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近畿地方整備局 井上智夫局長  【2020年01月06日掲載】

新・担い手3法の運用で新しい展望

国土を守る建設業に大きな力


 2025年大阪・関西万博を控え、建設需要の高まりが期待される中で、近年、頻発化・激甚化する自然災害への対応や、インバウンドによる経済効果を支えるインフラ整備も急務なものとなっている。近畿における建設行政をリードする近畿地方整備局では、防災・減災対策はじめ、道路や河川等の維持管理・更新に努める一方で、その担い手の確保と育成への取組みも求められている。こうした中、近畿地整の井上智夫局長に、管内における来年度の事業や施策等の見通しを聞いた。

  防災対策スピードアップ
 
   来年度の事業

■まずは、来年度事業の見通しから。

 大きく分けて河川、道路、港湾の各分野で、それぞれ事業を進めていきます。河川関係では、一番懸念されるのが河川の氾濫による水害対策です。全国的に見て毎年のように大水害が発生している中にあって、近畿管内では必ずしも整備状況が進んでいないことが課題に挙げられます。むしろ全国的に見ても遅れている状況で、この遅れを取り戻す取組みを進めていかなければと思っています。
 取組みにあたっては、ハード対策等をしっかりとやっていかなければなりませんが、その進め方を工夫する必要があり、特に、ソフトと合わせることで初めて効果がでるものと思っています。最近の流れでは、ものを造ることから、最終的には人命を守ることとして、例えば避難の観点から考えると、何処に人が住んでいるのか、逃げる場合にどれくらいの時間がかかるのか等を、よく考慮した上で進める必要があります。
 そこを踏まえながらハードの強化策を地域ごとに考えていく、あるいは、避難時間を稼ぐためにダムの運用方法を改善し、ダムが水を止めている間に時間を稼ぐ等の観点で取組みを進めていきたいと考えています。
 同様に堤防についても構造を強化し、越水や決壊するまでの時間を稼ぐことです、ハードについては、それら対策を施した所では、全国的に見ても効果が出ており、対策がなされてないところで被害が出ています。そういった点からも、近畿は遅れており、スピードアップを図っていきたいと思っています。

■なるほど。

 道路に関しては、阪神間はじめ大阪市内における渋滞が依然として解消されていません。特に渋滞箇所については全国のワーストテンの上位に、阪神高速道路神戸線と湾岸線、東大阪線の3路線が、渋滞慢性化路線とされており、これらのミッシングリンクを解消したいと考えています。このうち、大阪では淀川左岸線と大和川線については事業化がされており、阪神間についても大阪湾岸線西伸部も事業化されていることから、これらをできるだけ早期に進めていくことが求められています。
 港湾については、神戸港での貨物取扱量が、阪神淡路大震災以前の取扱量まで戻ってきたことから、今後はさらに機能強化を図り、国際コンテナ戦略港湾の阪神港としての位置付けをより確かなものとする取組みを進めていきます。また、これら物流の効率化の観点も重要ですが、災害時の影響を軽減させるための取組みも進めていきます。

   インバウンド

■これら基盤整備は、社会や経済活動の上でも重要ですが、インバウンド効果を高めるためも必要です。

 インバウンドについては国の施策として推進されており、関西では、2025年の大阪関西万博を控えていることから、大きな役割が期待されているところもあります。関西には、もともと人気の高い京都をはじめ、大阪、奈良といった人気スポットもあり、この中では、中長期的な取組みとして、関西全体を受け皿として考えていく必要があると考えています。
 そのためには交通アクセスの整備が重要となってきます。道路交通網については、紀伊半島を周回する紀勢道路の全線事業化が見込まれており、山陰では近畿自動車道路も順調に進められています。さらに近畿の周辺部では中部縦貫道路も進めています。これらの整備状況を睨みながら、日本に訪れる人達をできるだけ関西、あるいは西日本も含めて周遊が楽しめる取組みを、この交通インフラの中で取り込んでいきたいと思っています。
 また、近畿地整として直接的な関わりはありませんが、海外の人が日本に抱くイメージの一つに、健康や高度医療があり、熊野古道や高野山といった宗教的なものまで、日本人にとっては当たり前のことが、海外の人には魅力的に感じているものが多くあります。万博も健康と長寿をテーマとしていることから、それら要素を取り入れて、万博と海外の人達の指向を関西で調和させたいろんな観光プログラムを打ち出し、それをインフラの面で支えていきたいと思っています。

