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近畿地方整備局 池口正晃企画部長  【2020年07月27日掲載】

建設業界の明日をひらく確かな流れ

働き方改革・担い手確保・生産性向上


 令和2年度は、当初から新型コロナウィルス感染症拡大が懸念され、4月に発出された非常事態宣言により、公共事業の執行にも大きく影響することとなった。しかし、自然災害等への対応はじめ、インフラ老朽化対策等への取組みは待ったなしの状況で、また、建設業における担い手の確保・育成に向けた働き方改革の推進や週休2日、生産性向上への取組みも継続が求められている。こうした状況の中、近畿における建設行政を先導する近畿地方整備局の池口正晃・企画部長に、同局におけるコロナ対応や事業への取組みを聞いた。

  「週休2日」実現への環境整備進む 達成工事年々増加
 
  自治体・民間への浸透課題

■まずは、建設業における働き方改革について、これまでの取組みについてお聞かせ下さい。

 近畿地整では、週休2日促進工事や適正工期の設定等の取組みを進めています。週休2日については、平成26年度より試行を開始し、平成29年度からは原則、全ての工事を対象に、予定価格3億円以上の工事については発注者指定型として、3億円未満の工事は受注者希望型として、本格的に推進しています。昨年度からは、現場閉所が困難である道路や河川での通年維持工事については、週休2日交代替制モデル工事として実施しています。
 実際に週休2日を達成した工事は、年々増加しており、昨年度に発注し、完成した全体工事のうち47%が達成しています。我々としては、この達成率を増やしていくことにより、週休2日への環境が変わったことを実感してもらいたいと考えています。実施にあたっては、まだまだ課題もありますが、まずは実現していくことが重要だと思っています。

■なるほど。

 また、週休2日の実現に向け、近畿地整として他にも様々な施策を実施しています、週休2日とする場合は、工期も長くなることから、安全施設類や現場事務所等リース等の維持費が嵩むことから、今年度より、発注者指定型、受注者希望型とも当初の予定価格に週休2日達成を前提とした、労務費や機械リース代、間接経費に補正係数を適用しております。
 実際に週休2日を計画通り実行するにあたっては、発注者と受注者の意思疎通が非常に重要となります。このため、近畿地整では、令和元年7月より発注者指定型を対象に、工事公告の時点に概略工事工程表を開示する試行を開始しており、これと併せて、工事工程に影響するような関係機関との協議などの進捗状況を開示して、情報の共有に努めています。

■週休2日実現に向けた受発注者双方にとっての環境整備ですね。

 また、工期設定については、昨年の品確法改正により、適正な工期設定が発注者の責務として明確な位置付けがなされ、適正な工期設定指針が策定されました。工期の設定にあたっては、この指針に基づき、工期を算定するために、工期設定支援システムを導入し、工期の妥当性や過去の同種、類似工事の工期等と比較して確認できるようにしています。
 工事受注後は、指針に定められている工事工程のクリティカルパスの共有と併せ、工期設定支援システムにより作成した工程表を提示することとしています。さらには、工事工程に関連する関係機関への対応と、その対応の進捗状況を明示した工事発注時チェックシート、用地関係資料等の課題点や工事請負契約におるガイドラインの説明等を行っています。
 また、工程に変更が生じた場合には、その要因と変更後の工事工程について受発注者間で共有し、受注者の責に寄らない場合には、設計変更ガイドラインを踏まえて適切に設計変更を実施します。いずれにしろ、実施にあたっては、受注者と発注者との意思疎通をしっかり行い適切な工期や設計変更ができるように取り組んでいます。

■直轄工事では体制が整いつつありますが、これを地方自治体や民間工事へどうやって波及させ、浸透するかが課題では。

 勿論、地方公共団体や民間にも広げていく必要があります。府県や市町村に対する周知・普及にむけて、発注者協議会においてこれまでに週休2日の実施や適正な工程設定について議論し、情報を共有しながら取組を進めています。週休2日に関しては、近畿地整管内の7府県4政令市と211市町村のうち、令和元年度において19の発注機関が取り組んでいますが、まだまだこれからです。
 取組みにあたっては昨年、改正品確法を踏まえた、「発注関係事務の運用に関する運用指針」が改正されました。これにより今年度より、都道府県や市町村を含む全ての公共工事の発注者が責務を果たしていくための「新・全国統一指標」を決定しています。
 これに基づき発注者協議会では、発注の平準化や週休2日、最低制限価格等への取組みについて指標を設定しており、その達成に向けて年度ごとに取り組むこととしています。今後も発注者協議会を通して、週休2日や適正な工期設定を推進させるための議論を深めていきます。

