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大阪労働局労働基準部 下岡恵輔安全課長  【2019年06月24日掲載】

新たな時代にPDCAみんなで築こう ゼロ災職場

死亡災害撲滅へ向けた取組みを推進

現場への指導、パトロールさらに強化

働き方改革で魅力的な職場環境を


 第92回全国安全週間が今年も7月1日から7日まで、厚生労働省大阪労働局らの主唱、建設業労働災害防止協会大阪府支部らの協賛を得て、「新たな時代に PDCAみんなで築こう ゼロ災職場」をスローガンに展開される。昭和3年に実施されて以来、「人命尊重」という基本理念のもと、一度も中断することなく続けられている。一方、大阪府内の建設業における死傷者数は、この数年間は堅調な減少傾向にあるとはいえ、昨年の死亡者数は25人となり、前の年に比べ5人増加。業種別では最も多く、依然として、墜落・転落災害による死傷者数が多くを占めている。
 大阪労働局では、全ての労働者の健康が確保され、安全・安心に働くことができる職場の実現を目指し、「リスクゼロ¢蜊辮юi運動」を積極的に展開し、フルハーネス型安全帯使用の徹底を図る「命綱GO活動」など5つの活動を着実に実施している。
 これら災害防止活動の中心的な役割を担う大阪労働局労働基準部安全課の下岡恵輔課長に安全行政の取組みなどについて聞いた。

■まずは昨年の労働災害の発生状況について教えてください。

 平成30年における大阪府内の労働災害発生状況ですが、休業4日以上の死傷者数は、前年と比べて627人増加し、8972人となりました。
 死亡者数は72人と、前年より12人増加しました。増加の要因として、台風21号の被害に対する復旧工事等で7人の方が亡くなったことや、記録的な猛暑の中、熱中症によって3人の方が亡くなったことが挙げられますが、死亡者数が70人台に達したのは、実に平成21年以来、9年ぶりのことです。
 大阪府内の建設業における労働災害死傷者数は、ここ数年堅調な減少傾向にありましたが、平成30年は785人と前年に比べ18・9%の大幅な増加となってしまいました。このうち319人が墜落・転落により被災しており、40・6%を占めています。
 さらに、建設業における死亡者数は25人と、前年に比べ5人増加し、業種別では最も多く、全体の34・7%を占める状況となっています。
 また、死亡者25人のうち4分の3近くの18人が墜落・転落により亡くなっています。その発生状況をみてみますと、「足場の組立て作業中に墜落」、「作業をしていた脚立から転落」、「エレベーターシャフト内の仮設デッキプレート上で作業中、仮設デッキプレートが未敷設の開口部から墜落」、「台風21号により被害を受けた屋根を補修するため屋根上を移動中、スレートを踏み抜き墜落」などであり、いずれも、作業床や手すりの設置をはじめ、親綱を張って安全帯を確実に使用する、といった基本的な墜落防止措置が講じられていれば、防止できたものがほとんどです。
 建設業における労働災害の発生を防止するためには、労働安全衛生法等の法令の遵守はもちろんのこと、短時間の作業、臨時の作業だから安全措置を講じなくても大丈夫だろうと考えたりせず、必要な安全措置を講じる、安全な作業手順を遵守する、また、それらが確実に行われるよう職長や同僚による声かけを実施するなど、基本的対策の徹底が何よりも重要であると考えています。
 建設業に限らず、労働災害防止には、危険性又は有害性の特定、リスクの見積り、リスク低減措置の検討等を行い、その結果に基づく措置を実施する「リスクアセスメント」が大変重要であると考えています。

■全国からみた大阪の状況についてはいかがですか。

 全国の平成30年の労働災害による死亡者数は909人で、前年の978人に比べ69人減少し、過去最少となりました。全国で死亡災害が7・1%減少した一方、大阪局では平成27年に過去最少の47人となって以降増加しており、さらに平成30年は前年に比べ20%もの大幅な増加となりました。
 死亡者数が多い業種は、全国では建設業が309人で最も多く、次いで、製造業が183人、陸上貨物運送事業が102人となっています。
 建設業での死亡災害は、全国では前年に比べ14人・4・3%減少していますが、逆に、大阪では25人と前年に比べ5人・25%増加しました。さらに、建設業の死亡災害のうち、墜落災害の占める割合については、全国では44・0%の136件ですが、大阪では72%の18人と全国よりかなり高い状況となっています。