■継続事業の一つに、防災・減災に向けた国土強靱化3カ年緊急対策があります。

 これは非常に重要な取組みで現在、管内で実施しています。特に、河川に堆積している土砂や樹木、危険な道路法面箇所などでは、一定程度の対策を着実に進めています。ただ、それだけで安全度が向上したわけではなく、現在のような気候変動絡みの災害には追いついていけず、抜本的な安全対策を施していく必要があります。インフラ整備に取り組んでいても、災害のスピードが速くなっているように感じており、このため、政府の方針に従って災害対策を協議していきます。

■昨年の台風21号では、これまで整備してきたインフラが効果を発揮し、かなりの被害を防いだことを言われています。

 台風21号は、昭和36年に発生した第2室戸台風を上回る規模の台風でした。第2室戸台風を教訓に、我々の先輩達が防潮堤を整備し、大阪府では3大水門を整備されました。これにより大阪市内は、高い堤防を造ることなく安全が守られています。特に、河川橋梁は、東京で見られるように、中央部分が高くなった太鼓橋のような形式ではなく、道路と直線につながる構造となっています。こういった点も含め、海からの防御には、まちづくりとセットで考える必要があり、その点では大阪は機能していました。
 また整備した後も、営々とメンテナンス作業も継続されてきました。これらインフラの整備には当然、コストはかかりますが、整備費用で約1300億円、メンテナンスで約200億円の合計で約1500億円ほどですが、これにより台風21号では、試算では約17兆円の資産を守ることができ、改めてインフラ整備の価値が認識されました。
 ただ、水門自体も整備後50年が経過しており、更新を考える時期を迎えており、さらに、その懸念が高まってきている津波に備えた機能強化も考える必要もあります。このため大規模施設の更新を計画的に実施することも求められています。水門は大阪府の管理となっていますが、国としてもしっかりと支援していきたいと考えています。
 国が管理する施設については淀川にある毛馬排水機場があります。ここでは、水門により堰き止めた水をこの排水機場で新川に排水していますが、これも老朽化が進んでいることから、大規模更新を検討する時期に来ており、今後はそういったこともテーマになってきています。

   防災専属組織

■近畿地整における防災への取組みとして、昨年4月に新たに防災専属組織が設置されました。

 防災対策にはハード面とソフト面を組み合わせることが必要です。ソフト面では、災害に関する事前情報の提供も重要ですが、いくら対策を講じていても未然に防ぐことはなかなか難しい。そこで重要となるのが、発生した被害をできるだけ短期間のうちに修復することです。これは生活面や経済の面でも大事なことです。それには「時間」の概念が重要になってくる。被害の範囲を狭めることも必要ですが、早期復旧に努めて企業活動を再開させることが求められています。
 このため国交省では、平成20年にTEC―FORCEを創設し、災害発生時には被災地に入り復旧活動を支援しています。昨年の台風19号では、近畿地整として1割を超える職員を被災地に派遣し、3週間にわたり支援を実施しました。これは東日本大震災を上回る規模となりました。このTEC―FORCEをしっかりとマネジメントする組織が重要で、今後に起こりうる南海トラフ大地震等に対応するため、発災時の被害を想定し、どの地域にどれくらいの隊員を派遣するかなどを関係機関と調整するために、従来の組織を拡充し、独立した防災担当組織を創設しました。

  建設業の役割 国民に周知
 
   品確法の改正

■昨年は、品確法と入契法、建設業法が改正され、新・担い手3法が施行されましたが、改正の狙いは。

 例えば防災対策はスピードアップが重要で、TEC―FORCEの活動では道路啓開や排水作業を行いますが、それら作業終了後は、緊急的な復旧工事を行うことになります。復旧工事では、国が自ら実施する場合は、かなり緊急を要する場合で、これまでにも蓄積はありますが、市町村の場合、技術系職員が少なく、被災調査や測量、設計、工事までを行うには長い時間がかかります。
 今回、品確法の改正により、緊急的な工事については随意契約や指名競争入札の適用が明文化されました。スピードアップのための法改正で、今後はその運用が大事になります。復旧工事では、測量や地質調査、設計を担う企業、その後の工事を施工する企業との連携を密にする必要があり、それを法律に基づいた地域の災害復旧の迅速化に向けたシステムのようなものを作っていく必要があり、現在はその青写真づくりの段階で来年度のテーマにもなっています。

