日刊建設新聞社   CO−PRESS.COM
土木学会・楠見晴重関西支部長(関西大学環境都市工学部教授) 
   【2019年11月18日掲載】

平成象徴する「関空」と「明石大橋」

防災・減災への取組み 新時代も土木学会がけん引

産官学一体の広報戦略を


 「公益社団法人 土木学会」(林康雄会長)では、社会資本の重要性および土木技術・土木事業に対する国民の認識と理解を深めるため、毎年、11月18日を「土木の日」と定め、続く同会の創立記念日である11月24日までの1週間を「くらしと土木の週間」として、「土木コレクション2019」「土木広報大賞2019表彰式」など様々な関連イベントを実施する。関西支部においても、「FCCフォーラム・大阪でこぼこ〜大阪地理学 事始め」や「1351歳 行基さん大感謝祭」、明石海峡大橋をバックにした「橋梁模型コンテスト」など独自のイベントを通じ、市民へ土木の魅力を伝える。
 令和初の関西支部長に就任した楠見晴重・関西大学環境都市工学部教授に、平成時代のプロジェクトについて、さらに、新時代における同支部の活動などについて聞いた。

■令和初の関西支部長に就任されました。まずは平成にける関西の土木プロジェクトを振り返ってみていかがですか。

 「平成時代には大型の土木工事が結構ありましたが、とりわけ大きなものとしては関西国際空港の開港が挙げられます。2本の滑走路を有し、日本初の常時24時間運用可能な空港であり、関西へのインバウンドが近年増加しているのは、まさにこの関西国際空港がもたらした効果だといえます。
 次に明石海峡大橋です。今なお世界最長の吊橋であり、その生みの親である原口忠次郎さんは昭和24年から44年まで神戸市長を務め、『神戸と淡路島の海峡に橋をかけたい』と常におっしゃっていました。やはり、将来を見越してずっと言い続けることが実現のためには何より重要です。平成時代には他にもさまざまな土木施設が建設されましたが、私はこの2つの大きなインフラストラクチャーが関西における象徴的なプロジェクトだと思っています」

■いずれも日本の優れた土木技術を示すプロジェクトです。

 「その一方、われわれ土木に携わる者が忘れてはならないのが平成7年の阪神・淡路大震災です。平成は、自然災害の脅威を感じた時代でもありました。もちろん、過去に日本全体では関東大震災などを経験していますが、阪神・淡路に関しては大都市直下型であり、極めて大きな衝撃を受けました。もともと関西は地震が少ない地域だと言われていましたが、実はそうではなかった。日本列島ではどこで地震が起きてもおかしくないと。さらには、平成23年の東日本大震災の発生によって、人間が何百年もかけて築き上げてきた文明を瞬時に破壊される脅威を、われわれ技術者はまざまざと見せつけられました。これだけ耐震技術の研究を深め、その必要性を訴えながら取り組んできたのに自然の猛威の前では無力だった。非常にむなしいことでした。
 ただ、一人でも多くの命を助け、地震による被害を少しでも減らしていくのは、紛れもなく科学的な知識であり、科学技術です。自然災害との闘いはあと何百年と続くかも知れませんが、新しい令和の時代においても、土木学会がけん引していくことが求められます」

■なるほど。それでは現在のインフラの状況についてどう見ておられますか。

 「確かに平成の時代に多くのインフラが整備さました。とはいえ、こと関西においてはまだまだ不足しています。特に新幹線、高速鉄道の計画に関しては関東に比べてきちんと進んでいないのではないでしょうか。リニア中央新幹線の開業も予定されていますが、とりあえずは名古屋までで、やはり、できる限り早い時期に関西、大阪まで伸ばさなければ、リニア開業の関西への経済効果は薄れていきます」

■それほど高速鉄道の整備は大事だと。

 「何といっても新幹線効果というのは非常に大きいものがある。たとえば、金沢や熊本などは、それぞれ北陸新幹線、九州新幹線の開通により、その地位があがっていきました。また、もともと北陸は関西圏との繋がりが深かったのですが、北陸新幹線・長野〜金沢間の開業によって首都圏へと人が流れています。だからこそ早期に大阪延伸を実現し関西と連結させないといけない。これは関西の活性化のためにも必要ですし、そのうえで山陰や四国、九州へと高速鉄道網を広げていくことが重要です。あわせて高速道路のネットワーク化についても産官学が一体となり進める必要があります。まだまだミッシングリンクというのはありますから」

