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大阪府住宅まちづくり部 多田純治都市空間創造室長  【2019年05月27日掲載】

具現化へ着実に進む「グランド・デザイン大阪」

6エリアの特性活かし世界の大阪へ

みどりあり、食文化あり


 多様な価値を創造する大都市・大阪の実現に向け、その方向性を描いた「グランドデザイン・大阪」(以下、GD大阪)。大阪都心部を6つの象徴的なエリアに分け、それぞれの特性を活かした都市空間の創出への取組みを示している。また、GD大阪と連携する「グランドデザイン・大阪都市圏」(同、GD大阪都市圏)は、周辺地域を含め、関西全体を視野にいれた都市空間の方向性を示唆したもの。この2つの施策の実現に向け、関係方面との調整役を果たしている大阪府住宅まちづくり部都市空間創造室では、取組み状況やこれまで実施された施策の効果検証を行っている。GD大阪の策定以来、7年が経過したが、現在の取組み状況や今後の展開について多田純治室長に聞いた。

うめきた2期進行

■まず、GD大阪策定の経緯から。

 平成の時代は、長期にわたる経済の低迷や人口減少等による活力の低下、特に大阪では経済活動に影響されやすく、元気のない状態が続いていました。大阪が大都市として国際的な都市間競争に勝ち抜くためには、大胆な都市構造の転換が必要であり、2011年12月に開催された第1回大阪府市統合本部会議において、広域的な視点から府市一体となった大阪の将来像を描くため、GD大阪の策定に向けた検討がスタートしました。GD大阪は、2008年に策定された将来ビジョン大阪に基づきながら、2050年を目標に、変化し躍動し続ける大都市・大阪の都市空間のあり方や今後の方向性を広く世界に発信するものとして、2012年6月に策定しました。
 施策の柱となるのは、世界から創造的な人材が大阪に住み、働き、楽しみたくなるような魅力と環境を備えた大都市大阪を目指すこととし、大阪らしいポテンシャルとストックを有した象徴的なエリアとして「新大阪・大阪」「なんば・天王寺・あべの」「大阪城・周辺」「夢洲・咲洲」「御堂筋・周辺」「中之島・周辺」の6エリアを設定し、その特性を活かしたまちづくりの方向性を打ち出したものです。

■現在の取組み状況については。

 新大阪・大阪エリア内の「うめきた」では、現在、2期開発が進められています。開発面積16ヘクターfのうち8ヘクタールに「みどり」を確保し、4.5ヘクタールは公園、残りは建物と一体となった連続した「みどり」とします。この「みどり」をフィールドとして、「イノベーション」を創出し世界に誇れる「大阪の顔」となるまちづくりを進めるため、2017年に経済界等と連携した「みどりとイノベーションの融合拠点形成推進協議会」を設立し新産業創出のための研究等先行的な取組みを実施し、2024年夏の先行まちびらきに向け取り組んでいます。
 新大阪では、リニア中央新幹線等開業による波及効果を活かし、スーパーメガリージョンの西の拠点形成に向けたまちづくり方針の検討や民間開発を導入するための機運醸成を図っていきます。2018年8月には内閣府の都市再生緊急整備地域の候補地としての公表を受けて、今年1月に新大阪駅周辺地域都市再生緊急整備地域検討協議会が設置されました。今後、地域の指定に向けて、新大阪駅周辺地域の担うべき役割や求められる都市機能など、まちづくり方針の骨格を2019年度末までに作成する予定です。