■運用にあたっては地方自治体への浸透が課題になります。

 まずは国がモデル工事的なものを実施して範を示すことからですが、市町村の場合、本当に技術系職員がいないということに対して、国や府県がどのように支援するか。既に、国だけではなく、府県にも支援体制があることから、その役割分担をどうするか等を考えていきたいと思います。

■働き方改革では、担い手不足への対応とともに生産性向上が求められています。

 将来的に担い手不足が懸念される中でも、建設事業は続いていくわけですが、それを実施するためには生産性を向上させていかなければなりません。そのためには、i-construction(アイ・コンストラクション)をはじめとする新技術の導入による対応と、処遇改善を通じて優秀な人材を確保するための環境を整備し続けなければなりません。
 i-constructionについてはこれまで、3DデータやICT施工を進めてきましたが、直轄工事や府県での大規模工事を中心にある程度は浸透してきましたが、中小規模工事はまだまだ浸透しておらず、特に中小企業や地域建設業への取組みは遅れており、そこに着目した対策を強化していく必要があります。

■働き方改革では、週休2日等の休暇の取得に関し、直轄工事では総合評価において現場閉所の取組みが進んでいますが、民間工事への浸透が課題となっています。

 近畿ブロックのほとんどの府県・政令市では、受注者希望型を中心に、「週休2日」に取り組まれています。今後も、関係機関と連携し、あらゆる機会を捉え「週休2日」に関する周知を行い、民間工事に関しても働き方改革の浸透を図って行きたいと考えています。

   キャリアアップ

■担い手不足に関しては、建設キャリアアップシステムの運用も始まりました。

 建設キャリアアップシステムにおいて、まず大事なことは技能労働者の方々の処遇改善です。地域建設業に限らず、建設業の将来像を描く上でも、技能労働者としての立場をしっかりと位置付ける必要があります。
 特に、技能労働者全体の所得水準が低いといった問題があります。これまで、設計労務単価を7年連続で引き上げる等の施策を実施しておりますが、技能労働者個々の技能に応じた給与体系が、働き方改革の中で、日給月給制を月給制に移行する中で、どうするかが大きな問題になります。
 それら大きな政策の中の一つが、建設キャリアアップシステムであり、実績を持った技能労働者が現場に従事する上でその実績を客観的に示す役割を果たすものだと思っています。

■地元業者の中では、働き方改革の必要性は理解しているが、「働きがい」や「誇り」といった部分も打ち出してほしいといった意見もあります。

 仰る通りです。働き方改革は、今、働いている人にとって働き甲斐のある建設業に、これから建設業に入ってくる若い人にとって、魅力ある建設業を実現するものであり、実際に働いている人にはやり甲斐のある仕事だと感じられることが非常に重要です。
 最近では、「この道路ができたことで渋滞が解消された」とか、「危険な箇所が安全になった」など、感謝の言葉を頂くことが多くなってきました。公共事業に対する国民の意識が変わってきたように感じます。これまで、我々としては、先にも言ったような、災害からまちを守ったインフラの整備効果など、事業に対するその効果についてあまりPRしてこなかった部分はあります。これについては、行政として建設業が果たしてきた役割を広く国民に周知する取組みをやらなければならないと思います。

■多発する災害に対し、一般の方々の意識が変わってきており、かつてのように建設業に対するマナスイメージがなくなってきたとする意見もあります。

 災害の現場では、TEC―FORCEのように国交省も携わっていますが、地域建設業の方々をはじめ、測量調査や設計の企業も緊急対応に従事されておりますが、これらは地域建設業の方々が中心となって取り組んでいることも、実はあまり一般的には知られていません。こういったことも、我々が周知していかなければならないと思っています。2年前に発生した福井県の豪雪時での作業も、地域建設業の方々が通常の除雪作業以上に頑張って頂いた。こういったことが分かるように取り組んでいきたいと考えています。

■今後も建設産業全体の発展に向け、ご尽力下さい。ありがとうございました。



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