■そのような中、今年度の大阪労働局の目標と重点項目については。

 今年度は、平成30年度を初年度とする「大阪労働局第13次労働災害防止推進計画」の2年目であり、この13次防では死傷災害を平成29年と比べて5%以上減の7927人以下に、死亡災害を15%減の51人以下とすることを目標としています。
 しかしながら、先ほど申し上げたように、平成30年は死亡災害、死傷災害とも前年より増加する結果となってしまいました。
 このような状況を踏まえ、当局では令和元年の目標値を、死亡災害については全産業で56人以下、死傷災害については全産業で8175人以下としております。特に、建設業については平成30年の死亡者数が25人、前年比5人増加と多くなったことから、30年の半数以下を目標としております。
 今申し上げた目標を達成するために、死亡災害撲滅に向けた取組みとして、6月から8月期において「夏季死亡災害防止強化期間」を設定し、建設現場に対し集中的に現場指導を実施する、建設業労働災害防止協会と連携しパトロールを強化するといった取組みを行い、12月には、工事が輻輳することによる災害発生が懸念されることから、近畿ブロック各労働局と連携し一斉に建設現場に対し現場指導を実施することとしています。
 また、1月から3月期の死亡災害を減少させることが、年間の死亡災害発生件数を抑制することに効果的であることから昨年度の終わりにも設定しましたが、1月から3月期に「冬季死亡災害防止強化期間」を設定し、墜落災害防止、交通労働災害防止を図ることとしています。
 さらに、今後増加が見込まれる高年齢労働者や外国人労働者の労働災害防止のため、危険体感教育や現場送り出し教育等、それぞれの特性に応じた安全衛生教育の徹底を図っていきます。

■なるほど。それでは建設業における取組及び注意事項については。

 今年の建設業における労働災害による死亡者数は、6月10日現在7人と、昨年の同時期と同数となっており、全産業の死亡者数が12人であるところ、建設業が半数以上の58・3%を占めている状況です。また、休業4日以上の労働災害死傷者数は、5月末現在の速報値で259人と昨年同期に比べ27%の増加となっています。
 特に事故の型別で見たときには、7人の死亡者のうち墜落・転落災害によるものが4人と57・1%を占めており、死傷災害についても259人のうち「墜落・転落」によるものが117人と45・2%を占めており、最も多くなっています。13次防の目標達成のためには、昨年度から展開している「リスクゼロ¢蜊辮юi運動」の中の活動のひとつである「命綱GO活動」をさらに推進し、何としてもこの墜落・転落災害を防止する必要があります。
 「命綱GO活動」では、墜落制止用器具フックの掛け替え時の墜落防止や、万が一墜落しても墜落時の衝撃の緩和を図る、二丁掛けフルハーネス型墜落制止用器具の使用の促進を進めています。墜落制止用器具につきましては、今年2月に改正政省令が施行されており、フルハーネス型を使用することが原則となっています。
 さらに、この活動の一環として、6月3日には大阪労働局長による建設現場の安全衛生パトロールを実施したところです。皆様方にも、この活動の趣旨をご理解いただき、積極的に墜落災害防止への取組みをお願いいたします。
 また、今年も熱中症に注意が必要な季節になりました。昨年は記録的な猛暑の影響もあり、大阪府内の職場での熱中症による休業4日以上の労働災害死傷者数は89人と前年の3倍以上になり、死亡者も3人発生しています。
 職場における熱中症予防については、昨年に引き続き、今年も5月1日から9月30日まで「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施し、予防対策に取り組んでいます。職場における熱中症による死亡者ゼロを目指し、異常を認めたときにはためらうことなくすぐに救急車を呼ぶなどの対応を行うとともに、労働者が「体調が悪いです」と上司などに伝えやすい職場・現場環境の実現をお願いいたします。

■最後に一言お願いします。

 今年4月から、時間外労働の上限規制、年5日の年次有給休暇取得の義務付けなど、いわゆる働き方改革関連法が順次施行されていますが、建設業に人が集い、魅力的であるためには「安全で安心して働ける職場環境の整備」が重要であり、労働災害の防止はもちろんですが、長時間労働の抑制や週休2日制の導入等の働き方改革に積極的に取組んでいく必要があると考えています。



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