  年度内の工事量の偏り解消へ

■昨年はまた、新担い手三法も策定されましたが、この取組みについては。

 働き方改革の推進について、まず、工事に関しては、平準化への取組みとして年度内の工事量の偏りを解消して、年間を通して工事量の安定を確保するため国債を積極的に活用しています。また、事前に建設資材や労働者確保等の準備ができるよう余裕期間制度を活用した工期を設定します。さらに、今年度より労災補償に必要な経費を予定価格に反映させるなど、発注時や契約時における取組み等を実施しています。また、実施に際しては状況に応じて、受発注者の協議により柔軟に対応していくこととしています。
 業務につきましても、履行期限が年度末に集中し、受発者の作業時間や設計図書の照査時間が不足気味となり、これによる不具合を回避するため履行期限の平準化を進めています。また、受発注者間の役割分担を明確にし、懸案となる事項や業務スケジュールを受発注者間で共有しており、できるだけ業務が円滑に進むように取り組んでいます。

■アイコンストラクションの取組状況を。

 近畿地整では平成28年度から、基準を制定しているICT土工適用工事から実施しており、昨年度に発注し、完成した工事における実施率は66%となっています。業務では、平成29年度より橋梁とトンネルの詳細設計業務について原則、CIMを活用することとしており、今年度からは予備設計も原則CIMとし、徐々に適用範囲を拡大していこうと進めています。
 I-constructionに関しては、業界全体で、あらゆる工事で進めていくことで浸透していくことと思っています。このため、国はもとより地方自治体、民間工事にも周知する場が必要と考えています。今年度については、インフラや物流分野におけるデジタルトランスフォーメイションの補正予算を配分していただき、ICT建設機械のシミュレーターや遠隔操作、無人化施工等の実習、3次元モデル作成、ICT施工の点群データ処理と施工データ作成の研修、出来形管理と監督検査研修をより充実して行えるよう準備しています。やはり体験することで導入の意義や必要性の理解が深まるのではと思っています。

■地方業者では機械操作等は外注している業者も多い。

 各業者から見て、それらが自らにどのように役立つのか理解してもらえる場があればと考えておりますし、行政としても浸透させるにはどういったことが必要かなどを勉強する必要があると思っています。

  担い手確保・育成 処遇改善やCCUS運用を

  コロナ後の対応も視野に入れて

■建設業の喫緊の課題である担い手確保についての取組みを。

 将来の担い手の確保と育成は建設産業全体の課題です。現在、建設業に従事する労働者の3割以上が55歳以上を占めています。こうした中では技術の継承も課題となっています。近畿地整では平成30年度から、総合評価方式において、技能資格者を現場に配置した場合、加点評価する現場従事技能者評価型を試行導入し、新たな技能労働者が増加することに期待を持っています。現場従事技能労働者評価型では平成30年が11件、令和元年度は7件で実施しており、今年度は未発注を含めて4件となっています。

■技術者の育成では各種のチャレンジ型工事を採用されておりますが、地方業者からは、チャレンジ型によりチャンスが広がったとする声もあります。

 いろんな側面、立場からの意見はありますが、全体的に技術力を上げ、いろんな方に参画してもらうことでボトムアップにつなげることも必要です。全体として業界を良くしていくために取り組んでいきます。

■技能労働者の処遇改善の一環として建設キャリアアップシステム(CCUS)の本格運用も始まりました。

 建設キャリアアップシステムについて近畿地整では、令和元年度にその効果を検証するためのモデル工事を実施しています。今年度については、建設キャリアアップシステム義務化モデル工事を1件、活用推奨モデル工事を4件程度予定しています。これらモデル工事を通して、建設キャリアアップシステムが技能労働者の処遇改善にどのような効果を及ぼすかを検証していきます。

■特定技能外国人労働者の受入については。

 国内での人材確保と生産性向上の取組みを行ってもなお人材は不足するとされています。これを補うために、昨年4月から、一定の専門性や技能を有し即戦力となる特定技能外国人受入制度が開始されました。 受入にあたっては、昨年度までは受入企業が提出する賃金や就業時間等の勤務体制等の処遇に係る受入計画に関しては、国交省本省で受理、審査していましたが今年度から近畿地整建政部で審査し、認定することになり、 既に8企業からの10人を認定しています。今後、我々としても丁寧に相談や対応に務めていきます。

