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interview
関西鉄筋工業協同組合 岩田正吾副理事長  【平成22年3月8日掲載】

鉄筋工事の重要性訴求

技術展出展で新たな道筋

業界外へも積極的に情報発信 


躯体工事の中で、その骨格ともいえる役割を果たす鉄筋工事。耐震偽装問題以降、鉄筋工事のあり方が注目されその重要性に対する認識も高まってきている。昨年12月に大阪で開催された「建設技術展2009」(主催・国土交通省等)に、専門工事業として関西鉄筋工業協同組合(田村春雄理事長)が初めて出展し、来場者の投票によるベストブース賞を獲得するなど、好評を博した。出展にあたってのまとめ役を果たした副理事長の岩田正吾氏(正栄工業社長)は「業界が一般の方々に理解されていなかったことがよく分かった」と出展を振り返る一方で「今後、我々が進むべき方向性も見えてきた」とする。その岩田副理事長に、鉄筋業界の課題やその対応方策などについて聞いた。(聞き手=中山貴雄)

■初めに技術展への出展への経緯からお聞かせください。

 「鉄筋工事の重要性をまず知ってもらいたいというのが大きな動機のひとつです。一つの建物、構造物の中で鉄筋がどれだけ重要な役割を果たしているか、また我々、鉄筋工事業者がどれだけ大きな責任を負って仕事をしているかをアピールし、理解していただきたいということです」 

 岩田副理事長は、9年前に引き渡したマンション工事でクラックが発生し、その原因を巡ってトラブルがあった事例や、姉歯問題が注目されていたころ、 一般の人から「プロの職人として見抜けなかったのか」と問われたことを挙げる。

 「我々の仕事は設計図面の通りに仕上げること。どんなに難しい配筋でも図面通りに仕上げるのがプロの仕事であり我々の常識です」

 しかしながら、世間の見方は違うことを思い知らされたという。「建設業界の常識は世間には通じません。そこを踏まえた上で、 社会に鉄筋工事の重要性を情報発信し、エンドユーザーとの相互理解の必要を2、3年前くらいから強く感じていました」

■組合、業界としての積極的な広報活動の必要性ですね。

 「ただ、そのためにはこれまでと同じようなことをしていてはだめだということを思っていたところに、今回のお話をいただきまして出展させてもらった訳です」。 出展にあたっては「鉄筋工事の重要性」をテーマに据え、若手メンバーで構成する経営委員会が中心となり「全員がかかりきりの状態」で取り組んだ。 

 「ものを言わない業界」とされていた建設業界、特に専門工事業者がこうした催しに参加するにあたっては資金・労力の確保など、多くの苦労があったが 「近畿地方整備局はじめ建設業振興基金の協力と、特に上部団体である全国鉄筋工事業協会の支援がなければ実現しなかったでしょうね」と振り返る。

■出展する前とその後で、何か違いみたいなものはありましたか。

 「準備段階から、建設業界の常識が本当に世間には理解されていないということを実感しました。例えば我々が日常使っている 専門用語や業界用語がそのひとつです」 

 このため、用具や資材メーカー等の担当者も含めての話し合いを持ちながら「社会に訴えることの難しさ、必要性といったことについて全員が認識し、 共通の課題として取り組めたことが最大の成果」と強調する。

 会場では高さ2.4メートルの規模で製作した鉄筋2階建て住宅や橋脚の模型の展示、「適切な配筋と不適切な配筋」模型など 「目で見て理解してもらうことや結束作業の体験、 触って感じていただく事など、身近に感じてもらえるように工夫をしました」

 実演作業は分かりやすく好評だったようで、「一般の方々も非常に興味を持たれていました。我々が訴えてこなかっただけで、 もともと重要性を認識 しておられたのかも知れません」と、改めて広報のあり方、必要性を感じたとする。

 また技術展では「新たな道筋が見えてきた」とする。同展には、高校や大学による橋梁コンテストも行われていたが、 それに参加していた学校向けに出前講座の PRチラシを配布したところある大学からの依頼があり、同校を訪ねたところ今秋にも実現する方向で話が進められているとする。

 岩田副理事長は、「これまではこういった接点がなく、我々も求めてこなかった」と反省を踏まえて語りながら、今後はこれらの機会を捉えて、 積極的に情報発信をしていくこととし、その一環として今回、技術展の様子を収録したDVDとパンフレットを作成、関係方面に配布していくこととしている。

■形式的なPR活動より中身の伴った広報活動ですね。

 「最終的な目的は施主に鉄筋工事の重要性を理解してもらうことですが、今回の技術展では出展内容が評価され、来場者が選ぶベストブース賞を受賞することができました。その総評の中で、ものづくりの原点を改めて考えさせられる出展であったとのコメントをいただき、我々の伝えたいことが、少しでも伝わったのではと感じています」。 

 国土交通省では、基幹技能者を評価する入札方式の試行を実施し、日本建設業団体連合会でも技能者の賃金について触れるなど、 鉄筋工事に限らず専門工事業者を取り巻く環境が変化しつつある中で「職人が大事だと言いながら我々は何をしてきたのか」と自問し、「業界の中だけで訴えてきた」と言い切る。

 このため岩田副理事長は、業界以外からの意見を聞き「その中で改善すべき点が見つかれば」とし、さらにこれらの活動は業界を次の世代に引き継ぐものであり 「二十年先を見据えた行動が必要」と強調する。「これからは職人とのコミュニケーションを密にし、組合が職人の代弁者として活動に反映させることです」と語り、 今後は全国の組合と連携し、より大きなパワーとするため「関西がその発信源になりたい」と意欲を見せた。

(文・渡辺真也)


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