■なるほど。

 なんば・天王寺・あべのエリアは、インバウンドの受入先として大阪らしい食の文化と賑わい空間を提供する街を目指しています。天王寺とあべのでは、あべのハルカスの開業やてんしば整備、阪堺電車上町線の軌道敷の芝生化などの整備が進み、賑わいが出始めています。なんばでは、大阪市が商工会議所、南海電鉄や地元商店街と連携し、駅前を歩行者優先の駅前広場とする取組みが進められているほか、新今宮駅前でも、ホテル建設が進められています。このエリアは、各駅も隣接しており、一体となって賑わい、魅力向上につながることに期待しています。
 大阪城周辺は、大阪城公園という都心部最大のみどりがあり、東部には大阪メトロとJRが所有する広大な土地を有するほか、大阪城公園では公園管理を民間に委託してからは、天守閣の入場者が過去最高を記録するなど賑わっており、民間の集客施設もオープンしています。
 大阪メトロを含む「大阪城東部地区」や成人病センター跡地を含む「森之宮地区」では、まちづくり方針を策定し、大阪市と検討を進めています。このエリアは、「うめきた」に次いでポテンシャルが高く、都心に残る貴重な土地を有しており、大阪城の賑わいと相乗効果をもたらすようなまちづくりを進めていきたいと考えています。
 夢洲・咲洲エリアの夢洲では、大阪府、大阪市と経済界がとりまとめた「夢洲まちづくり構想」を基に、新たな国際観光拠点形成に向け万博の開催準備やIR誘致の取組みが行われています。咲洲では、コスモスクエア駅前で住宅や教育関係施設の立地が進み、ホテルや商業施設も計画されるなど、今後も夢洲開発との相乗効果が期待されます。また、地元企業協議会においても、防災訓練や活性化プロジェクトなどの取組みが進められています。

街並みリニューアル

■万博開催は大きな契機になりそうです。

 御堂筋・周辺エリアは、大阪の顔であり、クオリティの高い沿道の空間づくりと側道の歩行者空間化による賑わいづくりを進めています。沿道については、大阪市が中心となり建物の高さ制限と住宅用途の規制緩和を実施し、低層階には商業・文化施設を誘導するなど、新たな開発による街並みのリニューアルが進んでいます。
 道路空間については、今年3月にGD大阪の理念に基づく歩道空間化として、世界最新モデルとなる「人中心のストリートへ」をコンセプトにした「御堂筋将来ビジョン」が大阪市により策定されました。今後、ビジョンを基に御堂筋全体の歩行者空間化に向け、民間との検討が進むことに期待しています。
 中之島・周辺エリアについては、「水都大阪のシンボルアイランド」と位置付けています。西部地域では、フェスティバルタワーウエストの開業やタワーマンションも建設され、新たに美術館や未来医療国際拠点の整備も進められています。今後、なにわ筋線建設により新駅が設置される計画であり、大阪の顔としてますます発展することが期待されます。

■事業推進にあたっての課題は。

 GD大阪では、まちづくりの主役は民間であると考えており、各エリアでもエリアマネジメントの実践やまちづくり協議会等による民間主導のまちづくり組織が活動しています。今後も、大阪湾ベイエリア意見交換会など、民間と行政が自由な発想で話し合える場を設け、BID制度等の制度設計や特区制度を活用した規制緩和など、民間の知恵やノウハウが十分に発揮できる環境を整えることが行政の役割と考えています。また、取組みに対する大阪府内外からの投資を呼び込むための情報発信も我々の役割と考えています。

■GD大阪都市圏についての取組みとの連携は。

 GD大阪都市圏は、関西全体を視野に、都市空間創造の大きな方向性を示したもので、都市構造を大胆に捉え直し、広域連携型都市構造への転換を柱にしたものです。実現に際しては、行政区域にとらわれず、都心部と周辺都市、郊外地域をつないでいくことが重要で、GD大阪で示した6つのエリアを、郊外から周辺都市、関西全域に連携していくことも視野に入れて取り組むこととしています。
 例えば、淀川では新大阪と「うめきた」の大阪エリアを一体的に捉えて関西の玄関口として整備し、また、ベイエリアへの舟運を結びつけることで水都大阪の魅力向上につなげます。さらに2017年度から、天満橋の八軒家浜から枚方までの定期航路が復活し、今後、京都・伏見までの拡大を考えています。こうした河川とか街道、みどり等のそれぞれのテーマによってつなげていくことがGD大阪都市圏の考え方で、これらの取組みとGD大阪や周辺都市の取組みとの連携が重要だと思っています。

■これら取組みで、建設業界に対する要望等がありましたら。

 2025年の万博では、未来社会の実験場をコンセプトに、大阪が未来の最先端の都市であることを示す取組みが実施されます。まちづくりの主役は民間であり、環境や省資源化、労働者不足、高齢化・国際化への対応、緑化等による都市環境、災害対応などSDGsにも通じる多くの社会課題に対応するには最先端技術が不可欠です。建設業界をはじめ民間の方々の優れた知識やノウハウを大阪のまちづくりに導入していただき、世界に発信していくことを期待しています。我々としてもそのための環境整備を行い、一緒になって取り組んでいきたいと考えています。

■今後も実現に向けてご尽力下さい。



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