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マンション適正管理サポートセンター 草刈保廣会長  【2020年01月16日掲載】

管理組合の主体的意思決定を支援

恣意性を排除

新たな大規模修繕の仕組みづくり


 設計コンサルタントへのリベート問題が発覚し、国土交通省が注意を促すなど、マンションの大規模修繕工事に対する信頼が大きく揺らいでいる。そのような中、専門家からは「管理会社に任せきりにせず、今後は管理組合が自立し、主体的に工事を進めるべきだ」と指摘する声もあがる。
 関西分譲住宅仕上業協同組合(KSK)の理事長として、長年、業界の構造改革に取り組んできた草刈保廣氏。草刈氏はこのほど、「(一社)マンション適正管理サポートセンター」(MTS)を設立し、管理組合の主体的な意思決定による大規模修繕工事の仕組みづくりに挑む。MTS設立の経緯や今後の活動などを聞いた。

■昨年8月、大規模修繕工事の発注など管理組合の運営を支援する「マンション適正管理サポートセンター」(MTS)を立ち上げました。

 「ちょうど10年前、リーマンショックの影響によって建設業の衰退があり、その将来を見据え、マンションの大規模修繕工事を地域業者で受注し、地域経済の活性化を目指すという理念のもと、近畿地方整備局の認可を得てKSKを設立した。マンション住民の立場に立ち、『いいものを早く、安く、安全に』をモットーに、地域で安心して工事を任せられる『まちの大工さん』 のネットワークづくりに取り組んできた。また、KSKでは業界の正常化に向け、マンション住民を対象としたセミナー開催や管理組合への出前講座といった啓蒙活動を展開してきたが、その中で意気投合した人たちと立ち上げたのが今回のMTSだ。目的は『管理組合を支援し、管理組合の主体的な意思決定による大規模修繕工事を行う仕組みを普及させること』。主な役員に関しては、私が会長で、マンション管理や再生に詳しい弁護士の戎正晴さんが副会長。そして、全国マンション管理組合連合会事務局長の野村善彦さん(奈良県マンション管理組合連合会専務理事)に、専門家であるサポーターの束ね役になってもらった」

■まさに管理組合運営に関するプロ中のプロが集まったと。

 「戎さんは国交省のマンション政策小委員会委員などを務め、住民主体によるマンション管理の必要性を訴え続けてきた。『管理組合というのは財産管理団体で、その役員は財産管理人だ。もっとしっかりしないといけない』と。また、野村さんは管理組合の運営に精通しているうえ、一級建築士の資格を有し、マンションの設計も手掛けてきた。区分所有者として自ら修繕工事の発注に携わった経験もある」

■昨年12月には大規模修繕をテーマにしたセミナーを開催し、新たな発注方式として総合評価の導入を提案されました。その経緯について。

 「この30年間の業界の流れを説明すると、大規模修繕の発注方式は第1ステージ、第2ステージ、第3ステージに分けられる。第1ステージ、即ち出始めの頃は責任施工方式が主流で、管理会社と施工業者と管理組合が三者一体でやってきたが、受注をめぐり様々な不正が起きた。そこで、『これではダメだ。第三者を入れるべきだ』という話になり、設計コンサルタントが管理組合の発注代行業務を担うようになった。いわゆる設計監理方式であり、これが第2ステージ。ところが、平成28年11月、施工会社から設計コンサルタントへのバックマージンなどの不正が発覚し、マスコミにも大きく取り上げられ、社会問題となった」

   総合評価導入で 新たなステージへ

■それで設計監理方式も限界にきたと。

 「既に業界の信用は失墜している。これ以上は不祥事を繰り返してはいけない。そのためには、業者選定プロセスにおいて恣意性を排除することが不可欠だ。過去の不正を踏まえ、MTSのメンバーおよびKSK設立時から色々アドバイスをいただいている方と議論を重ね、新たな第3ステージでは、公共工事で導入されている総合評価落札方式を導入すべきだとの結論を得た。入札価格だけでなく、業者からの提案を客観的基準で評価するものだ」

■民間の修繕工事に総合評価を持ち込む。これはなかなかイメージしにくい。どういったテーマが考えられるのか。

 「大規模修繕で何より大事なのは正しい健康診断だ。まずは専門家であるMTSのサポーターが劣化調査と診断を実施し、それに基づき、管理組合と協議して総合評価でのテーマを決めていく。最初に修繕テーマ。『このマンションで優先すべき修繕工事は何か』ということ。修繕テーマでは『雨がかりのあるところ、ないところ』など各部位の劣化度合いに応じ、施工にメリハリをつけた提案を業者に求める。また、大規模修繕は『居ながら工事』なので防犯と安全に対する取組みも基本的なテーマとなる。たとえば、足場内への侵入防止対策や工事車両の動線計画などだ。さらには管理組合が要望するテーマ。これは『業者車両の駐車場所』『バルコニー作業時のルール』や『塗替え塗装の下地処理(ケレン作業)での粉塵・騒音対策』といった住民ニーズに沿ったものだ。そして、これらのテーマを公募公告に明示し、業者から提案を受け付ける」

■ただ、管理組合の役員の殆どは専門家ではない。業者の提案を正しく評価できるのか。

 「業者提案の採点の際には、MTSであらかじめ標準型の『評価シート』を作成し、管理組合のみなさんにお渡しする。それぞれのテーマに対する評価項目や評価基準、配点などを分かりやすく記したものだ。シートに沿って採点を進めれば、第三者の意見に左右されず、機械的に業者を決められる。しかも、シートの業者名の部分にマスキングを施し、慣例だった業者ヒアリングもやめた。恣意性を徹底排除するためだ」

■設立目的である「管理組合が主体的に意思決定できる仕組みづくり」。今回の総合評価方式はまさにその試みといえる。

 「要望があれば、われわれは調査から完成図書の提出まで、あらゆる場面において管理組合のお手伝いをさせてもらう。とはいえ、MTSの仕事はあくまで意思決定支援にほかならない。繰り返すようだが、管理組合の役員は財産管理人で適正管理の義務を負う。区分所有者の財産を預かっているという意識が必要だ。だからこそ丸投げせず、サポートを受けながら自ら決定すると。そんな姿勢で大規模修繕に取り組んでもらいたい」

■今後のMTSの活動については。

 「当面の間は総合評価方式を知ってもらうための広報活動に集中する。具体的には、豊中市、高槻市、吹田市など、各地区のマンション管理組合の連合会、交流会で出前講座を開く予定だ。また、KSKの設立理念を引き継ぎ、近畿整備局管内の地域の工事業者の育成にも力を入れていきたい。戸数50戸未満のマンションは市場全体の約70%を占めているが、このくらいの戸数の大規模修繕に関しては、地域に根差した技術力のある工事業者、即ち『まちの大工さん』が担うべきだ。しかし、現状では地元業者は殆ど受注できていない。また、日々の小修繕を通じ、マンション管理組合との信頼関係を構築していけば、設計コンサルタントは必要ないと考えている。われわれのようなサポーターで『安く、良く、安心』は十分に実現できる。やはり、『地域の仕事は地域の業者で』。これがまちづくり、建設業の根幹である」



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