、頻繁に欠勤する子もいますが、そうなっても辞めさせずに、日給月給制として続けさせるようにしています。高校の新卒者は、まだまだ子どもで、会社としてはある程度の期間は辛抱強く見守る必要があり、親方からも、「今の子どもは長い目で見る必要がある」と言われています。

■なるほど。

 ただ、ある日を境にガラッと変わることもあります。それまで週1日しか出てこなかった子が、毎日出てくるようになった。また、中卒の子で家でも引き籠もりがちで、誰とも会話もせず、食事も1人で食べていた子が、当社に入ってから親と会話を始め、高校に行くと言い出し、会社を辞めて高校に通っている子もいます。左官仕事を通して人と会話し、仕事も覚えるうちに自分でもできると自信が持てたのかもしれません。辞めたことは残念ですが、それはそれで良いことだとは思います。
 いずれにしろ、我々には若い子の気持ちは解りませんが、親身になって話しを聞くことで、その想いを汲み取っていくことは必要だと思います。ほったらかしもダメで、関わり過ぎもダメで、その辺のバランスの取り方が難しい。若い子が、「あの人のような職人になりたい」とか「あの人ならついて行きたい」と思われるような職人、そういった環境づくりが必要だと思います。それには職長の力が不可欠で、見て覚えろは通用しません。手取り足取り教えることが必要です。
 これは営業職も同じで、私の新人時代は一通りの説明だけで、あとは見て覚えろでした。今は細かく指導し、営業先に同行するなど、1年間は常に行動を共にしています。それぐらいしないと左官営業は勤まりません。

■他産業からの転職者の活用や外国人労働者の受入については。

 中途採用も積極的に実施していますが、やはり30歳以上となると難しい面もあります。新卒者にしても、普通高校や工業高校生も進学希望者が増え、当社に限らず専門工事業者への就職者は減少する一方で、放置すれば衰退するだけです。これを補うのが外国人労働者ですが、日本人技能者より外国人技能者が多くなることは疑問です。当社では、大阪については当面の間、外国人は入れずにやっていこうと思っています。

■新型コロナの影響で今後、工事量の減少が懸念されます。

 工事量減少に伴う影響については、既にその徴候は出てきていると得意先から聞いております。ただ、左官に関して言えば、そもそも関西は、関東よりも繁忙期と閑散期の波が大きく、当社のように職人を多く抱えていると正直、しんどい部分もあります。このため、町家仕事もこなせるようにならなければと思っています。全国には、当社と同じように会社組織でも町家仕事で業績を伸ばしている会社もあります。

■漆喰等の左官本来の仕事ですね。

 当社でも、漆喰等の伝統工法による仕上工事も徐々に増えつつあります。以前は、漆喰塗りや洗い出し、人研ぎ等の技能を要する仕事は、町家の職人に委託していましたが、現在は全て自社でやっています。もちろん、ベテランと若手では技量に差はありますが、左官職人であれば経験さえ積めばできます。そうすることで自らの技能を磨き、後進に伝えていくこともできる。これを途絶えさせるわけにはいきません。そのためにも野丁場、町家といった垣根を越えていかなければと思っています。
 漆喰に関しては日本左官業連合会が、壁仕上げの主流となっているクロス張りを漆喰に替える「漆喰10倍プロジェクト」に取り組んでいますが、漆喰とはどういうものかを経験させることが重要となってきます。漆喰仕上げが増えてきた時に、大阪の左官屋がこなせるかどうかが課題で、左官業界としては、このプロジェクトを進め、業界を活性化することが必要だと思います。そのためにも業界が団結し、相互に助け合うことが必要になります。私も組合の専務理事を務めておりますが、大阪の組合は横の繋がりも強く、かなりまとまってきたと感じています。

■業界全体の課題としては。

 社会保険加入や建設キャリアアップ、働き方改革など、左官に限らず専門工事業を取り巻く環境が急速に変化する中では、業界としてついて行くことがやっとですが、取り組むことにより、どのようなメリットがあるのかを職人達に周知することが必要です。
 担い手確保に関しては、左官業の場合、一人前になるまで時間がかかることが入職者の減少と離職者の増加の一因ともなっています。そのために左官という仕事への憧れや夢、そして何より希望を持たせることが重要であり、また、技術と伝統のある業界として左官の社会的地位を向上させることが必要ですね。

■ありがとうございました。

       ○

 41歳で本店長に就任した当時は、職人も含めて周りは年長者ばかりで、「2〜3年は苦労した」としながら、慣例に捕らわれず、「疑問やおかしいと思ったことを一つずつ解決していった」ことで信頼関係が築け、特に「取引先等が育てってくれた」と振り返る。現在も、「良いことは取り入れたい」と、多業種とも付き合いを深め、視野と見聞を広めている。
 浪花組は、大正11年11月、堺市で浪花組曽我長三郎を前身として事業を開始、昭和30年7月に株式会社に改組して現社名に。漆喰等の伝統技能から近代技法まで、その卓越した技能により業界のリーディングカンパニーとしての地位を確固なものとし、現在も職人集団として「仕事に対する誇り」「伝統に対する誇り」「技術に対する誇り」を矜持に、左官職人の価値向上に努めている。

 
 


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