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interview
中島裕之 ・ 社団法人土木学会関西支部長  【平成21年11月19日掲載】


「建設技術展」でリクルート支援

道路や橋梁などメンテナンスにも重点を
 


(社)土木学会関西支部は、毎年、土木の日に当たって、関連した幅広い行事を展開している。今年は、12月開催の建設技術展で、学生を対象としたリクルート支援を行うのが大きな特色。中島裕之関西支部長〔阪神高速技術(株)代表取締役社長〕に、今年の企画、本部が準備を進めている公益法人化、土木が果たす役割や今後の社会資本整備の在り方などについて聞いてみた。 (水谷次郎)

---土木の日の主な行事を教えて下さい。

中島関西支部長

「今年は大きな行事の一つであった年次学術講演会が、新型インフルエンザの関係で予定していた学校が休校になり、中止せざるを得ませんでした。しかし、それ以外は市民参加の見学会など、従来通り順調に実施し、皆さんから好評を得ています。また今年も土木の日に合わせて、「土木の日ポスター」を募集しました。6月1日から9月7日まで募り、子供部門800件、一般部門106件と多くの市民に応募していただきました。各機関にポスターを送付し、土木の日をアピールしています。さらに、今年は新たに学生のリクルート支援を企画しました」

---具体的にリクルート支援とは。

中島関西支部長

「土木学会には、あらゆる職域の人たちが所属されています。今年は専門分野の方々にご協力いただき、土木学会が共催する建設技術展(12月2日〜3日)で特別なコーナーを設け、再来年に就職する学生たちを対象に土木実験などによって土木の魅力にふれていただき、就職の手助けにしていただこうという企画です。そのための相談にも乗ります。土木実験では、四角、丸、アーチ型など、トンネルの断面形状によって構内がどう違うのか、沈埋函の躯体を水圧でくっつける実験、あるいはモデル吊り橋を利用して、どういう形で荷重に耐えられるのか、力がどう伝わっていくのか、さらには高速道路における地盤の滑りなど、8件の実験を予定しています。これらを体験していただいて少しでも土木構造物に興味を持っていただければ、土木学会としてもうれしい」

「教職員に対しても、7月に実施した市民対象の行事の中で、研修会のような形で防災について考えていただきました。地下街に水が入ってきた場合、階段を上がれるかどうか、実際体験していただいて防災教育の一環にしてもらおうと。参加された教職員の皆さんからは、貴重な経験だったという報告を受けています」

---若い土木技術者を育成していこうというわけですね。

中島関西支部長

「学の世界では土木工学科という名前が非常に少なくなって久しく、また、土木の分野に入ってきても、その将来に必ずしも洋々たるものを見出せない若い技術者が多いようです。そうした人たちに土木は重要な社会基盤であり、土木に期待している人も多いということを分かっていただきたい。学術的には、コンクリート構造物の講習会、材料劣化についての研究会報告を行ったり、構造物のメンテナンスや新しい点検のための手法などについて研究を重ねています。一般市民に対しても、土木の仕事をしてみたいという若い人が出てくることを願いながら各行事を展開しています。市民見学会で、若い人がスケールの大きな構造物をみて感動されている顔をみるのは、何とも言えないうれしさがありますね」

---各支部とも会員の減少が大きな課題になっています。

中島関西支部長

「関西支部の賛助会員は平成21年度当初に比べると、7〜8%減になっています。非常に厳しく、会員と協賛団体と半々の年間予算で運営しています。技術講習会、技術賞の表彰などは活動の原資になります。また、こうした活動を支えていただいている賛助会員にも、少しでもお返えしできればと思っています」

---社団法人から公益社団法人への準備が進められています。そのメリットは大きいですね。

中島関西支部長

「本部で公益社団法人への移行を内閣府に申請されており、今年度中に法人化される予定です。認可されますと、まず公共性が認められる。これが一番大きい。それと財政面でも優遇措置が受けられます。本部で財務を統括して組織が明確になり、土木学会の地位がさらに向上するということですね。これに沿って各支部とも規約の改正を行っています。しかし、基本的には各支部とも従来通りの活動と、それを支える財政面について大きな変動はないと思っています。関西支部の活動は、これまで様々な形で工夫し財政の裏付けを持ちながら行事を行ってきた80有余年の長い歴史があります。今後もこの伝統は引き継いで関西支部の独自性を発揮していきたい。関西支部の心意気は高いですよ」

---日本の社会資本整備の在り方についてはどうみておられますか。

中島関西支部長

「社会資本の整備は、日本が持続的発展していくために必要なことです。しかし、残念なことに将来構想が見えてこない。大きな意味では、道路のネットワーク構築、ダム、港湾、橋梁などの整備は、日本国民が豊かさを実感できる重要な施設であるのは間違いありません。それに対して、これまで進めてきたことを踏まえ、今後、どう考えていくのか、非常に重要なことで、その姿がよく見えてこないということですね。自然災害のリスク軽減、地球規模での環境保護、都市再生の実現など、いかに推進していくか、その力を抜くと日本の発展も継続もあり得ません。結果として、将来、豊かな国民生活が難しくなると思います。社会資本整備の必要性を、国もご理解いただきたい。土木学会としても、そのための発信が大事だと思います」

「すでに整備された社会資本をいかにして良好な状態で維持していくか、これも非常に重要な事業だと思います。中長期的に5年、10年先をみますと、道路や橋梁など老朽化した構造物に対して確実に手を入れていかなければ、今後健全な状態で維持できなくなり、機能が低下する恐れがあります。もちろん技術的な革新は必要ですが、いかにメンテナンスしていくか、そこに資金を投入していくかでしょうね。結果的に将来につけを残さないことが大事だと思います。土木技術者を目指す若い人たちに、土木学会もしっかりとした方向性を示してあげなければいけないでしょう」



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