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interview
阪神地区生コン協同組合(阪神協) 幸森俊夫理事長  【平成22年3月15日掲載】

値上げ、工場集約事業に全力

需要創出にも積極的な取り組み

通じぬバラバラの活動

「コンクリートから人へ」真っ先に抗議 


生コン業界および組合員各社の経営安定化を目指し、平成20年10月24日に設立された「阪神地区生コン協同組合」(阪神協)。これまで協同組合に属さず単独(アウト)で活動してきた50社が結集した若い組織で、他の協同組合に先駆けて値上げを打ち出すなど、そのスピード感ある取り組みが生コン業界だけでなく建設業界からも大きな注目を浴びる。一方、市場が急速に縮小する中、個別の利害調整を図りながら事業を速やかに進める組織運営には課題も残る。業界諸団体がその存在意義を問われている中「自分たちが売る生コンの値段は自分たちで決める」と改めて決意を示す幸森俊夫理事長に話を聞いた。(聞き手・中山貴雄)

■阪神協の設立から約一年半が経ちました。これまでの活動状況についてお聞かせください。

幸森理事長

「総会で決議した3点セット、具体的には、4月1日から出荷ベースで1万8千円/立方メートルの値上げを実施すること。工場集約事業を推進すること。そして『協同組合に所属してもらいたい』というアウト業者への呼びかけに注力しています」

■阪神協の活動は設立時から注目されています。

幸森理事長

「私どもは『値戻し』『値上げ』に関し、これまで業界の中で先陣を切ってやってきました。自分たちが売るもの、つまり生コンの値段を自分たちで決めること。需要が少ない時こそこれが一番大事だと思い活動しています。大阪兵庫生コンクリート工業組合のメンバーとして方向性を明確に示すことで、隣接する協同組合に対しても良い影響を与えることが出来たと確信しています」

■生コン需要が激減しており、会員各社の経営状態も厳しくなっていますが。

幸森理事長

「需要と供給のバランスが崩れてしまっています。数量が年々減ってきており、今期は出荷量が全国で4,200万トンを切る見込みとだと言われてます。これはバブル期に比べて半分以下の数字です。そのような状況を考慮すれば『生きる術』として構造改善事業、いわゆる工場集約の実施が必要不可欠です」

■工場集約事業の進捗状況については。

幸森理事長

「阪神協では、全生連(全国生コンクリート工業組合連合会)から全国で2番目、昨年12月28日に広域協(大阪広域生コンクリート協同組合)に続いて認証をもらいました。全生連は平成22年4月から平成27年3月の5年間で全国3,911工場のうち1,200工場を削減するという方針を出し、私ども阪神協でも実施に向けて必要書類の提出などを進めています。現在、阪神協には55の工場があり、単純計算では5年で17〜18の工場を減らすということになります。しかし削減数にこだわるのではなく市場や金融機関(商工中金)の対応、広域協の動きも見極めながら慎重に進めていきます。まずは阪神協として公平性を持たせるために、シェア運営と共販事業を行い総量規制をしなければなりません」

■極めてハードルの高い事業になりそうですが。

幸森理事長

「他の協同組合では、これまで人員削減などいろいろな集約事業を実施してきましたが、これまでアウトだった私どもにはその経験がありません。自主廃業できるところはむしろ優良企業です。儲からないから清算してやめようと。そんな会社が何社あるでしょうか。今回の事業は国の施策ではなく、あくまで任意のものですし簡単にはいきません。業者数を減らすことで組合員各社が数量を獲得し値段を上げていく。これは長期的な取り組みであり、やはり業界や協同組合の方々の理解と協力がなければ動きません」

共販事業実現に向けて話し合い

■共販事業の検討は。

幸森理事長

「多くの協同組合が懸念しているのが与信不安です。阪神協でも4月1日から共販事業を実施するため販売店会にも『卸会』の立ち上げをお願いして、 どういった形がスムーズに移行しやすいか実現に向け毎週話し合いを行っています」

■縮小する市場に対応する以外の事業は。

幸森理事長

「構造改善事業をするから定価を上げるというのではなく、今後は原材料の市況や品質管理なども組み込んでいきたいと思ってます。 また需要創出にも積極的に取り組んでいきます。阪神協としては昨年九月に開所したグリーンコンクリート研究センターを技術開発の拠点と位置づけています。 生コン業界最大級の研究設備を有するこの施設で、業界の先頭に立って品質保証システムの強化、 合わせてポーラスコンクリートを軸とした新規用途の開拓なども進めていきます」

■昨年末に組合脱退者が多く出ましたが、これについては組織としての課題もある。

幸森理事長

「脱退の件については現在、個別およびブロックで対応しており、もう一度復帰するように要請もしています。 協同組合として相互扶助でやっていると、当然、組織としての規制やルールがあります。だが、それにそぐわない会員の方もいます」

■やはり意識にギャップがあり、なかなか埋まらない部分もありますね。

幸森理事長

「阪神協は単体の協同組合としては数も多く、カバーしているエリアも広いですから。大阪広域のエリアに加えて神戸、 神明のエリアも含め55の工場があり、組織運営する上で地域差を実感することも多々あります」

■若い組織のため組合としての活動に慣れていないところもあるでしょうから…。

幸森理事長

「お互いの弱い所を補うというのが相互扶助の基本精神です。アウトで活動していた業者を集めた協同組合であり、 目先の個社の利益を優先する考え方も根強いと感じます。しかし個性あふれる会員が多く、お互いの良い部分を生かしていくことで団体として 強烈なパワーを発揮できると思ってます」

■やはり時間をかけた話し合いも必要です。

幸森理事長

「阪神会という任意団体を平成20年4月に立ち上げ助走期間を設けながらこれまできましたが、 教育して意識を変えてもらうには時間がかかります。しかし地道に粘り強く意識改革していくしかありません」

■「団体が個社に何かをしてくれる」のではなく「個社が団体をうまく活用する」という発想に切り替えないと…。

幸森理事長

「脱退した方と個別で話をすると、現在の生コン業界は、もう個社でバラバラに活動していては、どうにもならない状況だと いうことはみなさん認識してます。きちんと話をすれば協同組合の意義、役割を理解して戻ってきてくれる業者もいてくれます」

■最後に民主党の「コンクリートから人へのキャッチフレーズ」について。

幸森理事長

「これについては業界では私ども阪神協が真っ先に抗議しました。業界全体のことを考えると当然必要な行動です。 世間の人にコンクリートが悪いという間違った印象を与えてしまいます。また、その産業に携わる人たち、その家族が肩身の狭い思いをしています。 コンクリートはキロ当たりで一番安価に市民の生命・財産を守ることができる材料で、変わるものはありません。 これまでの政治の誤りをコンクリートに例えて表現するのはおかしいと思っています」

■本日はお忙しい中ありがとうございました。今後も生コン業界の正常化に向けた阪神協のインパクトある活動に期待しています。



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