■さて、今年は新型コロナウィルス感染症の拡大防止に伴い、活動自粛を要請する緊急事態宣言が出ましたが、公共工事における国交省の対策はどのように。

 緊急事態宣言の期間中には、政府の対策本部から新型コロナウィルス感染症対策の基本的対処方針が提示されました。その中で事業の継続が求められるものとして、河川や道路などの公物管理、公共工事、廃棄物処理等が挙げられました。
 近畿地整では、緊急事態宣言都市地域に係わる府県知事からの要請を踏まえ、工事や業務等の対応については、受発注者間で協議を行い、受注者の意思を尊重し、一時中止や設計図書等の変更を行うなどの必要な措置を講じました。近畿地整管内における一時中止の状況は、最大で工事が4%、業務では10%で、全体からすれば限定的であったのではと思われます。
 また、発注業務等については、職員の在宅勤務を実施しながら、効率的にやっていくこととしておりましたが、やはり当初の計画通りには進まず、特に4月や5月は予定より遅れが出ました。このため予定していた発注手続きについては、できるだけ早くに当初計画に戻すため、総合評価方式において施工計画を求めずに実績のみで評価を行う施工能力確認型の活用と、一般土木工事C等級で入札書と技術資料を同時提出としていた二封筒を取り止めるなど手続き期間の短縮に務めています。発注計画ついては上半期中には当初計画に戻していきたいと思っています。
 このほか、入札等手続きに関するヒアリングは原則実施しないことや工事における感染防止対策に係わる費用についての適切な設計変更への対応をはじめ、成績評定の弾力的な取り扱い、遠隔臨場の試行など感染拡大防止に資する取組みを推進しています。 これらの取組みを実施することで建設業界でも、しっかりと対策を講じていることを周知できればと思っています。

■コロナの影響による景気の冷え込み、特に民間工事では設備投資などが鈍化することによりダンピングが横行し、働き方改革等へ影響するのではとの懸念もあります。

 確かに、各省庁が発表する経済指標でも落ち込みが明らかになっています。経済の回復に向けては、公共事業を含め今後、国で対策が打ち出されるとは思いますが、それら各種の対策を講じることによって景気回復の下支えなればとは思います。

■その一方で、頻発する自然災害への対応等で業界の役割が高まってきております。

 ここ数年は、大規模災害が頻発し、行政側としても責任感を持って対応していますが、実際の現場に携わる建設業者の方々も責任感がなければできないことであり、我々としても敬意を表す次第です。我々もTEC―FORCEで職員を現地に派遣しておりますが、業界の方々は、災害時だけでなく、日常から資材や重機等を備えて準備されています。そういった目に見えない部分の活動や役割をもっと外部に発信していければと考えています。今回のコロナでは医療従事者の方々が大変な思いをされていますが、それと同様に災害時には建設業の方々も全国で頑張っていただいています。
 また、災害対応だけでなく、防災や減災対策、維持管理業務も多くあり、単に仕事として受注するだけでなく、そこには使命感と言ったものがあると思います。公共事業として構造物等を整備することと、 それを整備することの意義、整備にあたってはいろんな苦労もあるわけで、それをきちんと伝えていくことが必要ではないかと思っています。道路や橋梁等を整備することでその地域が良くなる、便利になったと、 成果が直接、見える職業が建設業であると思います。そういった面を分かりやすい形で示していければと考えております。

■定着率を課題とする声も依然多い。

 いろんな職業がある中で、かつて建設業は人気がなかった業種ですが、最近では業界自体の取組みにより改善はされてきたのでは。外部に対するPRするところも出てきており、 また、ウイズコロナにより、それまでとは仕事のやり方が変わってくるのではと指摘する向きもあります。今後、建設業がどう変わっていき、それにより可能性が広がるのであれば、その部分で頑張ってもらいたいとは思います。

■公共事業のあり方も変わってくる。

 私事になりますが、今回近畿地整での勤務は15年ぶりで、前回勤務時に計画段階だったプロジェクトが動き出していることを実感しています。当時は、将来に向けた都市計画の位置付けを行っていましたが、 その計画を我々だけが必要だと言っても、他のいろんな方々に必要だと言われなければ大きなプロジェクトは動きません。必要だと思われたことが動いていくわけで、そのためには、その事業が何故必要なのかを理解してもらうことが必要です。 それが先程言いました様に、整備する意義、何のためにやるのか、ということを関係者以外の方にも理解してもらわなければ進めていくことはできません。それは事業規模の大小ではなく、いろんな事業がありますが将来、その地域に何を残すかということではないかと思いますね。

■公共事業やインフラ整備はストックの観点が重要でしょうね。ありがとうございました。

池口正晃(いけぐち・まさあき)
平成6年3月京都大学大学院工学研究科修了、同年4月建設省採用、同14年4月近畿地方整備局河川部河川調整課長、同15年4月同局道路部道路計画第一課長、同20年4月東北地方整備局福島河川国道事務所長、同22年10月同局企画部企画調整官、 同25年8月道路局環境安全課企画専門官(併任道路局企画課道路事業分析評価室)、同27年7月滋賀県土木交通部技監、同29年4月滋賀県土木交通部長、同30年7月中部地方整備局道路部長、令和2年4月近畿地方整備局企画部長。京都府出身。51歳。



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