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関西分譲住宅仕上業協同組合 小野利行技術部長  【平成30年08月06日掲載】

「東急ドエル・アルス西宮山手」の大規模修繕工事

初のプロポーザル方式、技術提案をプロが目利き

条件見直し、地元業者にも活躍の場


「関西分譲住宅仕上業協同組合」(KSK、草刈保廣理事長)はこのほど、「東急ドエル・アルス西宮山手」(ドエル西宮)大規模修繕工事の発注サポート業務を受託した。この工事は、KSKが推進するプロポーザル方式としては初の案件であり、大規模修繕における新たな発注の試みでもある。業界関係者の注目も集まる。先頭に立ってプロポーザルの普及に取組むKSKの小野利行技術部長にその特長や業界の課題などについて聞いた。

■KSKではドエル西宮の大規模修繕工事の発注支援業務を受託したそうですね。

 「われわれが普及を推進しているプロポーザル方式がドエル西宮で初めて採用され、この6月に運営と工事監理サポートの業務委託契約を正式に管理組合と結んだ。これによって、公募条件の打ち合わせから来年6月の工事完成まで、すべての発注プロセスに関して、われわれKSKがサポート業務を担うことになる」

■新たな大規模修繕の発注方式ということですが、従来の設計監理方式とはどのように違うのですか。

 「従来方式ではコンサルタントが共通仕様書で工事の枠組みを設定するが、今回導入するプロポーザルでは共通仕様書はつくらず、業者から技術提案を求める。具体的には、施工各社が独自に劣化診断を行い、仕様をつくり、積算して見積書を提出する。そして、提案内容を管理組合とサポーターが一緒になって見極める。当然、KSKでも独自で基本的な仕様書を各現場で作成する。KSKには『防水』『塗装』『内装』のそれぞれの分野について専門業者のプロがおり、そのプロ集団が管理組合の立場に立って目利きを行う。決定的に違うのはこの点だ。
 もっとも、われわれはサポーターとして様々な意見を述べるが、それらの意見を集約し、最終的に決断するのは管理組合のみなさんだ」

■KSKがサポーターとして参加することになったきっかけは。

 「昨年12月に開いたマンション管理組合特別セミナー(主催・神戸市中央マンション交流会、協賛・KSK)で、新たな大規模修繕の取組みとしてプロポーザル方式を紹介した。たまたま、そこにドエル西宮の管理組合の理事の方が出席されており、興味を持っていただいた。その後、草刈理事長と私で何度か現地に足を運び、管理組合のみなさんに詳しく説明したところ、『このやり方が正しい』と評価いただいた」

■一昨年末にコンサルへのバックマージンの問題が大きく報道されるなど、住民の業界に対する不信感もあった。

 「大規模修繕の世界では、割高な工事費や過剰な工事項目・仕様の設定がこれまでまかり通っていた。私が特に腹立たしかったのは、業者が工事金額を修繕積立金にできるだけ近づけようとしていたこと。いわゆる高値誘導。お手盛りで工事金額を膨らませていた。
 マンションというのは当然、経年劣化する。修繕費用が定期的に発生するため、積立金は計画的に使わないといけない。それを分かっていながら業者が狙い撃ちして費消する。これが許せなかった」

■小野部長は大林組で長年、技術者として数多くの新築工事に携わってこられた。建築のプロから見れば問題だらけだったと。

 「やはり不要不急な工事は避け、余ったお金は次の修繕に回す。積立金はできるだけ残す。これが発注の基本。コンサルや業者の言いなりになって無計画な大規模修繕工事を繰り返せば、将来的に区分所有所に臨時の負担を求めることになる。その頃には住民の高齢化も進み、多くが年金暮らしかも知れない。想定外の数十万円の出費は気の毒だ。ただ残念ながら、住民の方々の認識も低いと言わざるを得ない。ムダな支出を削減し、自分たちの資産は自分たちで守っていく。そういった目覚めた管理組合にならないといけない」

■ドエル西宮の大規模修繕において業者に求めることは何か。

 「簡単に言えば、『本当に必要な工事』と『不要不急な工事』を見抜く力。これが業者の技術力だ。例えば、塗装工事では、雨掛かりが多く紫外線を受けて劣化が激しい部分がある一方、玄関周りなど紫外線も少なく雨掛かりでない部分もある。この場合は部位によって仕様を変える。また防水工事では、一回目の大規模修繕では屋上防水を調査したうえで、できるだけ部分補修にとどめる。要するに、『積立金ありき』で一様にやり替えるのではなく、施工にメリハリを利かせた技術提案をしてほしい」

■これまでの公募条件は、経営事項審査(P点)で900点以上、資本金1億円以上といった高いハードルが設定されていた。それが参入障壁となり、不正の温床にもなっていた。今回の条件について詳しく。

 「最大のポイントは経営事項審査の項目を公募条件から外したこと。さらに資本金を5千万円以上とし、施工実績に関しても下請工事を含めて過去3年間で8件とした。ほかには近畿地区に本社があること。この条件だと、近畿で大規模修繕工事を主力事業とする業者はほぼ網羅できる。これではさすがに談合はできない」  
 「また、オープンブック方式(施工体制事前提出方式)による施工も条件とした。これも大きな特徴。元請と一次下請との契約金額までを開示して、工事内容とコストを透明化する。なお、フィー(経費と利益)については10%〜15%を確保する。管理組合のみなさんも適正利益は認めてくれている。一方、職人が意欲を持って働けるよう、工事監理では段取りにも気を配る。品質を高めるうえで重要なことだ」

■しかし、「地元の中小業者に頼むより、大手業者に任せた方が安心」。そう考える住民も多いのではないでしょうか。

 「ここ近畿地区においても東京の大手業者のシェアは圧倒的に高い。資金力はもちろん、知名度もある。地元業者はその足元にも及ばない。他方、技術力の高い地元業者は近畿地区にも多数存在するものの、殆どが公募条件によって門前払いにされ大手業者の下請に甘んじてきた。それが現状だ」
 「今回も当初は『地元業者で大丈夫か』との声もあった。つまり、技術力の担保や工事瑕疵、倒産リスクへの懸念だ。それらについては工事完成保証や瑕疵保険などの制度を一つ一つ管理組合に説明し、何とかご理解いただいた。
 確かに住民のみなさんの大手指向は根強い。とはいえ、その住民が困った時に真っ先に駆けつけて対応するのは『まちの大工さん』、地域の専門業者である。ムダな重層構造を是正して、彼らに直接仕事をしてもらう。それが地域の活性化にもつながる。だからこそ、ドエル西宮の大規模修繕では『地元業者に任せて全く問題ない。出来栄えも素晴らしい。しかも安い』と。そのことを是非とも証明したい」

【東急ドエル・アルス西宮山手の概要】
 所在地=西宮市一ヶ谷町1番54号
 建物概要=鉄筋コンクリート構造地上7階建て1棟、延べ4471.94平方メートル、総戸数50戸
 竣工=1995年



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