■昨年はまさに災害の年でした。大阪でも多くの被害が発生しました。

 「中でも、台風21号の規模は伊勢湾台風に匹敵するもので関西国際空港の水没など大きな被害が発生しました。一方、大阪湾の高潮対策については、これまで50年以上、約1500億円かけて防災施設をつくり上げ、維持してきましたが、これら施設による被害防止の効果は約17兆円とも言われています。しかし残念ながら、そのあたりのことは一般の方には殆ど伝わっておりません。もっとこちらからアピールする必要があり、そのためにも、産官学全体として広報戦略を強く打ち出さないといけない。私は切にそう感じています」

  ドローン映像で高校生に講義

■広報に関しての具体的な取組みを教えてください。

 「たとえば、本学(関西大学)のオープンキャンパスには、毎年、高校生とその家族の方がたくさん来られます。そこで私もミニ講義を担当し、ドローンから撮影した『斜面崩壊』や『河川氾濫』などの現場映像を紹介しながら、直近の災害について説明しました。高校生にリアルな映像を見てもらって、『このような災害に対処するためには君たちの若い力がどうしても必要だ。一緒にやらないか』と訴えたのです。講義後の質疑応答ではたくさんの質問が挙がりましたし、最後はみなさんから拍手までいただきました(笑)」

  学校教育とつなぐ

■土木に対するイメージアップにもつながっていますね。担い手確保のために若い人に知ってもらうことは大切です。

 「また土木学会関西支部では、土木と学校教育とをつなぐ取組みとして、小中高の先生方の教員免許更新講習のお手伝いをしています。今年の8月には本四高速の協力を得て明石海峡大橋で開催し、午前中に講義・演習を行い、午後からは実習として明石海峡大橋の主塔にも登りました。この時は50名近い先生方が参加されましたが、橋を建設した土木技術について、そして橋の開通により淡路島がどれだけ活性化したかなどについて理解を深めてもらいました。先生方にしっかり認識してもらえれば、生徒にもちゃんと伝わります。だから広報が大切なのです。関西支部では本部および他支部に先駆け、FCCはじめ多くの市民向け行事を開催しており、この活動を徐々に広げるともに永続的に取り組んでいきます。 
 ところで、私は本学の学長として7年間、新聞・テレビなどメディア対応も担ってきました。その経験から、土木に関しては一般の人にもっとアピールすることがたくさんあるのに、それができていないと感じています。公益団体として市民に対していかにアピールしていくか。そこをこれまで以上に進めることができればと思っています」

■最後に楠見支部長が土木工学を志した理由について。

 「やはり、一つはモノをつくることが好きで、自然も好きだった。もともと理系に進もうと思っていましたので、その中で自分の好きなことを考えた場合、やはり、土木が一番近かったということでしょう。私の父親も建設会社に勤めておりましたので、小さい頃から建設関係の本を読む機会も多かった。そんな影響もあったのかも知れません。また、鉄道も好きでしたし、そういう面もあって土木を選んだのでしょうね」

 
 
 楠見晴重(くすみ・はるしげ)
 関西大学教授 環境都市工学部
昭和53年関西大学工学部卒業、昭和55年同大学大学院工学研究科博士課程前期課程修了、昭和56年同大学大学院工学研究科博士課程後期課程中途退学、昭和57年同大学工学部助手、昭和62年同大学工学部専任講師、平成2年同大学工学部助教授、平成14年同大学工学部教授。平成19年〜21年9月関西大学環境都市工学部長、平成20年〜21年9月同大学大学院理工学研究科長、平成20年学校法人関西大学理事(現在)、平成21年〜28年関西大学学長。
 専門分野 岩盤力学、地盤工学、地下水工学


Copyright (C) NIKKAN KENSETSU SHINBUNSHA. All Rights Reserved.
当サイトを利用した結果に関するトラブルなどに関しては、当社としては一切責任をとりかねます。